リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その29〜下半期旧作ベスト〜

皆さんあけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、早速ですが、昨日書きましたように2016年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ、紹介したいと思います。並び順は単に見た順というだけです。ちなみに、昨年の旧作鑑賞数は218本でした。上半期ベストについては<こちら> をどうぞ。



王と鳥(1980 『やぶにらみの暴君 1952』)
これは傑作だった。デザインや動きの、ただひたすらな面白さ。ファンタジー且つSFのアイデアに満ちつつシニカルで現実を反映させたような世界観。そしていくつかの場面はキリコの絵画みたいでもある。階段が多く登場するが、王は殆ど自分の足では歩いておらず、主人公の少年少女はその多くの階段を下るという、縦の画面もまた非常に印象に残る作品。個人的には今まで見たアニメーション作品の中でもかなり好き。



『静かなる男』(1952)
陽光差し込む風景の美しさであるとか、窓枠から覗く顔、それに2度ある雨と風の中での抱擁とキスなどなど、画面から多幸感があふれ出ている。特に素晴らしいのは、モーリン・オハラがストッキングを外して水浴びした後の脚の輝きなのだが、他にも投げられる帽子とか宮崎アニメみたいな最後の喧嘩など、とにかく諸々全部最高。フォードの中で、といってもまだ15本程度しか見ていないのだが、ベスト3に入るくらい好き。

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眠狂四郎 悪女狩り』(1969)
真っ黒な背景、逆さづりの女、ぶら下がる箱からの死体飛出し、蝋燭、謎の舞踏集団、偽狂四郎と対決する森の美術、そして池広一夫監督お馴染み真上俯瞰などなど、外連味が凄い作品。物語上、市川雷蔵の登場は少ないが台詞は相変わらずの感じだし、女優陣も目立ってる。今年は眠狂四郎の未見作品を制覇しようと思う。

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トリュフォーの思春期』(1976)
なによりも坂道を歩いたり走ったりする子供たちの姿が魅力的で、大人から見た子供、というよりはちゃんと「子供たち」を捉えようとしている。密集した住宅でのやりとりや、時間になり教室から走りだすのがその教室内だけでなく、窓越しにも見える学校の風景がいい。タイトルにもある「思春期」なラストも好きで、どことなく塩田明彦監督の『どこまでもいこう』に近いものを感じる作品であった。



マジェスティック(1974)
怒りのスイカ農園主。急に始まる銃撃戦、大地を突っ切る車、狩場に誘い込まれる敵一味、水平に飛ぶブロンソン、家を舞台にした銃撃戦などの、位置を把握しながらの戦いは燃える。廃工場みたいな場所(ちょっと黒沢清みたいだ)や最後の車に乗るまでの長回しも最高。下半期見たフライシャー作品では『見えない恐怖』も良かった。



東への道(1920)
壮大なメロドラマ。ロングの画面からシーンが始まることが多いのだけれど、その中でも特に風景を切り取った画面の美しさがすごくいい。最後の流氷は確かに凄まじいとはいえ、個人的にはリリアン・ギッシュが過去ゆえに告白を受けようとしない場面の水面、光が反射する湖の美しさのほうが好き。水が激しさと緩やかさによって、恋愛の場面を彩っている。あと縦に伸びる一本道。ちなみにその、縦に伸びる一本道のうち、画面奥で雪合戦をしている子供たちがいるシーンはリュミエールが頭をよぎったりもした。

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パリ、テキサス(1984)
ヴィム・ヴェンダースは今までなんとなく見る気が起きないでいたのだけれど、これは面白かった。緑や赤の場面が多く、そして青もときたま印象的に出てくる。そして何より、歩いているシーンがいい。特に道路を挟んで子供と歩き続けるところは最高だろう。そして最後、ガラス越しに妻と会話するシーンは、お互い自分が話すときには相手に背を向けており、そのガラス窓の使い方も良かった。

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『浪華悲歌』(1936)
流麗に動き、歩きを捉えるカメラや冒頭と反転して水面に映る街や室内の画面構成、例えば電話交換手という立場を利用しての視線のつけ方など、当然のごとく素晴らしい。また面白いのは、金を横領した父親を、同僚が家まで訪ねに来る場面、父は傘の柄を見て家に入らず逃げる。また山田五十鈴の恋人は、彼女が自分の行いを告白した辺りから、画面上で顔を見せなくなっているという部分である。



『抜き射ち二挺拳銃』(1952)
斜面に聳える岩山の陰に隠れつつの銃撃戦とその位置関係。ここぞというところで派手な動きや馬の疾走を入れるアクション。窓を通り抜け家の内側に移動するカメラ。そして、ファムファタールに翻弄される男の一人称語りが頻出する、ノワール的話でもある。タイトで間違いなく楽しめるドン・シーゲルの一本。

抜き射ち二挺拳銃 [DVD] FRT-287

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『西部魂』(1941)
だだっ広い荒野に電線を張り巡らせていく。その下では馬車の移動があったりで、奥行きの存在感が印象的。また男たちの友情が育まれる中で、ある過去ゆえ1人が途中、真っ黒いシルエットに身を染める影の使いかたも流石フリッツ・ラング。最後の銃撃戦は布やカーテンの使い方、そして弾痕の跡をしっかりつけてゆくのが良く、また山火事スペクタクルまであるという楽しませっぷりが最高。

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『雷鳴の湾』(1953)
海底油田掘削譚。『裸の拍車』も『ウィンチェスター銃73』でも特徴的であった、アンソニー・マンらしい高低差も今作では例えば階段を使ったりして地味ながらも随所で発揮されており、またその立ち位置の差はキャラクターの関係性に繋がる。若干狂気を感じさせる夢追い人のジェームズ・スチュアートは基本上なのだが、最後の最後に彼がどういう位置で対立するかというのが面白い。そして冒頭と対になる車もいい。

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『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』(1975)
山下耕作監督の実録路線は美学はあるけど猥雑さは弱くどこか物足りないと思っていて、実際本作もそんな感じではあるのだけど、例えば2度ある橋の下にカメラを置いたところからのアクション(2度目は山下監督らしく花まで登場する)はカッコいいし、特に素晴らしいのは、風が吹き白い布の揺れる川岸での殺害シーンであって、これはロングショットの気持ち良さが抜群に素晴らしかった。

日本暴力列島 京阪神殺しの軍団 [DVD]

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『新宿の与太者』(1970)
一杯のラーメンをすすりあった菅原文太佐藤允の友情に泣く。ちょっと長めのショットで見せるパチンコ屋襲撃や即報復する文太の暴れっぷり。しかし同時に友情に熱い、というよりちょっと可愛らしさのあるキャラも良く、また照明、それにカメラが引いてからの車からの銃撃、歩行者天国の撮影も最高で、一体この、高桑信という監督は何者なのか非常に興味がわき、2017年はこの人の作品を見ていきたいと思わされた。

新宿の与太者 [VHS]

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『摩天楼』(1949)
圧倒的仰角と俯瞰は同じくキング・ヴィダー監督の『群衆』よりも強烈で、その角度がまず一つのスペクタクルだし、冒頭の廊下の伸びや並べられた机、それに話自体も『群衆』と似つつも対になっていて面白い。風でめくれる紙の演出、そして馬鹿でかいあの窓たちが非常にいいし、破壊と爆破の恋愛物語としてもまた、面白いのである。

摩天楼 [DVD]

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拳銃魔(1949)
ちょっとやそっとではないというくらい面白い。冒頭の雨からしてやられてしまう。そして強盗の長回しのみならず、車関連のシーンはカメラの動きからすべて素晴らしく、特にあの視線の交わりからのUターンは最高だ。もちろん、視線のやり取りはその男女が出会う射的場からすでに結びついているものでもある。ところで長回しの場面でもそうなのだが、クローズアップにするタイミングがうまい。ノワールらしい黒い影の映え方も女の存在感も素晴らしい。

拳銃魔 [DVD]

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以上が2016年半期に見た作品の中で特にお気に入りの作品でした。他にも、『年をとった鰐』の、何と表現していいのか言葉が思いつかないシンプルな良さであるとか、ヌーヴェルバーグ感を漂わせつつ天知茂の役に泣く中島貞夫監督の初期作品『893愚連隊』や、既に少し触れた『裸の拍車』『ウィンチェスター銃73』などアンソニー・マン作品。ニコラス・レイの『暗黒への転落』は冒頭の逮捕劇が無茶苦茶よく、その後も退屈にならない法廷劇の見せ方や判決が下るシーンのカメラ、そして多用される格子状の影に汗等々、画面で楽しめる作品だった。ウィリアム・A・ウェルマン『廃墟の群盗』はその廃墟描写もあることながらシュトロハイムの『グリード』を思わせる展開に、「見せない」最後の屋内アクションや、伏せる男達が印象的な作品だった。定期的に一気見したくなることが多い東映実録路線の作品については、以前ブログにも纏めて書いたことがあったのだけれど、今年も何度かブログを書きたいと思っています。特にDMM動画は作品が揃っているのでありがたい。
さて、去年の下半期旧作ベストでは本を読みたいなどと書いておりましたが、結局去年はあまり読めませんでしたので、今年もその目標は継続していきたいと思います。また、ブログの更新頻度も年々減っているので、なるべく改善したいところです。というわけで皆様、今年もよろしくお願いいたします。