リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『フューリー』を見た。

ぼくたちのしごと

ブラッド・ピット主演・制作の戦争映画。はじめて本物のティーガー戦車を撮影で使用したことでも話題に。共演はシャイア・ラブーフローガン・ラーマンマイケル・ペーニャジョン・バーンサルら。監督はデヴィッド・エアー


1945年4月。ドイツ国内へと侵攻を始めた連合国側に対し、ドイツは総力戦を決行。激しい戦いの中、一輌の戦車を率いるウォーダディー(ブラッド・ピット)は部下を一人亡くし、悲しみの中基地へと帰還する。そこで彼を待っていたのは次の指令と、亡くなった部下の代わりに配属された、新兵のノーマン(ローガン・ラーマン)であった。ノーマンは戦闘経験がなく、荒くれ者ばかりの部隊にも、女子供であろうと容赦なく殺さなければ自分が殺されるという現実も理解することができなかった。ウォーダディーは彼に無理矢理殺しを経験させ、戦争とはなにかを叩き込むが・・・

思いがけず宗教色の強い映画であったことに驚いた。冒頭、霧に包まれた死屍累々の荒野へ、白い馬に乗ったドイツ人が現れる姿をロングで捉えるという『アラビアのロレンス』のようなショットがある。ここから「馬」はそれぞれのポイントで、おそらく4度登場することになる。老婆によって内臓を切り取られるのが2度目。ドイツ人女性と食卓を囲んでいるときに語られる話の中に登場するのが3度目。十字路での激戦の後登場するのが4度目である。これは「ヨハネの黙示録」における、地上に勝利、争い、飢饉、そして死をもたらす馬なのではないだろうか。
またある登場人物は、終盤になって「イザヤ書」の第6章を引用する。神の怒りによって世界のほとんどが焼き滅ぼされると予言された箇所だ。そして映画は、激戦を終えた十字路の中心に戦車を置き、十字に沿うような形で転がる無数の死体を俯瞰したショットで幕を閉じる。十字路=十字架だとすれば、その中心たる「FURY」と名付けられた戦車はその名の通り神の怒りのことであり、その手足となって殺戮をもたらすのは4人の乗り手であると考えられないだろうか。さらに司令塔であるブラッド・ピットは、背中に無残な傷跡を負っている。新米兵に殺しを教え込み、男として成長させる彼は、特別な使者なのではないか。そう思わせるくらいこの映画はキリスト教的な要素を含んでいる。



もちろん聖書からの引用など考えずとも、ブラッド・ピットと新米兵のやり取りはデヴイット・エアーが脚本を担当した『トレーニング・デイ』を思い出さずにはいられないし、戦車内での粗暴なやり取りや、一瞬で死と隣り合わせの世界に投げ込まれる緊張感は『エンド・オブ・ウォッチ』のようだ。時代も職業も何もかも違うと言っていい本作に何故こういったデヴィッド・エアーの過去作との共通点があるかといえばそれはおそらく、これが「仕事」を描いた映画だからであろう。



この映画を「仕事」を描いた映画と言う理由は単純に、登場人物が台詞でそう言っているからである。彼らは何度も「これが俺たちの仕事だ」と言う。またある展開に差し掛かった際、彼らがその場に留まるのも、仕事を全うするためだ。そしてその「仕事」とは、当然「戦車を動かし敵を殲滅すること」である。
そしてその大きな「仕事」と関連し、登場人物たちにはそれぞれ個別の「仕事」も用意されている。それは「戦車を動かし敵を殲滅する」ことを全うするため、各々が歯車となりながら戦車を機能させるという「仕事」だ。どうやら戦車は乗組員一人一人に細かく役割が設定されており、一人でも未熟者がいたり欠けてしまったりすると命取りになってしまう機械らしい。まるで有機体のようであるがゆえに乗組員は、それぞれが各器官におけるプロでなければならない。
そんなプロ集団が各々自分の仕事を全うする姿。これがこの映画で最も興奮する場面なのではないかと僕は思う。衝撃的な人体破壊でも、ティーガー戦車戦でも、戦争の悲惨さを訴えたテーマでも男たちの友情でもない。周囲を観察する。操縦する。瞬時に状況判断し指示を出す。弾を装填する。標準を合せる。そして、発射。この一連の動きが阿吽の呼吸によって非常にテンポよく流れていく様子にこそ、僕は面白さを感じた。
ちなみにここには「家族」というテーマも見ることができる。同じ戦車に乗るメンバーは家族同然だ。父がいて女房役がいて、そして生きるすべを知らない弱い息子がいる。彼らは互いに助け合わなければならないし、息子は父に教育されなければいけない。非常に普遍的だが、彼らが特殊なのは、それが戦車の中でのみ機能しているという点だろう。戦車の外にある食卓で彼らは家族になれない。戦車に乗った時だけ、同じ食物を共有できる家族になれる。彼らにとっての家は戦車であるというのが面白い。



以上のように、本作は多くの視点から語ることのできる作品であろう。また話の流れが止まらず矢継ぎ早に次の行動・作戦へ移るのも良い。いくつかの会話シーンに対しては単調な切り返しだなと思ったり、個人的にはもっと戦車により市街地の破壊、攻防を見てみたいとか要望もなくはない。またはっきりとした不満としては音楽が語りすぎという難点があって、これは本当に大きなマイナスで勿体ないと思うのだけれど、基本的には満足できる作品でした。これは是非、爆音上映で見てみたいですね。