リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ウィンターズ・ボーン』を見た。

厳しさに生きる

ミズーリ州を舞台にした同名小説の映画化。監督はデブラ・グラニックと言う人で、長編映画は2作目だそうです。僕は小説も、監督も、作品の事すらもアカデミー賞にノミネートされたと言う事くらいしか知りませんでしたが、なんとなく見に行ってみました。



ミズーリ州の山岳地帯に住む少女・リーは17歳で家族の生活を支えていた。父親はドラッグの密輸で逮捕され、保釈後に失踪。母親はそれがきっかけで心を病んでしまい、彼女に頼るしかない状況であったためだ。ある日保安官の訪問により、リーは家と土地が父の保釈金の担保となっていた事を知る。また、数日後に行われる裁判に彼が出廷しなければそれらは没収されると言うのだ。家族を守るため彼女は父親を探し始めるのだが・・・と言うストーリー。



冒頭、ボロボロの家と寒々しくて荒涼とした土地が映し出される。木々は枯れ、物は錆びれ、空はどんよりとしている。この酷く寂しい印象を与える風景が非常に印象に残ります。なんかこう、全体によるべなさが漂っている、と言う感じです。『フローズン・リバー』なんかがこういう印象だったように思います。
風景だけでなく、衣装や小道具など細かいところからもその生活の厳しさがうかがえる。生きるために幼い兄弟に銃の打ち方やリスのバラし方を教えるなどの描写も<この場所で生きると言う事>を教えているようで良かった。こういうリアリティが映画全体の空気を作り上げていると思います。



また面白いなと思うのは村中どこ行っても知り合い・親戚だらけで、しかもそれがならず者であるという点です。閉じた社会の中で独自のルールを持ち、その中で生きているため、それをひっかきまわすようなリーを脅したり妨害するんですね。17歳の少女だろうと容赦しない。
僕はこの地域独特の閉鎖感が好きですね。誰も父親の事について口にしようとしない感じや、邪魔者を排除しようとする暴力性なんかは面白いなと思いました。そしてそこに否が応にも立ち向かっていかなければいけない少女の強さが一層際立ちます。



そんな過酷さを描いた本作ですが、どうもファンタジー的な色も見せる。もちろんそれはキラキラとしたものではなく、厳しく残酷なファンタジーです。遂に真相に辿りつくとき、彼女は魔女のような存在に牽引され、まがまがしさをたたえる沼地へと辿りつく。この美しさと残酷さが混合している場面は非常に印象的です。彼女はそこで通過儀礼としての冒険を終える。この物語は父の真相を探るミステリーではなく、一人の少女が過酷な冒険を通して生きる強さを得ていく物語なんですね。『トゥルー・グリット』とこの辺は似ていると思いました。



とういわけで、この映画で描かれているのはどういう人なのかはパンフレットを読まないとわかりづらいところがありますが、その地域の特殊性などがぞんぶんに表れた面白い映画です。そういう点では見る価値があると思います。
ただ、個人的には特別感心する映画ではありませんでしたね。ちょっと地味すぎるかなあと。感情的になかなか盛り上がっていかなかったというのが正直な感想です。なんだろうね。リンチシーンと沼地のシーンまで長いんだよなぁあと思いましたしね。いい映画だと思いますし、面白い点はいろいろありますが、そんなもんです。

ウィンターズ・ボーン スペシャル・エディション [DVD]

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