リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『龍三と七人の子分たち』を見た。

おじいちゃんとあそぼっ!
北野武監督17本目の監督作。主演は藤竜也近藤正臣中尾彬品川徹安田顕勝村政信ら。撮影は柳島克己、音楽は鈴木慶一


かつてはやくざの組長を務めていたものの今やすっかり歳を取り、息子の家で居場所がない毎日を凄いていた龍三(藤達也)。そんな彼の元へ、オレオレ詐欺の電話がかかってくる。まんまと騙されそうになった龍三だが、元子分のマサ(近藤正臣)と共に現金の引き渡しに出向いたところ元ヤクザという事に恐れをなし、受取人は逃げてしまった。その日の夜、マサと飲んでいたところかつての仲間の一人だったモキチ(中尾彰)が京浜連合というグループとトラブルを起こしている現場に遭遇する。村上(北野武)という刑事から京浜連合のことを聞いた龍三はかつての仲間を再集結させ一龍会を結成。京浜連合と抗争の構えを取るが・・・

北野映画における特徴の一つに繰り返される遊戯というものがあると思う。例えば『その男、狂暴につき』のサッカー、『3-4x10月』の野球、『ソナチネ』の紙相撲、『BROTHER』のバスケなどがすぐに思いつくが、大抵、北野映画では何かしらの遊戯が行われている。遊戯は登場人物たちの目的とは別にだらだらと続いてゆき、その終わりとして死が待ち受けていたり、自ら選んだりする事が多い。近作で言うと、例えば『アウトレイジ』はヤクザの組織的パワーゲームであるといえるし、1作目のラストではやはりソフトボールを行っている中に死(死んでなかったけど)が待ち受けていた。
では本作はどうかというと、全篇遊戯によってできている作品だと言えるように思う。ただしそれは死ぬまでの間の暇つぶしではなく、かといって『みんな〜やってるか!』のように徹頭徹尾意味のないシュールさでもなく、『菊次郎の夏』の終盤のように、それを行うことで生へ向かっていくタイプの遊戯である。ジジイたちは既に家庭から、社会から1歩も2歩も引いたような地点でかろうじて生きているという状況なのだが、遊戯をこなしていく中で変化する。そして遊戯の終わりに際してもそこに死の事実はなく、雰囲気も漂っていない。むしろ「このジジイたちならそう簡単にくたばりそうにねえな」くらいのことを思わせる幕引きであった。
そういう点で本作もやはり北野作品だと思えるわけだがこれまでとは違うこともあって、それはその遊戯の中に北野武自身が参加していないということである。本作で北野武はジジイたちによる遊戯の残響を追いかけてゆくのみであり、その姿は『アウトレイジ ビヨンド』で「もう疲れた、やめよう」と言いつつ遊戯の中に強制的に参加させられていた大友よりもさらに諦観と疲労の先にあるかのようであった。



その北野武の冴えない姿からも分かるように、本作は全体に緩い。どちらかと言うと説明的な本作は、ヤクザのギャグですよ、ジジイのギャグですよと細かくネタを振りつつさらりと人情話も見せ、それらを笑いに転換させる。終盤の不謹慎極まりない中尾彰の利用方法で大笑いできるのは、このような丁寧な積み重ねの結果であると言えるように思う。ただしその細かいギャグまですべて笑えるかと言うとそれほどではなく、結果緩い、締まりがないという心地ちは抜け切れない。バスジャックをして街中を走らせてみても速度から何から『狂った野獣』にならないのは、その緩さが意図的なものであったからであろう。そんな中途半端な笑いなら別にそちらは期待していないのでまた虚無と暴力の世界に戻ってきてほしいというのがボクな正直な気持ちではあったが、しかし今思い返しても中尾彰の利用されっぷりには爆笑したし、この映画でしか見られなさそうなので、これはこれで悪くないのかとも思う。ちなみに画面もいつもの武映画に比べれば冴えないものの、例えば蕎麦屋で駆けをするシークエンスは切り返し方も画面の見せ方も良く、また霊柩車など車を捉えたショットは流石と言うべきものがあったと思う。それとジジイがこれだけタバコを吸っている映画というのも、なかなか珍しい気がする。



ところで、キャスティングも北野武作品の良さの一つではないかと思う。道産子としては安田顕北野映画に出演しているというだけで相当嬉しいものだが、主要登場人物だけではなく、例えばその安田顕演じる西の下にいる佐々木(川口力哉)であるとか、龍三の息子の奥さんであるとか、龍三に絡む若いチンピラ等のキャスティングも抜群なのだ。そして僕が本作で最も膝を打ってしまったのが、2代目榊こと辰巳琢郎である。あのしゃべり方の、あの顔の、何たるうさん臭さ、何たる詐欺感。本作は詐欺が発端となって始まる物語であり、次第に龍三らは詐欺グループと対峙することとなるのだが、他にも龍三の息子が勤める企業は偽装問題に絡まているわけだし、そして龍三もまた殴り込みをかける際、電話越しに息子へ嘘を絡めて思いを伝えようとするなど、詐欺が物語全体を貫いていると言える。そしてその中でも抜群の嘘くささを発揮していたのが辰巳琢郎なのだ。北野武最新作というハードルの高さゆえに、期待はずれな部分はいくつもあったが、やはり色々と無視できない面白さもあったので、とりえあえず今作はこのくらいの面白さかと確認した上で、次回作がどうなるのか期待しつつ待ちたいところである。

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