リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ゴモラ』を見た。

快適な暮らしをお届けします。誰かの死と引き換えに。

イタリアにある犯罪組織・カモッラの実態を描いた2008年の映画です。原作はイタリア国内でベストセラーとなった『死都ゴモラ』という、著者自身がカモッラに潜入調査し、その実態を暴いたノンフィクション小説だそうです。ちなみに作者はそれにより命を狙われているため警察の保護下にいるとか。



本作は5つのエピソードが交錯しながらカモッラという組織を暴いていく。カモッラにあこがれを持つ少年・トトの物語、組織の帳簿係でメンバーの家族や遺族に金を届ける役目を持つドン・チーロの物語、産業廃棄業者のフランコと彼の元で働くこととなったロベルトの物語、仕立屋パスクワーレの物語、そして『スカーフェイス』のトニー・モンタナにあこがれるマルコとチーロの物語の5つだ。その5つの群像劇がドキュメンタリックに進行していく。



この5つの物語の中に映画的興奮なるものは存在しない。即物的と言うか、あるのは目の前でそれが起こったという事実だけ。日常の中に犯罪が完全に混在し、その境界などなくなってしまった世界を淡々と映すんですね。感情移入を拒むようです。故にカタルシスも全く存在しない。殺し合いの抗争になる場面もありますが、興奮や爽快感とは無縁。一瞬で訪れ、それで終わり。人の死も何の感情もなく撮られています。



その様に映し出されるエピソードから浮かび上がるのはカモッラという産業。カモッラは麻薬や武器の密輸入だけでなく、建設やファッションすら巻き込んで一つの産業となっている事がわかります。特に印象的なのは仕立屋のエピソード。パスクワーレが仕立てた高級な服を着ているのはハリウッド女優のスカーレット・ヨハンソン。華やかに見えるけど、その裏にカモッラの存在があると言う事は誰も知らない。

カモッラは組織としては巨大ですが、ファミリーの結束や仁義と言ったものはまるでない。そんな世界で世界の中で札束を数える音は印象的です。利潤のために血は流れる。廃棄物と同じく人間もゴミのように捨てられ、それがどうなるかは知らない。



またカモッラが生活している集合住宅も面白い。カモッラのメンバーが住み、そこに住む少年は彼らの姿を見ながら育つんですね。そして憧れるようになる。『グッドフェローズ』でもそうでしたが、こうしてカモッラは途絶えることなく生まれていくのかなと。少年・トトの運命含め、そこがまた恐ろしいですね。



最近、イタリアでGDPの7%を稼いでいるのはマフィアだというニュースがありました。背徳により退廃しまくった結果、神に滅ぼされたという「旧約聖書」に登場する都市ゴモラになぞらえたこの映画は、そういった現実のリアリティを持って私たちに迫り、ワインや大聖堂などのイメージを冒頭からブチ抜く良い作品だと思います。

死都ゴモラ---世界の裏側を支配する暗黒帝国 (河出文庫)

死都ゴモラ---世界の裏側を支配する暗黒帝国 (河出文庫)