リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その50〜2022年下半期旧作ベスト~

あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いします。あれやこれやと騒がしいテレビと、鐘の音響く静かな夜の空気には、いくつになっても年が明けたなと思わされるな、などとゆったりしていたら鏡開きも過ぎ新年気分などすっかり抜けてきた頃となってしまいました。

さて、昨年末の新作ベストテン記事にて予告したように2022年下半期旧作ベストです。7月から12月に見たもので、特別面白いと思えた作品についてコメントを添えつつ紹介したいと思います。なお、上半期ベストについてはこちら→

https://hige33.hatenablog.com/entry/2022/09/27/232828

 

 

『狙撃者』(1971)

マイク・ホッジス監督。列車がトンネルを抜けるとこから始まる映画はだいたいいいの法則。さてこの作品は田舎の荒涼とした風景、曇り空が最高。石造りで圧迫感ある裏通りと、そこかかる白い布の揺れが印象的。また、終盤に出てくる木造の橋から海辺の炭鉱に至る追跡シーンにおける景色の寒々しさは絶品で、斜面での決着、そしてリフトで運ばれる死体と最後まで完璧な流れ。死と機械仕掛けという点も含めすこしだけ黒沢清、特に『蜘蛛の瞳』を思い出す感覚がある。残念ながら配信なし。

 

 

ロボコン(2003)

古厩智之監督。高校のロボットコンテストを題材にした作品で、初心者である長澤まさみが率先して動き回ってバラバラの部員を繋ぎ、「青春」を遠くから眺める側だったのが、いつしか見つめられる人となることでチームが出来上がっていく。これは彼女が競技において、ロボットを操作し、バランスを取りながら箱を積み重ねる様とも呼応している。試合前夜に、部員皆で出前のラーメンを啜るシーンがベスト。ここでは誰も視線を合わせていないけれど、横向きの軽トラックがきれいに収まるフレームの中、感傷に流れ過ぎないセリフとちょっとした動きもあって、ちょうどよいチームのまとまりができている。

 

 

『七人の刑事 終着駅の女』(1965)

1961年よりTBSで放送されていたドラマの映画版。そのドラマは寡聞にして知らず、監督である若杉光夫の名も初めて目にするという体たらくだったけれど、これは傑作。上野駅のホームで刺殺された女の身元と犯人を追う刑事たちの話で、ドキュメンタリー的な映像と音によって当時の風俗、そしてたくさんの人が行きかう駅という「場」を描いている。殺された女は婚約者ではないか、あるいは娘ではないかと刑事部屋へ色々な人がやってきてはそれぞれ身の上話などをして、結局事件とは無関係だと判明するシーンなど本筋とは関係ないけれど駅を起点に人間模様が広がっていて、それが妙に心に残る。ぶっきらぼうに記録しているようなカメラの在り方、例えば物の出入りや、主張しすぎない長回しも非常に効果的で、さらに急なズーム、あるいは終盤の叫び声から顔のアップという鋭いカットまで充実の90分。

 

 

『聖の青春』(2016)

どの画面も良いレイアウトで、柳島克己による撮影が素晴らしい。特に村山聖羽生善治が東北での大会ののち、小料理屋へ出向き酒を酌み交わすシーン。窓の外に雪がちらつきはじめ、そのタイミングの素晴らしさに思わずダグラス・サーク、とつぶやいてしまう。さてこのシーンで2人は将棋に出会った運命の不思議さと、お互いこの相手ならば前人未到の、将棋の深い世界まで一緒に行けるかもしれないという話をする。それはほとんどメロドラマではないか。村山は難病という不幸から出会った将棋の先に、短い生涯の全てをかけるに値する運命の相手を見つけた。後の名人戦、比喩ではなく彼らは同じ姿勢で将棋盤に向き合い、対局を進める。ここで重要なのが録音の凄さで、対局がまるで親密な会話であるかのように、駒を指す音から衣のすれ、扇の軋みまでつぶさに拾い上げている。森義隆監督、録音の白鳥貢ともに注目したことがなかったことを恥じるほど驚かされた。

 

 

ブラック・サバス/恐怖!3つの顔』(1963)

マリオ・バーヴァ監督によるオムニバスホラー。一話目はあまり面白くないけれど、白い壁に囲まれた室内には金の壺やピンクの蝋燭といった飾り物が多く置かれ、また電話など差し色的に赤が。『知り過ぎた少女』の雰囲気に近い部屋だが、影の印象は少し弱い。二話目は木の橋を渡るショットがモノクロサイレントのホラーに近い雰囲気で強い。お馴染みアーチや螺旋階段のある廃修道院もいい怪奇。そして三話目が傑作。サスペンスとホラーを盛り上げる異常色彩は全カットぬかりなく、影の雰囲気も三作で一番良いのではないか。いかにも生き返りそうな、黒い服を着た死体の横たわるベッドから白のドレスに繋ぐカットもいい。

 

 

『新宿酔いどれ番地 人斬り鉄』(1977)

小平裕監督。そりゃあ、深作欣二中島貞夫と比べてあまり上手い映画だとは思わないけれど、この菅原文太はとにかく狂犬度が高い。ひたすら暴れている。開始早々、出所祝いの席で組長や幹部に悪態をつき叫び机を蹴り飛び出していく始末で「相変わらずのキチガイ」と評されるほど。そのテンションがずーっと続く。それがどうも面白かった。銃撃シーンも、人の動きはあまり派手ではないがいろんなものが散乱、破裂するのでなかなか楽しいし、佐藤允との対決でもそれは活きている。またピンクレディーの曲など随所でラジオから流れる音声をうまく利用しているのも特徴といえる。

 

 

三里塚 第二砦の人々』(1971)

小川紳介監督による、成田国際空港の建設に反対する地元民たちと空港公団・機動隊の衝突を描く、ほとんど戦争映画なドキュメンタリー。塹壕の中では男も女も関係なく砦を守るための作戦を練り、バリケードを補強し、あるいは冗談を言ったりタバコを吸ったりして抗戦に備えている。そうして実際に衝突が始まるとカメラはぶつかり合いの中心に入り荒々しく揺れる。激しい攻防の一方では婦人行動隊が行進し、あるいはあちこちで火の手が上がり、ふと上空ではヘリコプターが飛んでいる。その混沌が、ワンカットの映像と怒号と野次の音とで臨場感をもって伝えられる。自らを鎖で杭に括り付けて、泥にまみれながら「親子もろとも殺せ!」と叫ぶ姿など一体他にどこで見られよう。重機に火炎瓶、放水隊に石。平地、塹壕、丘と戦い方も場面も豊富。砦で抵抗、生活する人々の「場」が記録された傑作。

 

 

他には、手すり映画といえよう中川奈月監督『彼女はひとり』ジーン・ティアニーの水をはじいて走り出す姿が美しいジョン・フォード監督タバコ・ロード、病的な日常と一瞬の鋭さに刺されるシャンタル・アケルマン監督『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』も印象に残っている。まさかアケルマンが気軽に見られるようになるとは思いもしなかったですね。生きていればそういうこともある。

さて以上で2022年の下半期旧作ベストは終わり。2023年はもっと数を増やしたいですね。あと今読んでいる「映像が動き出すとき」がそろそろ終盤なので新しい本も色々読んでいきたいところです。そしてブログも継続して書いていきたいところ。最低月1回がやはり目標ですね。というわけで、また次回お会いしましょう。