リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

今年の映画、今年のうちに。2019年新作映画ランキング

年の瀬でございます。というわけで今年もやります、2019年に見た新作映画ベストテンです。今年鑑賞した新作85本の中から、次点も含めて11本を選びたいと思います。尚、新作の基準は今年はじめて劇場公開となった作品で、リバイバルは除外。またNetflixオリジナルなど配信作品については今年初めて日本で見られるようになったもののみ入れることとします。さて、前置きはこのくらいにして、早速ベストに移りましょう。

 

 

次点 ミスター ガラス

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シャマランらしい奇妙なスケールが冴えわたる快作。目撃する、させる、そして目撃した人をまた目撃するといったことが鏡やカメラ、人物の顔の収め方によって描かれていたと思う。病院の感じが一瞬『エクソシスト3』っぽくて前作に続いていることも好き。ベストテンに入れなかったのは上が詰まっているというより、何か別枠で記憶しておきたいという理由からである。

 

 

10位 わたしは光をにぎっている

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固定カメラでしっかり決められた構図に丁寧な美術、照明、撮影で、特にロングショットが力強い。数多く登場する水については幻想的シーンでの荒々しさからまさしく光をにぎるシーンまで様々な顔を見せている。光もまた同様であって、例えば汽車に乗る松本穂香へのものなど印象的に画面を照らしており、印象的なアクションこそ少ないものの、画面に対する意識を随所から感じ取れる良作だった。語りすぎず省略して進む語り口も滑らか。

 

 

9位 アクアマン

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さすがに説明が多すぎるとは思うけど、一つ一つのシーンがアクション、災害、ホラー、戦争、モンスター、SFとそれぞれジャンル的面白さを備えており、メリエスかといいたくなるいかにも嘘っぽい奇想がCGで目の前に広がっていてとにかく楽しい。ジェームズ・ワンの空間展開力は相変わらず冴えているし、スピルバーグに通じる悪趣味もあったりして好き。

 

 

8位 さよならくちびる

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塩田監督らしく、夜だろうと昼だろうと道がいい。道がいいというのはそれが常にアクションの現場となるからなのだが、さらにまた、3人それぞれの関係性の中でのアクションの反復も心地よく、特にキスをすること、拒否することの繰り返しはそれぞれ身の翻し方が素晴らしい。門脇麦小松菜奈という2人の女優の姿も大変魅力的で、それゆえにいくつかある好きじゃないシーンも帳消しにできる。

 

 

7位 グリーンブック

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細やかな脚本がまずいいのだけれど、それが小賢しさに陥っていないのはおそらく主演の二人による生身の味付けがあるからだ。図体から指先への意識に至るまでの振る舞いと、その差から生まれるやり取りがすこぶる魅力的。また帰属性という複雑な問題を運びつつも社会性を大げさに主張することはなく、ご立派なお題目の傍で軽やかに走行する上品さが素敵なのである。

 

 

6位 さらば愛しきアウトロー

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監督の前作は贅沢な時間の流れる作品だったが、今作は手際いい編集で進行し、俳優と彼らに当たる照明の贅沢な味わいを楽しめる心地よい作品だった。また夜の光、特に公衆電話を使うシーンは最高。常にそうであったし、これからもそうあり続けるというロバート・レッドフォードの在り方がかっこいい。

 

 

5位 殺さない彼と死なない彼女

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歩きをはじめ、被写体から少し離れた位置からの長回しのやりとりが多い。これは二人の間だけで成立してるコミュニケーションの形を外側から捉えるためだと思うのだけれど、それゆえカットを割ることが効いている。例えば撫子の一方的な告白を見続けた八千代の主観や、「リボンは似合わない」と2度口にする鹿野の目線は、決してそれらが一方通行ではなかったと我々にもわかるから感動的なのだ。桜井日奈子の走り姿も最高。「未来の話をしましょう」は細田守版『時をかける少女』のテーマにも通じるキラーフレーズ。

 

 

4位 ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド

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アマゾンプライムにて鑑賞。WW1の記録映像に色付けをした映画で、ドラマではなく戦地での衣食住など生活様式や戦闘風景についての細部が語られている。爆撃の緊張や揺れ、凄惨な死体とまったく同列に、例えば寝床の確保であるとかネズミやシラミの被害、死体の浸かっていた水でもなんでも利用してまで紅茶を飲もうとする執着、そしてトイレ事情などが語られているのだ。その徹底したミクロの視点が素晴らしい。

 

 

3位 マリッジストーリー

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編集に特徴がある映画で、ところどころ人物のアクション、例えば立ち上がる・振り返るといったような行動を細かくつなげていくことにより、夫婦それぞれの思いが浮かび上がってくる。白眉は中盤の喧嘩シーンだと思うけれども、しかし全てのシーン照明やカメラ位置は非常に周到で、なんてことないシーンにも力が宿っている。そして個人的には怖いレイ・リオッタの登場が嬉しかったので3位。

 

 

2位 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

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タランティーノの中でも『デス・プルーフ』に次ぐ傑作。ブラッド・ピット演じるスタントマンが長い長いドライブの果てトレーラーハウスに着くあたりですっかり心掴まれてしまった。このように、基本移動によってエピソードは心地よく繋がれていくのだが、そのどれもはおおむね弛緩しており、しかしだからこその幸福が生まれている。もちろん農場の異様な緊張感と西部劇的風景にも興奮した。素晴らしい。

 

 

1位 ホットギミック ガールミーツボーイ(及び『離ればなれの花々へ』)

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『ホットギミック』については年明けに個別記事を書くのでそちらでより詳しく触れたいと思うけれど、異常に過剰で歪な作品が、そのことを一切否定せず全速力でエモーションに振り切ろうとするパワーに圧倒された。この振り切り具合はもはやベストかワーストかはよく分からないが、とにかく一番としか言いようがない。なので今年はこの作品と、『21世紀の女の子』の中の一つをベストに挙げたいと思う。

 

 

<まとめ>

以上が、2019年新作映画ベストでした。この中で最後まで外そうかどうか迷っていたのは9位『アクアマン』と8位『さよならくちびる』で、『蜘蛛の巣を払う女』『バーニング 劇場版』『トイストーリー4』『帰れない二人』『工作 黒金星と呼ばれた男』『マチネの終わりに』『主戦場』と迷っていました。10位はというと、良い作品であるのは勿論のこととして、5位、1位と合わせ、2010年代にデビューした日本映画監督の作品を配置したかったので外せなかった。ほかにも『マイル22』『運び屋』『多十郎殉愛記』『ハンターキラー 潜航せよ』『COLD WAR あの歌、ふたつのこころ』『嵐電』『アイリッシュマン』『ドクタースリープ』などが良かったですね。今年は中島貞夫監督の新作やイーストウッド主演作など、もうないだろうという作品を見ることができ、もうないだろうということでいえば、『アベンジャーズ/エンドゲーム』もその点において価値のある作品だったと思います。

さて、今年も未見の映画がたくさんある中での選出となりました。北海道ではシアターキノが大規模で後悔されない作品、例えば『ワイルドツアー』や『苦い銭』のような新作からリバイバルファスビンダーなどを上映してはいるものの、金曜日の夜に1回だけという形態での公開が多く、都合上見れないことのほうが多い。せめて土曜日にしてほしい。

さて、最後にワーストについてですが、今年は最もがっかりした作品のタイトルのみ上げようと思う。ワースト1は、『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』。僕は今はそれほどスター・ウォーズのファンではないけれど、小学校3年生の時にエピソード1が公開されたこともあり、思い出深いシリーズではある。当時はグッズもたくさん買っていた。そして社会人になった2015年に公開されたエピソード7は楽しく見られたし、8についてもこれはこれでと受け入れられたのだが、9に関しては全く受け入れられない。スター・ウォーズとしてなどという問題の以前に、語り口が下手すぎてまじめにみる気にならないのが最大の問題点だった。

旧作についてはいつも通り年明けに書こうと思います。そして『ホットギミック』についてもなるべき正月休み中に書きたいとは思っていますので、更新頻度が少なすぎる当ブログですけれども、来年もまたよろしくお願いします。それでは皆さん。良いお年を。