リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その44

 先月の18日、『顔役』『桜の代紋』『兵隊やくざ 火線』『悪名 縄張り荒らし』の4作品のソフトが発売された。いずれも今までDVD化されていなかったもので大変素晴らしいラインナップだと思う。さてこのうち、『顔役』は3年ほど前に新文芸坐で見ており、確かそれが、映画を見るために旅行をした初めての経験だったと思う。『桜の代紋』は中古のVHSを購入し見ていたので、今回は未見だった2本について書こうと思っていたのだけれど、見てみるとこれが増村にしては、という印象で、勝プロ制作のらしさはあるものの正直に言ってイマイチだった。例えば『悪名 縄張り荒らし』についてはラストこそ素晴らしいけれども、リメイク元となる最初の2本を見た方が良いように思えた。もしくは『やくざ絶唱』とか。というわけで今回は、2017年に発売されていた『玄海遊侠伝 破れかぶれ』について書いていく。

 

 


玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970)
マキノ雅弘監督に笠原和夫脚本。牧浦地志の撮影に内藤昭による美術。主演はもちろん勝新として、共演が松方弘樹津川雅彦と山本麟一、女性陣には安田道代、そして京マチ子という顔ぶれで、大映なのか東映という具合で、実際、鶴田浩二が主演した『日本大狭客』(1966)のリメイクにあたるらしい。そちらを見ていないのでどのような違いが生まれているかはわからないが、とにかく吉田磯吉の若き日々を描いた作品である。

 

 

さてこの布陣なのだからいちいちシーンの良さについて触れることもないだろうが、そんな中でも突出して美しいのはガス灯のあかりによって照らされる夜の場面で、霧がかったよう少しぼやけた光には、どこかハイカラな雰囲気がある。そこに波止場だ銃だとくれば、なんだかアメリカ映画のようだ。

しかしそのように思えるのは、この作品が任侠の精神だとかよりもメロドラマに重心が置かれているということも関係しているだろう。このことは最も溜飲を下げる憎き敵陣への討ち入りをじっくりとは描写せず、なによりも勝新太郎と安田道代の、というより、安田道代の悲恋をこそ肝として描写していることからわかる。

 


まず素晴らしいのは、窮地に立たされた勝新太郎に波止場で金を渡すシーンだ。照明の塩梅もさることながらここでは安田道代の動作がなにより印象的であって、彼女は勝新太郎の周りを歩きながら、クルクルとよく振り返る。そして不思議なのは、振り返るという動作に合わせカットを変えつつも、しかしタイミングが微妙にズレるように、つまりアクションが二重に見えるような編集をしている点である。もともと律儀なアクションの繋ぎはマキノらしい部分であるように思うし、また微妙にそのタイミングをズラすというのも何か他の作品でも見たような気がするのだけれど、とにかくこの方法によって安田道代と勝新太郎の間に流れる時間や空間は単なる連続性をやや超えて、主観的な印象が入り込んでくることとなる。それは3度目の出会いにしてもそうであって、安田道代が刀を振り下ろすとき、その一部始終の動作の切り替わるタイミングによって、空間全体に漂う緊張感の推移が見て取れる。

最後に彼女が振り返るときには、冒頭に聞こえた銃声と、中盤で受け止めた胸の痛みが変奏される。勝新太郎の成り上がりを描いているようでありながら、物語の契機となるのは安田道代の動作によってであったと気づく。それゆえに、松方弘樹らと討ち入りのため合流するとてもいいシーンも若干印象としては弱まってしまっているようにも思うけれど、やはりこの作品の、大きな美点であると思う。

 


ところでもう1人、ある役者についても付け足しておきたい。山本麟一。何に出ていても安心感のあるこの役者の面白さ。喧嘩の仲裁を買って出るも勝新太郎に水を空けられるシーンにおいて、彼は分が悪くなったと感じ取るやいなや、じっと黙りつつ頬周りから首のあたりの筋肉をヒクヒクと動かし始めるのである。いや、どう動かしてるのそれ?と思わずにはいられない。そしてなにか、負け越しそうという予感も漂う、見事な演技ではないか。思わず感動してしまった。

 

玄海遊侠伝 破れかぶれ [DVD]

玄海遊侠伝 破れかぶれ [DVD]

  • 発売日: 2017/01/27
  • メディア: DVD