リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』を見た。

私たちが日本のPerfume

テクノポップユニットPerfumeが2014年から2015年に駆けて行った「Perfume WORLD TOUR 3rd」や「SXSW 2015」等の海外での活動を中心に記録したドキュメンタリー映画。監督は佐渡岳利、ナレーションはハリセンボンの近藤春菜が務めた。


世界251の国と地域で配信され、世界中で好成績を記録したアルバム「LEVEL3」。海外での人気を確実のものとしつつあるPerfumeが2014年から2015年の間に行ったワールドツアーとその舞台裏に迫る。

ライブ準備から本番、終了後のダメ出し、そして次のライブへという繰り返しが基本的な構成となる。しかしそれは単に同じことを繰り返しているのではない。各ライブごとに反省点を挙げ、またライブ会場の大きさや盛り上がりの感覚から臨機応変に曲目や演出を変更し、良いライブを作るということに向かってチームが一丸となる様子が、ここには記録されている。ライブの度ステージ裏からの映像が繰り返されることや、そもそもタイトルにもある通り、この映画はライブツアーのドキュメントであってライブ自体の記録映画ではないから、曲やダンスそれ自体についてはあまりスポットライトが当てられず、またPerfumeというグループの軌跡や奇跡についてくどくどと語られもしない。もしそうであったならば、結成当時の映像やそのころから存在を知る人物へのインタビューがあって然るべきなのであろうが、映像は数秒。メンバー以外へのインタビューもほぼゼロである。またメンバーへのインタビューにしてもライブとライブの合間に自分たちについてやツアーへの思い等について語っている様子が、少しづつ挿入される程度だ。それよりもいかにしてライブがつくられ、それをファンと共有するのか、ということに力点の置かれた作品となっている。



しかしこれは、当然そうなるべきなのだ。というのも本作はメジャーデビュー10周年、結成15周年という節目の年に制作された作品であるとはいえ、ここでPerfumeが歩みを止めるというようなことはないからである。そのため、Perfumeとはいかなる存在なのかということについて長々と振り返ったり、評価を下す必要はない。問題は今と、そしてこれからなのである。ライブ自体よりも作り上げる過程に視点を絞ったのもやはり、本作を足跡でも目的地でもなく、夢の中で描いていた場所へ「歩む」作品とするためであろう。ワールドツアーによって新しい世界へと踏み入れ、そしてここからまた歩み続けることで、さらに大きな存在へとなることを約束するのが、本作のスタイルなのである。そしてエンディングテーマでもある「STAR TRAIN」は、大陸的な広がりとでも表現したくなる音と本編を見た後であれば落涙せさざるを得ない歌詞によって、その約束に対しての第1歩になってくれる。



ドキュメンタリーの中に込められたドラマ的魅力とはこのようなものであったと思うが、もちろんそれが本作のすべてではない。例えばメンバーの個性。インタビューによってもそれは語られるが、言葉以上に、記録された映像によってより強く印象付けられるだろう。ライブを作り上げるという作業の中に、長い間一緒にやってきたことを感じさせるような瞬間が散りばめられており、そこに個性を見てとれる。こういった映像の魅力も、忘れてはならない。
しかし映像面で最も注目すべきなのはライブ後、控室で3人が脚のマッサージをしている部分である。まさにこの、脚にこそ注目してほしいのだ。特にかしゆかが、椅子に座りながら子供のように脚をパタパタさせる姿のなんと素晴らしいことか。プロとしての脚でありながらライブ後の解放感から無邪気さをも纏ませ、その美しさと生々しさの混濁した様子が・・・などといった無粋な屁理屈を無効化させるほど素晴らしい。
またライブ以外の部分、移動やオフショットにも見所は多く、例えば最初のアメリカ公演では丸一日観光を楽しむ姿も収められている。ここでは3人が着ている服の違い、好みの違いなのか、3人とも面白いくらいに趣味の違う服を着ている。このように意図せず映ってしまったような、ナチュラルな事実に目を向けるというのもまた、ドキュメンタリーの面白さではないか。
移動シーンについては、実はこれは不満の残る部分でもあって、CG処理された映像などは使わずに、単純に車内の映像を繋いで、よりロードムービー的にした方が良かったのではないかと思う。それは映画において乗り物に乗って移動するという行為は、時に素晴らしい効果を持ってしまうからだ。事実、NYへ向かう車内であ〜ちゃんが曇った窓に文字を書くシーンの、期待と不安が夜に溶け込みつつも、美しい夜のライトにふと照らされる瞬間の、あの切なさは一体何なのであろうか。



このように魅力の多い作品ではあるが、しかしドキュメンタリーとして時代や国を超越する普遍的な価値を持っている作品とは言い難い。Perfumeの活動内容とは別にして、映画としては、何かに挑戦しているようなものでもない。あくまでも、Perfumeというグループについての映画であり、そのファンへ向けての作品だと言っていいだろう。だがそれでいいのだ。大きな波風が立つようなことを楽しむグループではないし、安定した時のチーム力とその魅力を詰め込みつつ自分たちを示すようなスマートで手堅い構成こそPerfumeらしいとも思え、それでもう十分満足できるわけだし、なにより全世界のファンこと「俺たち」の反応を見れば、そのハアトにやはり感動し、Perfumeのファンであったということが嬉しく思えてくる。最後に目標として掲げられた2年後についても、本当にそうなってほしいと思うし、実現のためにこれからも応戦し続けたいと、そう思わせる映画であった。それでは、Perfumeファンクラブ会員からの報告でした。