リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

青森旅行記①

6月29日(土)

田舎道にポツンと聳えるまことに不便な新函館北斗駅から、建設当初に比べると幾分マシになった気もする新青森駅へ向かうため新幹線に乗り込むととたんに眠気に襲われるが、どうせほとんど青函トンネルだから見る景色もないし、そもそも何度も見た風景だからと言って即眠りにつく。1時間弱眠ったところでもうすぐに到着。携帯のカバーに挟んだ切符を確認し、ついでに翌30日に参加するライブのチケットも確認してうっすら笑みを浮かべたのち、さぁいざと本州最北端の地へ降り立ったわたくし。旅行初日は大学時代の故郷である弘前へ行く予定を立てていたため、乗り換えの切符を購入をしようとしたその時、あることに気付いたのである。

「財布がない・・・」

ない。いくら探してもない。どこで落としたのか覚えてない。何も覚えてない、覚えてないもんは覚えてない、覚えてないからにはとにかく覚えてない、状態である。財布の中には現金のほかキャッシュカードにクレジットカード、身分証明書と帰りの切符、さらにはPerfumeのファンクラブ会員証まで入っていたもんだから一大事。つまり、頭を抱えて立ち往生するほか手立てがなくなったのである。まずは駅員へ状況を説明するも現状落とし物として届けられてはおらず、東京駅に到着し清掃が入ったら見つかるかもという返答。その連絡に希望を託しつつ、次は交番へ行って届け出をしなければならないという。あぁしかし何ということでしょう。新青森駅から一番近い交番まで行く方法がないじゃあないか。なぜなら一銭も持っていないのですこの男は。

しかしここで妙案思いついた。そうだ、金を借りよう。知り合いに。というわけで、連絡こそ絶やさなかったものの6~7年ほど会っていなかった知人に連絡。久々の再開が金の無心という人としての低みを存分に見せつけ、死ね、バカ、ふざんけんな、なんなのという当然のお言葉を頂戴しつつ交番まで送ってもらい、何とか救われる。紛失物の届け出をして、もうこれ以上打つ手はないというところで予定より3時間以上遅れて弘前に到着。宿泊先でようやく一休み。借りられたのが期待以上の額だったとはいえ、あまり金は使えないのでその日予定していた飲み会はキャンセル。しかしそうなると夜が暇すぎるので、レイトショーで『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を見ることに。こちらは、冒頭の校内放送から見ること、信じること、嘘といったモチーフが青春恋愛映画要素とも絡まりつつ(例えば機内で一緒に映画を見たいと願う等)、細かいセリフやシチュエーションからも一貫して繰り返されており、それがアイアンマンへの憧憬や、果ては「ないものをあるように見せる」もしくは「あるものをないように見せる」映画づくりそのものにまで踏み込んでいくことに面白さを感じた。

さて映画が終わって懐かしい道のりを歩いていると、ツイッターにDMが。なんと財布を落としたという呟きを見て、大学時代にお世話になった方が連絡をくれたのである。ここぞとばかりに甘える決意をしたところ、飲みにつれて行ってもらったうえひたすら趣味の話で盛り上がり、しかもお心遣いまでいただくという何ともありがたく楽しい時間を過ごさせていただいた。そんなこんなで帰宅すると深夜3時。結局JRから連絡は来ず、不安と落胆の中で眠りにつく。

 

 

6月30日(日)・・・①

財布を無くして一日。そんな状況で起きてまず何をしたかというと、最後の希望を託し自分からJR東日本に問い合わせてみた。すると、なんと昨日のうちに財布が見つかっていたというではないか。しかも本人報告済みとして処理されているとのこと。だが確かに留守電も着信もない。昨日一日不安な中で過ごしていたというのにどういうこっちゃと若干不機嫌になるが、まぁ見つかったのなら万歳だし、しかも中身はすべて無事だというじゃないか。何たる幸運。となると次はどうやって受け取ったらいいのかということであって、確認すると、方法は二つだという。①東京駅まで取りに行く。②自宅に郵送。いやいや新幹線は走ってるんだからそれで運べばいいじゃんとも思うのだが、出来ないというのだから仕方がない。しかもどちらの方法にせよ本人確認が必要らしい。つまり①なら免許証と本人の顔が一致すればよし。②なら確認できる書面等を持って来いというのだ。いやだから、本人確認できるものはすべて財布の中なんだってと言っても聞く耳持たれず、そういうことだからと返答されるのみである。というか、免許証と顔が一致すればいいならその場で写真を撮って免許証と照合すればいいんじゃないのか。そんな疑問を抱きつつ、とにかく東京駅まで往復するほどの時間も予算もないのだから、連絡事務ミスの部分でゴネて何とか郵送できるようにしてもらおうと画策し、弘前から新青森駅へ。

新青森駅へつき、早速昨日と同じ窓口で経緯を説明。人として情けないやり方だが、不機嫌を押し出し郵送できないもんかねと尋ねたところ、スマホの設定画面にある名前と、届けられている財布の中にある証明証の名前が一致すればいいとの返答が。いやそんな簡単でいいなら最初から言えよJR東日本。そんなわけであっさりと郵送の手続きも終わり、ほっと一息つくためリンゴジュースを飲みほして(駅構内にはリンゴジュースしか選択肢のない自動販売機がある)、財布の一件はほぼ終了した。

財布を落として思わされたのは金の大切さよりむしろ、免許証保険証がなくなるともはや自分の存在すら認めてもらえなくなるのかということであった。というのも、これらを無くした場合取り戻すにはやはり本人確認が必要なのであって、じゃあその確認書類がないとすると、そのとき自分は何者としても扱われないのである。まるでディックか安部公房のような気分でもあったが、しかしそんなときでも助けになるのは友人・知人であるというところに、らしくもない感情を抱いたのである。ところでこの男、こんなことがあった翌日だというのに、ホテルに髭剃りや洗顔料等々を忘れているということには、この時はまだ気づいていなかったのである。

 

 

 

長くなったので旅行記②へ続く。