リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その18

ホーンズ 容疑者と告白の角
あまりに下衆な人間達をせせら笑うコメディでありつつもホラーやサスペンスをしっかりと取り入れ、言い訳など無用とばかりに荒唐無稽を転がり続ける様は潔いが、しかしそんな中にあって一貫してダニエル・ラドクリフは生真面目を突き通しているというギャップにまた笑える。彼の存在が軸となるおかげで、この物語がラブストーリーとして存在していることに感動した。この軸を、つまりラブストーリーや青春映画としての魅力を損なわなかったからこそ、荒唐無稽は勝利できたのだろう。
もちろん、そこにはリンチ作品でおなじみフレデリック・エルムズの撮影による郊外や森、ダイナーの風景、赤をポイントにした画面の設計が大きな力を持っていたことは間違いない。しかしこのように真っ当な力を持つ作品内において、おそらくは最も真っ当さと下衆さが際立つであろうシーンが日本公開時にカットされてしまっているというのは全く以て残念としか言いようがない。



『ヴィジット』
脚本から恐怖を煽る演出に計算されたワメラワーク等、どこを見てもストレートに上手い映画である。もちろん、シャマラン作品らしいと言えるような妙な味付けはそこかしこに振りまかれており、本気なのかギャグなのか分からなくなるような祖父母との交流や、何かありそうで何もないという演出が醸し出す感覚は流石だ。しかしこの「分からなくなるような」というのは祖父母を訪ねる姉弟と一致した感覚である。本作は「分からない」事を解き明かしに行き、そこで「分からない」人物と出会うことで、姉弟の中にある「分からなさ」と向き合う羽目になる。
ところで、『ホーンズ』のように自分は一歩引いて見せるアジャとは違い、シャマランはどんなに他からは変に見えても、本人はいたって真剣なのだと思わされる。シャマランは直喩の人と言えるであろう。例えば姉にとってカメラとは、彼女が世界と戦かうためのアイテムなわけだが、そのアイテムをまさに武器として使い、しかも閉められた扉の鍵をぶち壊す道具としてしまったことには恐れ入った。またカメラとは他者を覗くことこそできれども、自らを覗くことは出来ない道具であるように思うのだが、そんな彼女は一体、何に顔を打ち付けられたか。一方弟は、身も蓋もないトラウマアタックをある人物から食らわされることになり、ここでカメラは、その一部始終をどうしようもなく記録してしまっている。こういった直線的で身も蓋もない表現が、「分からなくなるような」感覚を突破する。そしてまた素晴らしいのが、突破した先にある光景を見て、シャマランは本当に、愚直なまでの映画・物語信奉者なのだなと納得させられてしまう点なのだ。的確と独特の間を普通とは違う速度で往復する演出だけではなく、奇をてらったように見えて実のところものすごく直進的かつ真摯な脚本によって作り上げられた本作を素晴らしいと言わずして、一体どう評せというのだろうか。

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