リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『トゥルー・グリット』を見た。

西部の国のアリス

ジョン・ウェイン主演の『勇気ある追跡』のリメイク。といってもより本作の方が原作に近いらしく、オリジナルを見てても楽しめる作品です。


父親を殺された少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)は、その犯人チェイニー(ジョシュ・ブローリン)を殺すため、トゥルー・グリット<真の勇気>を持つという連邦保安官ルースター・コグバーン(ジェフ・ブリッジス)を雇う。また、マティとは別の事件でチェイニーを追っていたテキサス・レンジャーのラビーフ(マット・デイモン)も加わり、3人で犯人の一行を追う・・・というストーリー。


まず良かったのは撮影。カラっとした広がりのある荒野の風景。馬に乗り駆けていく様。そして夜の映像なんかとくに奇麗だったと思う。自然の厳しさと美しさの対比的な表現が良く、1つ1つのシーンがすごくキマっていて、それを見ているだけでも楽しめる映画かもしれない。これぞスクリーンで見るべし!というものだろう。見た人ならわかるが〈あの夜のシーン〉は心底最高だと思う。
それと銃を使った見せ場が2つあるのだが、その2つは昼と夜、直接敵と対峙する男と遠くから狙撃する男が対比的になっている。そういうところも良かったのではないかな。ぶら下がっている死体を見つける場面も、突き放した死の感覚とでもいうのか、風景とマッチして印象的なシーンになっている。



また、本作は登場人物全員がとても魅力的であり、そこがまた本作をまたよりよいものにしているのだろう。
ヘイリー・スタインフェルド演じるマティは、ちょっと生意気で大人びている感じやところどころで見せる少女らしさが彼女の絶妙なルックスと相まってとても魅力的なキャラクターになっていた。
ジェフ・ブリッジスは『クレイジーハート』に続き飲んだくれの役。見た目は薄汚くて酒臭くてどうも頼りないのだが、節々に滲み出る魅力がある。彼は保安官でありながら片足は悪党につかっているという感じの人間で非常に面白い。
マット・デイモンもプライドは高いけどどこか抜けてるという感じのテキサスレンジャー役を見事にこなしていた。この男2人がお互いをガキっぽくバカにしあったり口論する様は楽しいし、後々にちゃんとこれが効いてくる。そして彼らはは映画の中で父親的もしくは兄的な役割を持っており、マティを対立しながらも導く存在である。


本作は父親を殺された少女の復讐の物語である。『勇気ある追跡』は悪く言えば単純なヒーロー的エンディングだったが、今回は渋い味わいがあるといえる。ネタばれになるといけないので詳しくは言えないが、彼女は天の教えに背き復讐の旅に出るので罰を受ける事になる。正義を下すということのための行為全てが正義とは限らないし、例え正義であってもいくつかの代償は避けられない、ということだろうか。彼女はキリスト教徒(プロテスタント)だ。そしてこの映画の中ではある行為が神の存在というか神聖なものへと化していく。それはヒューマニティというか、言葉では言いづらいものなのだけど。


3人がそれぞれの真の勇気を示し、あのラストを迎える。本作は最初に書いたように単純なヒーローものでなく、見た後もノスタルジックというか、何か心に残る物がある良い映画だ。抑えめの映画なので派手なものを期待すると腑に落ちない可能性もあるけど、良い映画なのは疑いようもないので是非見てほしい。先ほど書いたように映像の良さもあるので是非スクリーンでね。



勇気ある追跡 [DVD]

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↑単純、とか言っているけどつまらないわけではない。