リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その5

『クロニクル』各地で絶賛なのもうなずける内容だった。まずPOV映画の新しい地平を切り開いているのが凄い。主観で映画を進めるPOVは、『クローバーフィールド』や『REC』がそうであるように、今まで「まるでその場にいるような」臨場感や緊張感を出すために使われていた。しかし、それらはリアリティがあるように見えてむしろ「この状況でカメラを回すなんてありえない」という思いを強くさせ、「これは映像作品である」という感覚が強調されることもあったように思う。
そしてこの『クロニクル』だが、そんなPOVの利点を存分に使いつつ、しかも弱点を解消している。利点はまず、主人公たち高校生3人グループ(アンドリュー、マット、スティーブ)への感情移入度が高いこと。もう一つ利点はあって、それは超能力を手に入れだんだんと強くなっていく過程を、うまい具合に省略しながら見せていくところだろう。
次に、弱点を克服しているということについてだが、一言で言えば、カメラの役割がテーマを物語っていたと思う。カメラはアンドリューにとってはじめ「世界を見る目」である。複雑な問題を抱えた家庭で育ち、学校ではイジメられ、どこにも居場所のない彼にとって世界とは、カメラを通して覗くものであった。このように本作では、アンドリューにとっての「世界」の見方が、映像表現として現れているのだ。なので中盤、超能力を手にした彼がその力で人気者になると、カメラの持ち手は違う人物に代わる。そしてある出来事の後、カメラはついに劇映画かと思うようなカメラワークに(もちろん納得させるかたちで)なる。さらには監視カメラ等の映像も駆使しながら映画は主人公たちの動向を追っていくのだが、これは「世界」が自分を見るようになった、もしくは、僕を見て、というアンドリューの心の叫びなのだろう。このように『クロニクル』のカメラは思春期にあるアンドリューの心情の表出でもあるのだと思った。
ところで、超能力でプカーっとちょっとマヌケに浮いたかと思ったら次のシーンでは空を飛びまわるようになる3人の姿や、物語の落としどころなどから、この映画は『マン・オブ・スティール』を連想させる部分がある。主人公グループの一人であるマットがプラトンについて話すところも同じだ。僕はちょっと彼について気になった。
マットはプラトンからショーペンハウエルユングや「ヒュブリス」(傲慢)という古代ギリシアの言葉などを引用する。これらは『マン・オブ・スティール』と同じように後の展開を語るものでもあるが、それ以外の理由も含んでいるのではないかとちょっと思った。以下ネタバレ。
この映画で成長するのはマットだ。彼は哲学によって自分と世界(遠いところにある実体のないもの)について学び、思考していたが、結局、身近な他人については分らなかった。それは思考が自分の内部にしか向いていないからではないか。だからマットはアンドリューを理解することも、救えもしなかった。最後に彼は旅に出る。3人で旅について話した時、マットは自らどこどこへ行きたいとは言わなかった。しかしラストで、彼は自ら外部へと旅立つことを決意した。それはアンドリューに対する愛であり懺悔なんだと思う。この映画はアンドリューだけでなくマットの視点からも若さゆえの頭でっかちさを描いており、マットを哲学好きにしたのには、こういう理由があるのではと、少し勘ぐってみた。
というわけで、思春期とか青春の輝きと残酷さを斬新な見せ方で描いて見せる、大変面白い映画だった。3人が寝そべりながら「今日は最高の一日だったよ」なんていうシーンは最高だったし、映像的な面白さも色んな意味で豊富だった。ただ、3,4年前だったらもっと感動できたんだろうなという感じもした。というか、この映画アンドリューに感情移入するとホントは最高なんだろうけど、個人的に一番それができたのはマットなんだよね。なんというか、アンドリューは「昔、俺はこうだった」という感じ。だから気持ちはよくわかるんだけど、ちょっと恥ずかしい気もするというか。ただ、マットが最後に担う役割程にはまだ大人にもなれていなくて、こう、どっちつかずというか・・・。
最後でどうも歯切れの悪い感想なってしまったけれど、大変面白い作品なのは間違いなかった。というわけで、青春に鬱憤を抱えていた人には特に超お勧めなのですよ。



ワールド・ウォーZゾンビ映画のはずが、何故か見た人の感想には「ペプシペプシ!」というものが多く、一体何事かと思っていたが、確かにこれはペプシだった。
ゾンビ映画が現実に存在する諸問題の象徴だとするなら、この映画に出てくる大量かつ全力疾走のゾンビ達は、交通手段が発達した現代における感染症の恐怖なのだろうか。劇中でもスペイン風邪やSARSについて話すシーンがあったように思う。またイスラエルの壁に関するシーンも、いろいろ皮肉が効いているんだなぁと見た後にそれについて調べて、少しわかりはした。
ただ正直、ゾンビの恐怖をちゃんと描けていないことによりその象徴性がうまく機能しているとは言い難い。波のように押し寄せるゾンビの画はいいけど、それ以外のシーンにおけるアクションとか恐怖演出は全体に微妙だ。追われている恐怖をしっかり見せるとか、ハラハラさせるような部分だとか、人間がゾンビになる無慈悲さについてもっと描写すべきだろう。
ストーリー運びも酷い。後半になるに従い地味になる展開が悪いというのではなく、単に脚本が雑なんだと思う。人間ドラマに定評のある監督らしいが、それも全く発揮されていない。恐怖表現もドラマも中途半端では、いくらそこに意味を込めてもそれは虚しいだけじゃないか。
ただ、僕はこの映画が嫌いにはなれない。というのも、ものすごく好きなシーンが一か所あるからだ。ネタバレになるから詳しくは言えないんだけど、ある男が「滑る」シーンがあって、それがもう、映画史上に残るマヌケさで最高なのだ。ここだけは本当に大好き。今後忘れることができないシーンの一つだろう。他にもだるまさんがころんだとかペプシだとか、色々ツッコミながら見ると面白いところはたくさんあるのだけど、あのシーンにはツッコませることすら許さない何かがあった気がする。というわけで、ゾンビ映画としては全くおすすめしないけど、個人的にはまぁ満足です。