リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その23

『風来坊探偵 岬を渡る黒い風』(1961)
ニュー東映時代に撮られた風来坊探偵シリーズの2作目だが、シリーズと言っても前作の『赤い谷の惨劇』と併せ2作しかなく、それらは同時撮りの上、時間は1本60分程度しかない。本作について、深作欣二は監督としての腕を試すために撮った長い予告のようなものであると回想しており、また千葉真一を売り出すという目的もあったというが、それにしては(という言い方は不適切かもしれないが)随分と面白い。内容はというと、ライフル構えた風来坊名探偵の千葉真一が不可解な事故の調査をしていく中で地元にはびこる悪を突き止め対決し、またライバルである曽根晴美もそこに絡んでくるという東映流無国籍アクションである。前作が山だったのに対し本作は海を舞台としており、冒頭、嵐に揉まれる船の特撮でまず引きつけ、その後60分程度の中でミステリーを交えつつ軽快なアクションをテンポよく扱う手腕は流石である。画面の使い方も良くて、特に狭い場所でのアクションはこの頃からお手の物だったようであり、運送会社事務所内部での格闘や研究所内で銃撃戦を繰り広げる場面の見せ方は中々良い。シーンの端々に「なるほど後にいくつもの傑作を撮る監督の原点はこれか」と納得できるよう技を見てとれる作品なのである。ちなみに千葉真一とロマンス的な関係になる相手として北原しげみがキャスティングされてはいるんだけど、それより曽根晴美とのイチャつきの方が気になりますね。

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『ファンキーハットの快男児(1961)
『風来坊探偵』に続いて撮られた、やはり千葉真一が探偵役で主演する2本連続の中編。2シリーズの違いといえば、こちらは舞台の中心が東京であり、キャラクターもコミカルであるという点が挙げられる。しかし本シリーズの一番の特徴は、それは特に1作目に顕著であり驚きでもあったのだが、とにかく自由であることなのだ。街中で無駄話をしながら車を走らせるだけのシーンや、そもそも最初のショットからして太陽光をもろともせずに並木を捉えているところからも連想されるように、これがなんとゴダールの『勝手にしやがれ!』のようなのである。偶然かとは思うが「勝手にしやがれ!」と車内で言い捨てる場面もあるし、物語はテンポが良いというよりはむしろ場面をスッ飛ばして進んでいるようである。カメラに関しても、序盤から中盤にかけては特にのびのびと動いている。深作作品で手持ちカメラが用いられたのはおそらくこの作品からだろう。全編に流れるジャズもカッコいい。さらに突然器械体操を見せつけるなど、千葉真一の体操選手経験が生かされたシーンも用意されており、終盤には大勢を相手に、ロケーションを活用しながら爽やかかつ軽妙に肉体を駆使する千葉ちゃんの姿も見られ、アイドル映画としても文句のつけようがない出来になっている。話としては誘拐だ株だ裏取引だと言っておきながらも、その重さを微塵にも感じさせない、こんな作品も撮っていたというのは素直に驚きであった。
ちなみに潮健演じるタクシー運転手と殴りあうという場面が中盤にあるのだが、この場面については深作欣二作品にしてはカメラが珍しい距離にあるアクションだったと思う。

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