リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その45~2020年下半期旧作ベスト~

一月ももう終わるというところでだいぶ遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。

さて、昨年末に更新した新作ベストテン記事にて予告したように、2020年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ紹介したいと思います。並びは見た順です。ちなみに、昨年の旧作鑑賞数は172本でした。少っくな。なお、上半期ベストについてはこちら<最近見た旧作の感想その42~2020年上半期旧作ベスト~ - リンゴ爆弾でさようなら>をご覧ください。

 

 

 

小原庄助さん』(1949)

清水宏監督作品における横移動の美しさについては改めて言うまでもないかもしれないが、しかし例えば裁縫に勤しむ女性を捉えながらやや斜め手前に水平移動して広間を通り過ぎ客間へと到達する動き、タイミングはやっぱり素晴らしい。このタイミングの面白さはミシンの足踏みと坊主の叩く木魚の音対決といったギャグにもみられるし、結婚式へ向かうため乗車するバスが画面奥からやってくるそのスピードとカメラ位置も何か適切という感じがして心地いい。「近頃客も少なく静かでさみしい」という言葉と対応するようにいつのまにか家へ入り込んでくる鶏だってそうだ。さてこの言葉通り物語も後半になるにれ先祖代々引き継いだ屋敷はさびれ、家具は売られ、ロバを引き渡し、人もどんどんいなくなり、ついには女中や妻までいなくなってしまう。そうして何にもなくなったところへ入り込んできた強盗を一本背負いで返り討ちに合わせる大河内伝次郎の動きは目を見張るものがあるけれど、それよりその過程で倒れてしまった一升瓶を慌てて直すところにおかしみがある。これはいままでさんざん「酒を注ぐ」ことを描写してきたからでもある。最後の切り返しは『按摩と女』と少し思い出させるが、ここもやはり、適切な場面で適切な画面を入れるているように思えたのであった。

小原庄助さん

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『女咲かせます』(1987)

 松坂慶子田中邦衛ら元炭鉱夫たちによる現金強盗作戦。監督は森崎東。物語は松坂慶子が父親の骨を埋めるため海の見える故郷の長崎へと帰ってくるところから始まる。かつては栄えていた町も今ではすっかり職を失った者たちのたまり場となっており、そこで暮らす仲間とともに、彼女は足を洗うため一世一代の大勝負に打って出るというわけだ。つまりすっかり時代に取り残されてしまった者たちの復讐劇でもある。彼らがデパートの地下に穴を掘ったり、エレベーターを使い上へ下へ現金を受け渡す姿は炭坑の作業さながらといえるのかもしれない。そしてこの上下の動きは二階に住む貧乏チェロ弾き役所広司との恋愛においても活きていて、松坂慶子はまず、床のきしむ音で男の存在を感じている。この二人の関係性は宙づりの告白から階段の下降を経て小高い丘に至る。またテンションが謎な宴会とか海に落ちたりとか、笑える箇所も多い。そして何より素晴らしいのは弁当を食べるシーンで、わかっていても思わず泣く。ベスト弁当。

女咲かせます [VHS]

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『「無頼」より大幹部』(1968)

物語や人物の背景が手際よく語られている。冒頭わずか5、6分ほどの中で無駄なく発端を語り、また画面では少年院からの脱走、電車、そしてパトーカーといったライト使いで楽しませてくれる。出所してきた渡哲也が過ごすわずか一夜の中に彼の運命のすべてを配置させているのも効率が良く、会話の内容、ヒロインの松原智恵子、緑と赤を基調とした色彩も魅力的だ。さらに夜が明けてからのうすら明るい道路や線路などの風景もやはり素晴らしく、わずか数ショットでありながら非常に印象に残る。このような日常的シーンの出来がいいというのが美点の一つである。他にも、渡哲也がかつての恋人である三条泰子と対面するシーンは横長の画面が効果的で、松原智恵子との距離の対比が見事である。もちろんジャンル映画として重要な殴り込みシーンもまた格別の面白さ。雨降りしきる土木作業現場、屋敷、狭い通路など舞台は様々だがどれも縦横縦横無尽に駆けまわり展開することで空間を広げていて楽しい。ラストはほとんどフィルムノワールの光景。

「無頼」より大幹部

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『絶叫する地球 ロボット大襲撃』(1964)

ご存知テレンス・フィッシャー監督作品。突如として人々が意識を失い、次々に車や列車転倒し、飛行機までもが墜落。そうして静かに終末が訪れる・・・なんて完璧な冒頭だろうかとうっとりする。『ハプニング』の自殺が近いかと思うけれど、しかしこちらは突然意識を失うというシンプルさで、しかも単にその場で倒れこんだりという非常に簡素なアクションではあるのだけれど、それでも十分に見ごたえのある画面となっている。人のみならず、なにか広大な規模で、本来そこにあるべきものが突如奪い取られたような感覚に満ちているのだ。そんなわけで機能が停止した田舎町の風景も大変素晴らしいし、怪電波に操られた死者が階段を下るシーンの照明もよい。大満足。

絶叫する地球 ロボット大襲撃 [DVD]

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『発禁 秘画の女』(1983)

黒沢直輔監督作品。いいショットがたくさんあるが、それに先立ってまず下町のアパートそのもの、つまりぼろぼろの室内、L字に折れ曲がる設計、緑生い茂る中庭といった場が素晴らしい。そこに撮影・照明の塩梅が加わり、いかにみすぼらしい部屋であろうとも不思議に豊かさを感じさせる空間となっている。さてこの豊かさというのには窓や格子越しに見える外の風景、光も重要な要因となっていて、例えば中田譲治と仁科まり子が初めて関係を持つ場所、お堂だろうか、ここでの光と影は強烈な印象を残す。ほんの短いシーンだが、窓の外に見える船着き場の風景も妙に忘れ難い。そしてこの光というのは竹林での強姦以降、徐々に非現実的な色合いを帯びてホラー映画の風味を増し、それに伴って仁科まり子のファムファタルっぷりも強くなってゆく。この辺りが黒沢直輔監督らしさなのであろうか、『ズーム・イン 暴行団地』や『看護婦日記 獣じみた午後』もイタリアホラーの雰囲気を纏っていた。ちなみに『看護婦日記』については性器に挿入された器具で操られるという話がやばいし、螺旋階段の下に監禁部屋というセットも最高で、さらに操られた美保純が看護師姿で歩くシーンはほぼ幽霊のそれであり、紫の街灯や赤い背景も面白く、天窓、首つり、炎上と感性がくすぐられる作品なのでこれも必見。

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『赤死病の仮面』(1964)

エドガー・アラン・ポーの同名原作に「跳び蛙」「ウィリアム・ウィルソン」を追加したような話。とにかく色の面白さに尽きる。もっとも極端な例としては、一面黄色の部屋があったかと思うとその奥には一面紫の部屋があり、さらにその奥には白、そして黒へというように、全く色の違う部屋がひと繋ぎに続いている屋敷の構造であろう。『刺青一代』か。さてそのほかの屋敷内部構造としては、アーチの先にある大広間は緑がやや支配的な床の配色が印象的で、またそこかしこに青緑黄色とカラフルな蝋燭が立てられており、石造りの壁は無骨だけれど「恐怖の振り子」時計など装飾が楽しく、舞台そのものはなかなかに魅力的。ただ屋敷モノとして色以上の面白さがあるかというと、それは正直微妙なところ。地下牢や白いシーツ揺れる寝室もイマイチ盛り上がらない。そのうえで本作を支持するのは、屋敷の主人であるヴィンセント・プライスの下へと群がる赤死病に罹った客たちの姿が、まるで『ゾンビ』のようでサイコーだったからである。あとヒロインのジェーン・アッシャーもかわいかった。スコリモフスキの『早春』のヒロインですね。

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『血塗られた墓標』(1960)

反対にこちらは白黒ホラー。冒頭の鉄仮面ハンマーが大変暴力的で素晴らしい。内側に仕込まれた針で顔面串刺しというわけだ。とはいえ、本領は森の中を駆ける馬車や朽ちた墓場、そして古城といった、いかにもな舞台の視覚的楽しみである。特に照明、黒の表現は古城の佇まいと合わさって格別に美しい。そんな古城の雰囲気を存分に楽しませてくれる代表的なシーンを二つ挙げる。一つ目は、幽霊の接近が風によって示される場面である。扉が開き、楽譜が飛び、カーテンが揺れ、鎧や椅子も倒れていく様子をじっくりとカメラが追う。そしてついに幽霊が目の前に迫ると、今度は素早いカット割りとズームによって十字架による撃退までスピーディーに展開する。二つ目は馬車に乗って森に現れた幽霊の導きにより、城門をくぐって広間を通り幾許か歩いたところで地下墓地へ至るという一連の場面。ここは幽霊の持つランプの光が印象的で、黒の強調により恐ろしくも非常に美しい画面となっている。ちなみに森のシーンでも白と黒の美しさは大きな効果を上げていて、こちらは木々の黒さに対して霧の白さが恐怖の雰囲気を漂わせている。この2つの表現は後年の作品である『呪いの館』にもみられるが、そのうち、室内を歩く点に関しては『呪いの館』で違う方向への進化を見せているものの、風についてはこちらに軍配が上がる。しかしバーバラ・スティールは『幽霊屋敷の蛇淫』といいホラーの似合う方ですね。

血ぬられた墓標 [Blu-ray]

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というわけで、以上が2020年下半期に見た旧作のベストでした。ここ数年あまり映画を見れてなく、昨年は特に駄目だったわけですが今年はとりあえず現在27本というところで個人的にはいいペースで見れているので、これを落とさないようには見ていきたいと思います。