リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その41

JUNK FILM by TOEIというチャンネルがアマゾンプライムビデオ内に開設されており、なかなかお目にかかれない東映作品が手軽に視聴できるようになっている。今回はその中から、高桑信監督、千葉真一主演の『麻薬売春Gメン』シリーズについて少し。

 

 

『麻薬売春Gメン』(1972)

麻薬撲滅のため犯罪組織へ潜入する捜査官・菊池靖男(千葉真一)の活躍を描いた作品。いかにも当時の東映らしい猥雑なオープニングクレジットに期待を膨らませるも、それ以降は正直あまり面白くない。全編なんだか教育的な内容なのである。おそらくこれは、本作に出演もしている菅原通済による三悪追放キャンペーンの影響があるのだろう。実際、本編序盤には本筋とほとんど関係のない、まるで教習所で見るビデオのような小エピソードが用意されており、ご丁寧に三悪の何が悪いのかについての解説までしてくれる。このタイトルで誰がそんなもの見たいというのだろう。しかもその間、主演である千葉ちゃんは置き去りである。

その後も結局、麻薬売春Gメンという文字の並びから想像されるようなセックス・ドラッグ・バイオレンスは薄味のままで終わってしまう。もちろん、ただ過激にすればいいわけではないのだけれど、それにしたって特徴がない。思うに、画面が整理されすぎているのではないか。例えば飲み屋のシーンなどでは背景の客がただ座っておとなしくしていたりであるとか、自宅が妙に小ぎれいであったりとか、おおよそ東映らしからぬ画面の連続で、千葉真一という役者をはじめとし、各材料が本来持っているポテンシャルを引き出せないまま終わった作品という印象が残る作品。

麻薬売春Gメン

麻薬売春Gメン

  • メディア: Prime Video
 

 

  

『麻薬売春Gメン 恐怖の肉地獄』(1972)

なんというタイトル。しかしこれは前作から一転、すこぶる面白い。何より素晴らしいのはロケーションであって、返還直後の沖縄を舞台に、当時の風景を存分に生かした画面設計がなされている。例えば序盤、渡瀬恒彦千葉真一の後をつけるシーンなどはゲリラ撮影であろうか、せせこましく店が密集する雑多な街の風景を楽しむことができる。また傾斜、高低差の映える地形が多く、それを捉えるロングショットも抜群だ。

さて高低差は2回ある銃撃戦でも非常に効果的に使われており、そこでは千葉ちゃんの身体能力もおおいに堪能できる。まず城跡での攻防は、だだっ広い平原の中とにかく疾走、態勢を変えてまた疾走、その勢いのまま前転と激しい平面的動きを見せてくれるのだけれど、そこに高い位置からの狙撃という位置関係のズレがしっかりと印象付けられ、画面を豊かにしている。そしてクライマックスの見せ場となる薄明かりの入り江では、入り組んだ地形をかくれんぼ的に生かしつつ岩場を飛び降りるといった危険なアクションで、上下そして奥への動きをつくりだしている。前作の味気無さはいったい何だったのかと思わせるほど見ごたえのある画面。ヒロインを演じたテレサ野田の風貌も大変魅力的。

それにしても高桑信という監督、以前このブログにも書いた『新宿の与太者』のような大変面白い作品もあるし、『日本暴力団 組長くずれ』だってなかなか良かった。しかしその割には有名ではないように思うし、何より作品数も少ない。いったいどういうキャリアの人なのか、やはり気になる。

麻薬売春Gメン 恐怖の肉地獄

麻薬売春Gメン 恐怖の肉地獄

  • メディア: Prime Video