リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

今年の映画、今年のうちに。2021年新作映画ランキング

年の瀬でございます。というわけで今年もやります、2021年新作映画ベストです。新作の基準は今年はじめて公開となった作品でリバイバルは除外。Netflixオリジナルなど、配信作品についても今年初めて日本で見られるようになったもののみ入れることとします。尚、今年度もコロナや職場環境等諸々の理由によりあまり多く作品を見られなかったので、昨年同様ベストテンではなくベスト5+次点といたします。

 

 

次点 草の響き

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原作未読。しかしよくこんな、特になんてこともない話を映画にしたよなぁと思うと同時に、東出昌大に賭けたんだろうとも思う。そしてそれに勝った。表情・体格・佇まいの扱いづらさというのか、やはりとてもいい役者だと思う。病院、アップによる切り返しもとても良かった。スケボーやランニングが映画にリズムをもたらしつつも解放へと至らない堂々巡りであることを踏まえ、最後に飛び越えるアクションがあるのも良かった。次点としているのは、どうしてもキタキツネの映像に納得できなかったからである。

 

 

5位 樹海村

f:id:hige33:20211231214612p:plain『犬鳴村』がまるで面白くなかったので期待していなかったけど、序盤、トラックのシーンからまず人物の距離やカメラ、編集が良い。一つのショットの中で何か見せてやろうという気合いも感じる。勿論全てがうまくいってるわけじゃないけれど、例えばすりガラス越しの黒沢あすかなんて印象に残るし最高。そして何よりまさか、『ガーディアン/森は泣いている』オマージュがスクリーンで見られるなんてと感激。こういう場面があるだけでもう肯定。清水崇監督としては『輪廻』に近い感触なのも嬉しかった。

 

 

4位 ダークウォーターズ 巨大企業が恐れた男

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揺るぎないヒーローとしてではなく、常に抵抗や懐疑、報いを受けるそのトーンに合わせ画面も暗く曇っているものの、しかし粒子の荒い、フィルムのような質感は『キャロル』の充足感を思い出させ、その感触に身を任せているだけでも十分であった。C8についての講釈やデュポン社CEOとの会話に代表的な室内での黒、そこに加わる黄色や青。または車窓から眺める街並み、特に夜のそれはとても美しく、この恐ろしい作品には不釣り合いなぐらいではないかとさえ思う。資料室のクロスカッティングも大変面白く、「守られない側」の話という共通項もやはり好き。不満があるとしては冒頭の『JAWS』を模したシークエンスと、アン・ハサウェイが最後まで画面に収まりきっていなかったように見えたことか。

 

 

3位 愛のまなざしを

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一度見て、まだよくわかっていないので、とりあえずは編集が生み出すアクションにしてやられ、狂気の幽霊譚に飲み込まれた、としか言うしかない。特に編集は、滑らかとはまたちょっと違うけれどアクションが際立つような方法で、反心理的に映画を引っ張っているようだ。幽霊譚はおそらく空間と切り離せないもので、特に無機質でモダンなオフィスはほとんど「なんでも信じる」仲村トオルであり、またトンネルは抜け出せない狂気の空洞か。ま、とにかく理屈に先立ったアクションとリアクションを見せる人間たちばかりで楽しかった。

 

 

2位 マリグナント 狂暴な悪夢

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詳しくはこちら→ https://hige33.hatenablog.com/entry/2021/12/26/023009

近年、あの「落下」ほどの驚かされたシーンはない。後半の大活劇がやはり目玉なんだろうけれど、それに至る流れもあって個人的には前半のほうが好きだったりする。記事には書き忘れたけど『死霊館 エンフィールド事件』のおもちゃの車といい、小道具の使い方もいいね。今回は電話のおもちゃ。

 

1位 あのこは貴族

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詳しくはこちら→https://hige33.hatenablog.com/entry/2021/03/20/145355

東京に出たこともない、映画館に行くのも苦労するような田舎に住む男性が、それでもこの映画をベスト1に選ぶのは、背景にあるもの(例えば社会、と言い換えられるかもしれない)を浮かび上がらせるからだろう。それは形式や礼儀作法から、もしくはそれぞれの登場人物から見えてくるものだ。この作品は、それら古臭さの中に新しい希望をのぞかせる。記事に書いたように「華子の表情をめぐる冒険」によって。2021年のベスト1として、これ以上ふさわしいものはなかった。

 

 

以上が2021年ベスト5+次点です。そのほか、『ホイッスラーズ 誓いの口笛』『ジャスト6.5 闘いの証』『偶然と想像』『アメリカン・ユートピア』『モンタナの目撃者』『ボストン市庁舎』『レミニセンス』も良かったと思う。良かったと思うならなぜこれらを加えてベストテンにしないのか、ということについては、なんとなくベストとは思えなかったからとしか言えないかな。だから今回の5本は「今年はこれだな」というぼんやりした感覚によって選んだ。

さて冒頭に書いたように今年もたくさんの映画を見逃した。そこで試しに、見逃した映画ベストテンなんてものを選出してみようかと思う。当然見てないのでベストといっても作品の評価とは一つも関係ないから、テン・リストというべきか。とりあえず以下の通り。

・海辺の彼女たち

・うそつきジャンヌ・ダルク

・こどもが映画をつくるとき

・ミッドナイトファミリー

死霊館 悪魔のせいなら、無罪

・クーリエ 最高機密の運び屋

・最後の決闘裁判

・1秒先の彼女

・17歳の瞳に映る世界

・サイダーのように言葉が湧き上がる

リストの中には、これから見られるものもあるし、見られるかどうかよくわからないものもある。上映館数や回数で難しいものもあるけれど、来年はもっと多く見ていきたい。

最近ブログどころかツイッターに感想を書こうにも言葉が何も出てこなくて、映画を見る才能も、書く才能もないという事実が付きつけられるばかりだけれど、それでも見ることはやめないで生きていたいね。とりあえず年明けに下半期旧作ベストでお会いしましょう。それではよいお年を。