リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

今年の映画、今年のうちに。2018年新作映画ランキング

年の瀬でございます。というわけで今年もやります、2018年に見た新作映画ベストテンです。今年鑑賞した新作84本の中から、次点も含めて11本を選びたいと思います。尚、新作の基準としては基本今年劇場公開となったものとしますが、地方ではタイムラグがありますので、僕が利用している映画館で新作として公開されたもの、となります。ただし例えば『恐怖の報酬』(77)のようなリバイバルは除外。Netflixオリジナルについては今年初めて日本で見られるようになったもののみ入れることとします。さて、前置きが長くなりましたが、そろそとベストに移りましょう。一応、ベストテン内の作品で個別に記事を書いている作品はリンクを載せておきます。



次点 A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー

個別記事では触れていませんでしたが、妻が家から外出する様を繰り返し同一ショット内で見るというシーンがあって、これは幽霊が通常の人間とは違う時間間隔へと移行し始めているということでもあり、同時に寂しさをも感じさせるいいシーンだと思います。このような寂しさとかわいらしさがショットの力によってほとんどあざとくなく表現されていることが素晴らしいし、愛を具体的な触覚によって「見せる」というのもまさに映画らしいといえるでしょう。完成度だけで言えばもっと上じゃないとおかしいと自分でも思いますが、ただそういった出来栄えよりも重視したい作品があるので、この順位というところ。
<感想>



10位 霊的ボリシェヴィキ

高橋洋監督が昨年脚本を担当した『予兆 散歩する侵略者』に続き、ラングを思い出す円による降霊術。語りの内容も怖いけれど、炎以降の終盤も怖い。それはミドルやアップにより顔と声/音で緊張を盛り上げているということもありますが、何より足・靴に杖といった足元への意識を序盤から強く印象付けているのが良いのだと思います。足音響く工場という場面設定、裸足で近づくこの世ならぬもの、靴を脱いでしまうということ、靴下で彷徨うこと。これら足元への意識が、物語に合わせて徐々にあの世とこの世とをのつなぎ目を露わにしていくからこそ、本作は怖いのでしょう。と、まぁ実際のところ1回見ただけではわからないことが多かったんですけどね。ただ面白かったからいいんです。大胆な光の演出も面白かった。



9位 アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

白人貧乏地獄と災害級のバカ野郎事件簿かつ毒親モノで、しかも画面のテンポと遊び、例えば人物へのズームなどが実にスコセッシ流で、勿論そこまで効果的な使われ方ではないけれども、僕好みのラインではありました。どうしようもない「アメリカ生まれ」の円環により、本人はそうと気づかぬまま間違った方向へ猛進し自爆する狂騒の中にあって、スケートをはじめとして登場人物たちはイメージとの戦いを常に行っており、それゆえ言葉と画面にの間には多々裏切りもありますが、だからこそ、トリプルアクセルに泣いてしまうのでした。ボクシングと重ねるところは駄目だと思うけどね。ところで災害級のバカ代表、ショーンの実際の映像には驚かされた。



8位 グレイテスト・ショーマン

一つ(に見える)ショットの中でも時間と空間を無視し、動きや道具で場面を繋ぐのは画面全体の嘘っぽさも含め面白く見られましたし、その嘘っぽさは頻出する回転の動きや影絵の表現と合わさって偽物という物語にも繋がっている。ミュージカルシークエンスとしては「This is me」も素晴らしいけれど、バーでのスカウトとロープを使ったロマンスがそれぞれ空間や小道具と動作に凝っていて視覚的に特に冴えていましたね。ただ物語としてはそういうダンスシーンの流れが殺されないよう相当な、これはもう本当に駆け足になっていて、それゆえドラマ全体が、画面の良さに対して大きく見劣りするというのが弱点ではありますね。ところでこれ、キング・ヴィダーの『群衆』にちょっと似てないですかね。



7位 恋は雨上がりのように

陸上競技が題材として登場するものの、走りはほとんど抑えられむしろリハビリの話としており、だから小松菜奈は立ち尽くしたり、止まっていることが多いのだけれども、撮影や編集により空間と距離が関係がうまく描かれているため位置関係のドラマが映えいたのだと思いますし、そもそも基本的に撮影や照明がいい。また画面内のフレームという要素を積極的に取り入れられており、それも扉を開ける人としての大泉洋を効果的に見せていると思います。つまり、画面や人物の動きをまず基本として映画を作り画面を充実させているようなのですが、戸次重幸との会話はセリフも相まって心理に偏っているように思えましたね。とはいえ、最後の朝練の素晴らしさによって帳消しです。そして僕は小松菜奈のファンです。



6位 フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

愛おしく思っているふりをしながら子供を大人の道具のように扱う下品さなどは微塵も感じさせず、物語的な事柄とは別の、歩き、笑い、暴力、遊び、食事といった素晴らしい動きの数々が子供と大人、それぞれの目線により捉えられており、それ故に子供も家族も土地も貧困も、生き生きと画面上に浮かび上がっていたと思います。また大人は限界を迎えつつある一家の生き方について境界線から見守る存在となっていて、そんな役を体現したウィレム・デフォーは間違いなく名演といえるでしょう。停電におけるロングショット内での人の動き、ベランダでタバコを吸う姿と電灯といった、ロケーションを生かしたショットもいちいち最高。



5位 来る

子供のまま大人となった者たちが、自らの生き方ごと蟲毒と見立てられたマンションへと投げ込まれては呪いを充満させていくかのような儀式的作品で、それゆえに準備段階としての前半はわかりきったことを延々と誇張されているようであざとく長く感じるものの、しかし中盤以降はなにもかも誇張されて出鱈目だからこそ面白く見えるようになっていました。映画にとって出鱈目であることは時に深刻ぶるよりよっぽどまともで、理屈よりも今目の前にある地獄を描くという選択も、出鱈目の極致へと達する最終対決も、怖くはないけど娯楽としては正しいと思います。そして後半は、出鱈目かつ軽薄でばかげているからこその意外な切実さまで伴う。子供のまま大人となった個性の強すぎるキャラクターを演じる役者陣が素晴らしく、特に妻夫木聡松たか子、そして柴田理恵は使い方が見事。また走ってくる足や、ベランダに飛び出してからの血、そして殴ることなど、いいアクションもありました。そして僕は小松菜奈のファンです。



4位 きみの鳥はうたえる

豊かに引き延ばされた時間を贅沢に楽しむことはできるけれども、しかし時間は決して後戻りはできないのだし、いつまでもモラトリアムを享受することもやはりできなのであって、それゆえに夜の美しさが印象に残る作品にあって白日の下で走り出すというラストが訪れるこの作品については、見た直後よりもむしろ後になってから思い返すことが多かったのですが、そのこと自体この作品において指摘された甘さのような気もします。それにしても石橋静河は魅力的だった。これは彼女について理屈を並べ立てるのではなく、ただひたすら行動させることによる魅力なのでしょうが、こういった人物の動きが照明や色彩設計と相まって忘れ難いシーンをいくつも生み出していましたね。
<感想>



3位 ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

この作品を上位に選ぶのは決して報道の自由だとか、女性の強さだとか、政府への不信とかいった政治的もしくは現代的というような不埒な理由からではなく、ひとえにスピルバーグの演出によるものであって、それは時代の潮流などとは関係なく映画として見事だと思うからこそ僕は高く評価していますし、いつ見返しても面白いと思えるはずです。実際、同年公開の『レディ・プレイヤー1』なんかほとんど寝ながら撮ったんじゃないかと思わせるほど、本作のほうがよほど大胆で、活劇的で、素晴らしいアクションとダイナミズムにあふれているのですから。というわけで相変わらず精力的な2010年代のスピルバーグ作品においても、最も好きな作品です。
<感想>



2位 寝ても覚めても

いったいこの不思議な映画は何なのだろうかということについてはいくら考えてもいまだに答えを見いだせずにいて、記事を書きはしたものの自分自身その内容に納得した気にはなれず、ただ不意に、水辺と高低差と移動などといったシーンを思い出しては、「あぁ、あれはよかったね」とつぶやくばかりです。しかし、そんな混乱する映画に出会えたのが実際のところ何よりも嬉しく、これが恋愛映画だろうと、ノワールだろうと怪談だろうとサスペンスだろうともうそんなことは知ったことではい、という気持ちですね。ちなみに本作は今年僕が観賞した作品の中で、最もジャンルとしてのホラー的な怖さを感じた映画でもあります。
<感想>



1位 リズと青い鳥

見た直後から、あぁ今年はこの映画を超えるものはまず現れないだろうと思っていたけれども、やはりそのような結果となりました。しかしなぜこの作品が好きなのか、ということについては正直自分でもよくわかっていないところがあって、これが昨年の一位である『ジェーン・ドウの解剖』や、その前年の『キャロル』ならば自分でも説明できる気がするのですが、本作はそれらとはやや違った形で好きな気がします。もちろん、アバンタイトルから画面と音により提示される主題に対してのアプローチは素晴らしいし、願いがかなわないというのは個人的に好きな物語ではある。しかしどうもあれこれと言葉を並べるより、フルートの反射した光で戯れる2人の、残酷かもしれないけど美しい瞬間に抱いた感動を何よりも優先させて、今年はこの作品を1位としたいと思います。
<感想>



<まとめ>
というわけで以上が僕の2018年新作映画ベストテン&次点でした。見られなかった作品で特に気になっているのは『苦い銭』『ミスミソウ』『パンとバスと2度目のハツコイ』『SPL 狼たちの処刑台』『ゾンからのメッセージ』『ROMA/ローマ』『バスターのバラード』あたりですかね。やはり上映回数が少なかったり期間の短い作品はみずらいですし、netflixは後回しになりがちですね。
年々面白いと思う映画が少なくなっている、と最近は毎年書いているのですが今年は特にそれがひどく、新作の鑑賞本数こそ例年と同程度ではあるものの、正直ベストテンを選ぶほどもなかったかなとも思っています。ただ上位4位までの作品に関してはどの年度であろうとベストテンに入るような作品ではあって、まぁ4、5本そういう作品を映画館で見られるのであれば御の字、といったところですかね。これは「最近の映画はつまらない」ということではなく、単に僕の感度の低下が問題なんだと思います悲しい。
今年はブログを書く回数がかなり減ってしまったので、何とか来年はベストテンに入れる作品だけでも、とは思っていますけれどもしかしやはり面白いと思う作品が減ってきていることともこれは関連もしておりますので、旧作の更新を増やせたらなと思っております。言うは易しとならないようにしたいですね。
さて、今年も見る作品はある程度厳選したため、本気でこれは酷いと思うような作品はほとんどありませんでした。ただ「ほとんど」ですので、期待値より下でがっかりしたというような落胆もあれば、それを超えてひどいと思った作品も多少はあるということなんですよね。というわけで以下、例年通り今年見た新作の全ランキングと簡単なコメントを載せておきます・・・と言いたいところですが、今年は時間がないのでベスト20までと、つまらないという気持ちのほうが上回るワースト5を書きたいと思います。年始に時間ができたら書き直すかもしれませんけどね。



<2018年新作映画ランキング>
1 リズと青い鳥
2 寝ても覚めても
3 ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
4 君の鳥はうたえる
5 来る
6 フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
7 恋は雨上がりのように
8 グレイテスト・ショーマン
9 アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル
10 霊的ボリシェヴィキ
11 A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー
12 バトル・オブ・ザ・セクシーズ
13 15時17分、パリ行き
14 それから
15 万引き家族
16 オンリー・ザ・ブレイブ
17 素敵なダイナマイトスキャンダル 
18 ファントム・スレッド
19 ジオストーム
20 ミッション:インポッシブル/フォールアウト

変な話ですがベストテン&次点の中で、もし12位から20位までの作品と何か入れ替えるとすると、それは9位の『アイ、トーニャ』と何か、になります。これは個人的な気分というか感覚なのですけれども、いずれにしても12位から20位までの作品は気分によっては9位と入れ替わるような作品が並んでいます。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は70年代を再現した画面のルックや男性側に当たる暗めの照明やクローズアップによる親密さが面白く、ボビー・リッグスの哀しさも泣ける上に三角関係のメロドラマも見応えがあって順位付けはかなり迷いましたね。イーストウッドにしては凡作に思えた『15時17分、パリ行き』は、しかし気をそらさせられるような妙な場面の多い、変な映画でしたね。『それから』のキム・ミニが車の窓を開け雪を見るシーンは美しすぎる。『万引き家族』については10位以内に入れる気はなかったけど、とはいえあまり下にすることもできなかったという感じです。『オンリー・ザ・ブレイブ』は俯瞰ショットが非常に効果的で、森林火災のスピードと状況の繋ぎもうまくいつのまにかという恐怖と絶望があり、さらにチーム物と再起のドラマも丁寧で大変満足。『素敵なダイナマイトスキャンダル』で一番驚くのはいつでもどこでもたばこの煙が充満しているという時代感だった。『ファントム・スレッド』は撮影が美しいとかそういうことよりも最後、キノコを食べてキスするシーンの光で笑わせてくれるのでオッケーですし、幽霊屋敷モノとしても推したい。というか今年は直接じゃなくても幽霊屋敷モノ多かったような気がする。『ジオストーム』の、海が凍り人が凍り、鳥が凍って落ちてきたかと思うと次は飛行機が、というのを直線と高低差で見せるシーンはよく、カーチェイスでも高低差は印象的だった。『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は前作の出来の良さと比べると分が悪かったけれども、トム・クルーズは超越してる。



<ワースト5>
80 ヘレディタリー継承
81 ゲティ家の身代金
82 未来のミライ
83 ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談
84 ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生

80位から82位までの作品は期待値からの下げ幅が大きすぎた。『ヘレディタリー継承』は確かに精巧に作られた、特に音のバランスが良い作品だとは思いますが、まじめでかったるいというところがあり、動きの魅力に乏しく評価できない。リドリー・スコットは好きな監督ですが『ゲティ家の身代金』はダメ。サスペンス不足で表面的な物語だけが過ぎ去っていく。そもそも被害者よりもステーキとか医者の動きの方が生き生きとしてて、母子の話なんて本当は興味ないんじゃないか。『未来のミライ』における奇怪建築の階段は期待ほど動きや視線を見せずにフェチ的生態描写に留まるからつまらないし、3つの時間旅行と導かれる閉じた家族観は理に落ちているから退屈だ。『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』は夜間警備員のところはわりと面白く見れたけれど基本大したアイデアもなく、最終的に本当にどうでもよくなるような畳み方で、ジャンルとして不誠実に思えた。そして最下位の『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』はどのシーンも映画を見せようという気が感じられず、ただ見せ場らしき何かと断片的な要素を適当に並べただけで、アクションも物語も存在しない。あるのは後への布石と目配せと、役者頼みの映像程度。文句なしでワーストです。



というわけで以上で2018年新作映画ランキングは終了です。ちなみに旧作に関しては、いつも通り年明けに「下半期に見た旧作映画ベスト」という形でブログに書こうと思っておりますので、そちらもぜひ見てやってください。それではみなさん、良いお年を。