リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『冷たい熱帯魚』その2

猛毒のススメ

まず、冷たい熱帯魚に関連して見ておくと面白い映画を紹介。
わらの犬

わらの犬 [DVD]

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復讐するは我にあり
復讐するは我にあり デジタルリマスター版 [DVD]

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この映画はどちらも本作にイロイロ関係あると思われる映画です。『わらの犬』はポスタービジュアルが似ているし(もちろんそれだけではない)、『復讐するは我にあり』は園監督が毎回役者に見せる映画だそうで。あとは『ファイト・クラブ』も少し似てる部分があるかも。



本題。園子温監督によると、この映画は「徹底的に救いのない映画を撮りたい」ということだったらしい。これは監督自身がそういう状況だったからということらしく、これを撮ったことで監督は解放されたようだが、その作用は見てる側にも及ぶ。このぶちのめされる感で妙なすっきり感覚を味わうのだ。猛毒療法!


また、でんでんをキャスティングしたのも監督の経験からだそうで、リアルな詐欺師たちの話し方を真似てもらったそうな。早口で陽気。いかにも!って顔ではない男。それが必要だという。前回も書いたが<そこにいる>感なのだろう。もちろんでんでん以外の役者さんも最高でしたけどね。全員がこの世界を存在感たっぷりに構築。女優陣の皆さんは脱ぎっぷりがまたよくてね。やるならここまでやらないとダメだっていう感じ。全員がベストの演技を見せることでこの映画をまた一段上へと押し上げるのだ。


ところでこの映画、146分もある。結構長いと思うのだが、それを感じなかった。それはやはりこの映画の持つ異様なテンション故なのだと思う。冒頭の家族の食卓シーンからよくわからないけどこちら側に迫ってくる感じがある。そこから更に観客をぐいぐいと物語に引っ張っていく。社本の様に気づいたら相手の手の中にいるようだ。そしていきなり投げ出される。見てると「えっ?えっ?」となるのだ。そうやってこの映画は転がっていく。


正気も狂気も悲劇も喜劇も何もかもごちゃ混ぜでぶっ飛ばしていく。そんな世界が、実際の事件と作り手の熱意により説得力を持って構築された。それゆえにこの映画は観客を魅了し、作品の中に私たちを引きずり込ませるのではないか。実際この映画は作り手側もびっくりのヒットになっているらしいが、それもやはりこの作品の力故なのかもしれない。


冷たい熱帯魚』は確かに万人にはお勧めできないかもしれない、しかしとにかく強烈な作品なので少しでも興味があるなら今すぐ劇場へ行けばいいし、エンターテイメントとして面白いのでさほど興味がなくてもとりあえず見てほしいのだ。というわけで、現在公開してる地域に住んでいてまだ見てない人よ!そういうことだ、よろしくな!