リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その48~2021年下半期旧作ベスト~

あけましておめでとうございます。と、1月に更新する予定がすっかり2月になってしまい、遅すぎるご挨拶になってしまいましたが、とりあえず今年も当ブログをよろしくお願いいたします。

さて、昨年末の新作ベストテン記事にて予告したように2021年下半期旧作ベストです。7月から12月に見たもので、特別面白いと思えた作品について一言程度コメントを添えつつ紹介したいと思います。なお、上半期ベストについてはこちら→https://hige33.hatenablog.com/entry/2021/08/01/185458

 

 

雷電/続 雷電(1959)

江戸時代の伝説的な力士・雷電爲右エ門をデビュー間もない宇津井健が演じたメロドラマの傑作。とにかく美術・照明・撮影がすごい。まずはじめ、浅間山の噴火に見舞われた太郎吉(宇津井健)が家へと帰るシーン。ぼろぼろになった家を俯瞰で捉えていたカメラがやおら茅葺屋根へと近づき、そのまま屋根に開いた穴を通って室内へと降りていく。この撮影にまず驚いた。さて画面は常に奥行きが意識されており、室内であれば障子や襖、柱などを使って、風呂場のようながらんとした空間は陰影を濃くし、フラットな画面を避けている。また中盤、一揆をおこした軍勢が川向いに大きく広がり煙を上げ集まるという、ダイナミックな画面もとてもいい。そして水が美しい作品であるということも忘れてはいけない。特に強く感じるのは、ヒロインであるおきん(北沢典子)と手水舎で再開する2つのシーンにおいてである。特に2度目は、画面の構成や北沢典子の顔に当たる照明、人物の動線も相まって、メロドラマのピークとしてとても素晴らしい場面となっている。この作品が中川信夫の最高傑作ではないか。AmazonPrime、U-NEXTにて配信中。

 

 

『散歩する霊柩車』(1964)

世の中にはタイトルだけで面白いことを確信できる作品があって、例えばこの、佐藤肇監督による、狂言自殺で金銭をだまし取ろうとする夫婦を題材にしたスリラー/コメディ映画がそうだ。非常にテンポがよく、夏の話にもかかわらずどこか涼しい空気が漂うクールさもある。役者では、卑怯でせこく弱いうえに情けなく、しかし不気味にも振れられる西村晃が一番魅力的だけど、金子信夫や渥美清といったアクの強い人たちが揃ってセコい小悪党を演じているのも楽しい。最後はバカバカしく派手で、しっかり札束まで舞うので大満足。U-NEXTにて配信中。

 

 

『ウェンディ&ルーシー』(2008)

昨年、全国の恵まれた地域では初期作品の特集上映が開催されたケリー・ライカート監督作品。残念ながら恵まれていなかった地域に住む私は、その中で唯一普通にレンタルできる本作を鑑賞。どのショットもこうであるべきという場所にカメラが置かれ、そうであろうという速度で人や物は移動する。だがそれは心地よさを生み出さない。カメラがとらえるのは田舎町の孤独であり、閉塞感だ。それはもはや、晴れているというとさえ意外に感じられるほどの息苦しさである。そしてミシェル・ウィリアムズ演じるウェンディは過酷な状況、ここでは特に、去ることが強いられる。彼女が歩き続けなければならないのはどこにも滞在できないからだ。それは個室の喪失、つまり車がまずそうだけれど、彼女はどこで着替えているのかという点からも想像できないだろうか。ミシェル・ウィリアムズはそんな孤立した女性の姿を、顔つきや寄る辺ない歩き方で体現している。ルーシーの視点から見る彼女の悲痛な背中や、貨物列車に乗り外を眺める目など忘れられない。2022年になり、初期作品はU-NEXTにて配信が開始されたけれどこれが一番好き。傑作。

 

 

 

『知りすぎた少女』(1963)

みんな大好きマリオ・バーヴァ。バーヴァの話をするときはいつも、あの屋敷がいい、この古城がいいという話ばかりになってしまうけれど、いいものはいいので仕方がない。本作では屋敷というほど広くはないけれど十分に豪華なアパートの一室がメインの舞台で、ここも細かく紹介したいところだけど、しかし怪奇として最も素晴らしい空間は中盤に登場する。レティシア・ロマン演じるヒロイン、ノーラが階段の多い夜のローマを駆け、仰々しい柱が目立つ建物の中へ入ると正面には籠と呼ぶにふさわしい古い鉄製のエレベーターが。それに乗り、さらに上へ上へと続く螺旋階段をのぼり遂に見えた扉の先には、真っ白でがらんとした、ノーラの黒いコートが強調される部屋が続く。天井から吊るされた裸電球は不規則に揺れている。どこからともなく聞こえてくる声に導かれながら奥へ進むと急に明かりが消え・・・。建物の構造に加え、黒と白、光と影のコントラストが強烈な印象をもたらすこの素晴らしいシークエンスだけでも十分の見る価値がある。ちょっと『怪人マブゼ博士』を思い出す感じ。ちなみに最後に背中を刺されるおっさんの飛び上がり具合も最高。『沖縄やくざ戦争』の千葉真一に迫る急な伸び姿勢でびっくり。AmazonPrime、U-NEXTにて配信中。

知りすぎた少女

知りすぎた少女

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『Le Village de Namo』(1900)

リュミエール兄弟が各地に派遣したカメラマンの一人、ガブエル・ヴェールによってインドシナで撮影された1分程度の作品。世界初のトラックバックといわれているらしいけれど、そんな歴史的な話は置いておいてとにかく単純に面白い。低い位置に置かれたカメラの後退と、それを追いかける子供たちの、服装も、動く方向も、見ている方角もばらばらでカメラなど構うことなくフレームイン・アウトしていく自由な動きには何か映像というものの魅力が、生々しい躍動の魅力が過不足なく詰め込まれているように思えてならない。たとえば急に画面を横切る鶏とそれに一瞬目をやる姿なぞ、やたら惹かれるものがある。偶然しか映り混んでいない(ように見えるだけかもしれないが)カメラの奇跡。

https://www.youtube.com/watch?v=K020eIIr_9c

 

 

以上が下半期の旧作ベスト。他には、光の表情が見事な、優れた処女作として記憶されるべき台北暮色』(2017-AmazonPrime)、前半は清水宏らしいトラックバックが、後半は佐野周二坪内美子の切り返しが美しい『花形選手』(1937)長回しから分節化されたアクションまで、経済性を無視した美学ごり押しの画面が楽しい『鵞鳥湖の夜』(2019-AmazonPrime,U-NEXT)、昨年新作一位にした『あのこは貴族』の岨手由紀子監督による短編『アンダーウェア・アフェア』(2010-Netflixなんかも良かった。

2022年に入っても依然としてコロナウイルスの猛威は収まらず、そのせいでイーストウッドウェス・アンダーソン、『彼女はひとり』などなど、期待していた映画を続々と見逃してしまった。なんといってもこれらを見るには東京~名古屋くらいの距離の移動が必要になるのでね。

そんなわけで年明け早々残念なことが続いたけれど、とりあえず明日は近所へ『ウエスト・サイド・ストーリー』を見に行く。楽しみ。ブログの更新頻度はなんとかしたいと思っています。それではまた。