リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その16

『怪猫呪いの壁』(1958)
三隅研次監督による怪談映画。和泉国の藩主(伊沢一郎)は、前妻を失った後に我が子の乳母・志乃(近藤美恵子)を見初める。しかし殿の不在時に、勢力拡大を狙う者の策略により志乃は不義密通の汚名を着させられ殺されてしまう。死体は前妻の愛猫と共に城内の壁に埋められた。志乃の兄(勝新太郎)らは妹の死の真相を探るが、城内では恐ろしい現象が起こり始めていた。
これは怖い。物語はエドガー・アラン・ポーの『黒猫』を下敷きにしているようだが、それよりも恐ろしいのが演出だ。とにかく恐怖演出が冴えており、非常に見応えのあるものとなっている。
先ずは光と影の演出。これが見事であると思う。怪奇現象が起こる際、画面にはフッと影が落ちるのだが、それゆえに、ぼうっと照らされる部分の異様さが際立つ。志乃が自分を陥れた憎むべき女(村田知英子)の下へやって来る場面での照明の感じも面白いので是非見ていただきたい。壁や障子などに映る影の使い方も面白かった。例えば廊下を走る女が、突き当りの壁に映る影を物の怪と見間違うところなどは素晴らしい。移動のタイミング等、計算され演出された恐怖だ。その他にも、人物の移動に関しては凝られた演出をいくつか見ることができる。
次に「シミ」の演出である。女と猫が壁に埋められた後、度々壁に黒猫の「シミ」が現れるのだが、これがまさに「染み出してくる」と言う感じであり、じわじわとおそろしい雰囲気を醸し出している。先ほど述べた移動と影と、さらにこの「シミ」が浮き出てくるというのが同時に見られるシーンもあった。このじめっとした表現方法には、後のJホラーに通じる恐ろしさを垣間見ることができる。
音の演出も面白い。後半、修験者が呪いをおさめるための祈祷を行っているときになっている、ノイズのような音は居心地が悪く、特に印象に残る。
その他、「めまいショット」とも言われる方法で生首を持った幽霊が近づいてくるように見せる場面だとか、猫に憑りつかれた女が天井をカサカサとはい回る姿などは(多分すこし早送りしている)、かなり不気味である。僕はこの当時の映画に詳しくないので分からないが、この作品は色々新しいことに挑戦していたのではないか。そしてその試みは、間違いなく成功していると僕は思う。ほのかなエロティシズムも良い。
さて、このように色々な方法で怖がらせようと面白い演出をしている映画ではあるが、主演は御存じ勝新太郎であり、最後に大きな立ち回りも用意されている。この場面は、猫に憑りつかれた女がばひゅーんと飛んできたりもするので見せ場として悪くはないが、正直、この映画ではまだあまり勝新太郎の魅力が出ていないように思う。この1年後に撮られた森一生監督『薄桜記』でも、市川雷蔵に比べると勝新太郎はまだ、イマイチであった(役柄上仕方ないけど)。しかし更にその1年後の、これまた森一生監督『不知火検校』では非常に魅力的な役を演じていたので、このあたりは役者として開花直前と言う感じなのだろうか。
三隅研次監督の怪談モノでは『四谷怪談』もある。割と不条理な怨念で襲ってくるお岩さんは面白いが、個人的にそこまで良いとは思えなかった。しかしこの『怪猫呪いの壁』は大変すばらしく、「三隅研次、やはり天才か」と思わされた。三隅監督による怪談モノでは、他にも『執念の蛇』という映画があるらしいのでこちらもぜひ見たい。

怪猫呪いの壁 [DVD]

怪猫呪いの壁 [DVD]