あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、先日の新作ベストテン記事にて予告したように、2019年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ紹介したいと思います。並びは単に見た順です。ちなみに、昨年の旧作鑑賞数は150本でした。なお、上半期ベストについては<最近見た旧作の感想その38〜2019年上半期旧作ベスト〜 - リンゴ爆弾でさようなら>をどうぞ。
『A2』(2002)
森達也監督による、オウム真理教を扱ったドキュメンタリーの第2弾。信者の生活や周辺住民、右翼団体との軋轢を描いているのだが、これらの間にある距離感を壁や柵よって表現しているところが面白い。プラカードを持ち大挙して押しかける住民は壁という境界越しに彼らへ言葉を投げかけ、しかし同じ区域で生活していくうち、次第に壁越しの交流も生まれてくる。そしてこの作品が面白いのは常にズレが生じているところで、例えばその住民たちの信者に対する認識のズレであり、信者内でのズレであり、かつて友人同士であった記者と信者のズレなどが見どころになっており、距離感がそのズレをまた強調させているのである。
『ヒッチャー』(1986)
ロバート・ハーモン監督。砂漠地帯のフリーウェイで、確固たる理由も提示されぬままひたすら狂気の連続殺人鬼に付きまとわれる羽目になるお話。この殺人鬼を演じたルトガー・ハウアーの存在感が何より素晴らしい。また、いつのまにか、の描き方が最高。留置所のシーンなどに顕著だが、いつの間にか殺人鬼はそこに来ているし、いつの間にか周囲の人間は惨殺されているのである。留置所から逃げる際の入口と出口を同時に捉えたカメラとアクションも凄くいい。ヒロインがかなり非道な方法で殺され、そのあとに主人公と殺人鬼の対決があることにも驚いた。
『凱旋の英雄万歳』(1944)
プレストン・スタージェス監督。花粉症のせいで軍を除隊になり恥ずかしさから故郷に帰れずにいた青年が、偶然酒場で出会った海兵たちの計らいにより英雄として故郷へ帰還することとなるお話。駅で英雄として迎えられるシーンをはじめとし、とにかく画面への人物の出入りが激しく、しかもそのたびに事態が無茶苦茶な方向へ膨らんでいくのが楽しい。そしてそんな出鱈目の外側で勘違いしあいながら進行するロマンスも、ヒロインを演じたエラ・レインズが魅力的でとても素晴らしい。スタージェスは『バシュフル盆地のブロンド美人』も良かった。
『ルイジアナ物語』(1948)
ロバート・フラハティ監督。ルイジアナの自然に囲まれ育つ少年と石油発掘作業員のお話。まぁ見事な水面の美しさで、その色々な表情に魅せられる。また小舟と油田掘削機の大きさ対比も見事で、少年が機械を見上げるショットなんかは大変素晴らしい巨大感。こういったただひたすらな画面の美しさのほかにも、釣りなどの仕掛けと機械の動きが反復されていくというアクションの繋がりもまた見事である。ちなみにワニ映画としても優雅な動きが見られて最高。
『バンパイアの惑星』(1965)
マリオ・バーヴァ監督。『恐怖の火星探検』と並び『エイリアン』の元ネタといわれている作品で、物語や巨大人骨に宇宙船などからはっきりとそのことがわかる。それにしてもこの美術は面白い。先行隊の船も巨人の遺跡も変な構造だし、またこれら人工物だけではなく降り立った惑星事態も赤や緑に照らされていて怪奇映画かのような雰囲気が漂っている。そりゃあ死体がよみがえっても不思議じゃあない。黒く襟の高い宇宙服デザインも良い。黄色のヘルメットをすぐ脱ぐことや、オチもこうでなくっちゃという感じでいいなー。
『恐怖の火あぶり』(1979)
詳しくはブログに書いた<最近見た旧作の感想その39 - リンゴ爆弾でさようなら>のでそちらを読んでいただきたいと思うのだけれど、死体主観ビンタなどなかなかな陰惨で衝撃的な作品であった。
『ニュー・ビューティフル・ベイエリア・プロジェクト』(2013)
『東京藝大大学院映像研究科映画専攻第七期生修了作品集2013』に収録されている黒沢清監督作品。前半は柄本佑を段ボールに衝突させたりしつつ彷徨わせることで、後半は『死亡遊戯』のようにどこからともなくわいてくる警備員を三田真央がなぎ倒すアクションを見せることで、シネスコの画面の中ひたすら人物を動かせようとしている作品。ネズミの件なんかまさにそう。また、二人とも父親から受け継いだという設定が行動の起点となっており、三田真央が海をバックにクローズアップで語りかける場面には面食らったものの、神話の登場人物かのような話しぶりから、名前を取り返しに来るのも納得させられてしまう。
『ブロンド少女は過激に美しく』(2009)
マノエル・ド・オリヴェイラ監督。素晴らしい窓、扉の開閉で、まずその窓から見える美女の上半身から物語は始まるけれど、それが扉や階段を通して全体像へ繋がったと思っていると、最後には脚の映画になり、片足を上げるショットなんて可愛らしくて粋で最高だなぁと思っていると、いきなりガニ股ですごい突き放しをして終わらせてくる。どのショットも異常に強いが、例えば美女をはじめて見るシーンなどどこも妙に嘘っぽい。それは勿論物語としてなどという話ではなく、画面としてどうも嘘っぽく見えるということであって、それが素晴らしいのだ。
『紐育の波止場』(1928)
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督。 とにかく素晴らしい映像美。最初の火夫たちの仕事場からしてとても力のある画面で、闇と煙、そして光の強烈なコントラストが映える。活気ある酒場での群衆とカメラの動きには興奮し、霧に包まれた夜の波止場の美しさ、水面の揺らぎには魅了される。一つ一つ書いていくと終わりが見えないのではないかというくらい、とにかく目を見張るとはこのことかといいたくなるシーンの連続で、サイレント映像表現でも群を抜いているのではないか。ちなみに最後の朝、別れを惜しみ外へと出てきたベティ・カンプソン越しにカモメが三羽着水するのだけれど、それがなぜだか、妙に印象に残った。
以上が2019年の下半期旧作ベストでした。個人的に昨年はあまり映画に入り込めず、かといってほかに何か打ち込むことができたというわけでもない日々を送っており精神的に参っていた年で、下半期旧作ベストといいつつも例年より低いテンションでの更新となってしまいました。年を越したところで劇的に変わることなど一つもありはしませんが、それでもどうにかやっていけるようになれたらいいなと思いますね。とりあずは面白い映画をたくさん見られたらいいなという気持ちで生きています。それではまた。