リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その4

イノセント・ガーデン
ピアノや靴などはもちろん、穴、棒、血と全編に渡ってセックスの比喩が用いられており、直接的なシーンは無くても十分にエロス(エロいとは言わない)を感じ取ることができる。積み重ねられていく繊細なエロスは暴力によってついに解放され、少女は大人へと変貌(もしくは、バースデーケーキと同じく、大人になることは封じられ別の何かになったのかもしれないが)する。そしてそのこともまた、卵や靴に囲まれた少女、狩りといった比喩で表現されているのである。
このように『イノセント・ガーデン』は視覚的な比喩によって構築された映画であると言えるし、それ故に映像的にとにかくこだわりぬかれている。小道具から服装、そして家の内装まで、視覚的に刺激を受けるように設計されているのだ。それを支える撮影もまた美しい。最も印象的なのはやはり数度登場する階段での場面だが、それ以外にも、ロングとクローズアップをうまく使い分け、そして長回しの場面に限らず、止まった画はあまりつくらないようにしていた気がする。また編集というか場面繋ぎも独特で、それによって生み出されるリズムに乗れるかどうかでこの映画の好き嫌いも分かれると思う。個人的にはファーストカット(とオープニングクレジット)でもうビンビンであった。リズムという事で言うと音の使い方も絶妙。それは音に敏感なキャラクターがいるからということもあるけれど、メトロノームやある女性が死ぬところなどはその点でも面白いと感じた。
監督はパク・チャヌク。韓国の監督で、ハリウッド進出第1作目だが、ここまで独自の世界観を出せているのは凄いんじゃないか。その理由の一つにはおそらく、撮影監督がチョン・ジョンフンだからというのがあるだろう。パク・チャヌクとは韓国時代から組んでいる人で、『ラストスタンド』でもそうだったが、ハリウッドは世界中から人材を集め、しかもその人が撮りやすい環境をセッティングしているという点で懐が広いというのか、やはり凄いと思う。
ハリウッド第1作という事で、パク・チャヌクはいつものエグイ描写を排し(暴力描写自体はある)、繊細なタッチで映画を進める。しかし、この映画は過去作の集積でもあるように僕は思う。原題『Stoker』が『ドラキュラ』の原作者ブラムス・ストーカーであるというところは吸血鬼を描いた『渇き』を連想させるし、無垢の中に形容しがたい感情を潜ませるミア・ワシコウスカは『親切なクムジャさん』と似ていると言えるし、ネタバレになるから言えないが、家族間の関係という事で言えば『オールド・ボーイ』も思い出す。
と、色々とわかったふりして書いてはみたが、一言で言えば映像が超ビンビンでうっとりしちゃったという事である。ミア・ワシコウスカの眉間にしわ寄せ顔も魅力的だし(つか、普通に好み)、ビックリするほどに脚フェチ映画。というわけで、いろんな意味で映像にフェチズムを感じることができる、良い作品だと思う。僕は凄く好きな映画でした。



愛、アムール
第65回カンヌ国際映画祭においてパルムドールを受賞し、85回のアカデミー賞では作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞にノミネート、外国語映画賞を受賞した作品。
ミヒャエル・ハネケ監督の作品はそんなに見たわけじゃないけれど、本作ほど暖かさがある(ように見える)作品は初めて。そもそも部屋の内装が明るい。それは愛というものを描くためなのかもしれない。ただ、その愛とは決して他人が理解できるものではなく、2人の関係性のみにおいて適応される感情なのだと本作は言う。2人の間で交わさせる約束事は周囲に理解されるはずもなく、中盤、鳩によって象徴させているが、介護が必要な妻との生活を無理解な周囲によって邪魔されるくらいであるならば、2人だけで生きていくことを夫は決める。映画は、そこに決して寄り添ったりはしない。ただ淡々と、彼らはそうしたのだという事を描いてい。
ハネケらしさが見えるとすれば、この淡々とした、という部分がまずそうだろう。淡々と病気の進行や介護の日常を描くことで(しかも一つ一つのカットが長く、部屋という空間をしっかり見せることでリアリティを感じ取らせている)、その大変さ、苦しさをじわじわと見せていく。食事や水を取らせるシーンも印象的だが、鏡の使い方も良かった。看護師は悪気があるわけではないが、じっくり2人の関係を見てきた私たちにとっては、あれはあまりに暴力的な鏡だった。
他にも、多くの部分で『セブンス・コンチネント』に通じるものがあるし、愛という言葉で覆われがちなものをじっくりはがしていく作業はそれまでの「いじわるな」ハネケ節に通じると思う。また例えば『ベニーズ・ビデオ』や『ファニー・ゲーム』のように、ハネケは映画内に映像全般への批評的視線を持ち込ませることもあるように感じるのだが、本作では冒頭に「鑑賞している人々」をじーっと映すところがある。そして閉鎖された空間というのも、僕が見たハネケ作品には通じるものだった。
しかし、その閉塞感は終盤、またも登場する鳩によって打ち破られる。その鳩が象徴するものはざっくり言うと「魂の解放」だと思う。そして何から解放されたのかといえば、それは「愛」なのだろう。解放された魂たちは、閉鎖された場所から出て、帰ることなくどこかへ向かう。
というわけで、介護問題や愛のみならず、映画の仕掛けについてもいろいろ考えてしまう作品ではある。ただ、考え抜かれたであろう構図や見せ方、描かれているものと距離を取るような視線は、やはり意地悪さというか、手のひらで踊らされている感じがしてしまう。だから悪いというわけではないし、実際とても良い映画なんだけど、なんかこう、見た後に色々考えるのはいいけど、今一つ映画自体に乗りきれないんだよなぁ。あ、あとフリードキンの『BUG』が好きな人にはオススメかもしれない。

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『バレット』
馴染みのハンバーガーショップに行くと、店主が「いつも食べているバーガーにアジアンテイストの新食材を入れてみた」と言うのだけど、いざ食べてみるとやっぱりいつものあの味であり、それはそれで安心するが、それでいいだろうか、まぁいいかと思い、店を出る。そんな映画。

バレット [DVD]

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