リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その19

『桜の代紋』(1973)
三隅研次監督による刑事映画。現代劇は珍しいように思うが、主演はお馴染み若山富三郎。型破りな刑事を、文字通り体当たりの熱演で魅せる。その他、若いチンピラ役で石橋蓮司、ヤクザの幹部に渡辺文雄、そしてヤクザの親分役で大滝秀治が出演。
本作最大の魅力。それは殺伐さである。まずソフトの裏パッケージに書かれた謳い文句が凄い。「俺の捜査に手錠はいらねぇ!全員射殺(みなごろし)だ!」いくら今よりおおらかな時代だったとはいえ、流石に凶暴すぎる。そして本編も、この言葉に負けず劣らずの凶暴さである。冒頭からラストまで、とにかく人が死ぬ。非道な暴力が炸裂する。血が流れる。しかも、人が死ぬシーンで盛り上がったりはしない。サクッと死ぬ。主人公が復讐の鬼となって敵を皆殺しにするシーンでもそうだ。決してヒロイックに見せたりはしない。そんな異様に殺伐とした暴力世界を、三隅研次がさすがの演出で切れ味鋭く見せる。
凄いのは暴力シーンだけではない。例えば、喋っている人物を直接見せない演出や、揺り椅子に座った人物の主観ショットなども面白い。撮影は、眠狂四郎座頭市などで三隅監督と組んでいた森田富士郎
取り調べ室でのやり取りもいい。非人道的な取り調べでさんざん被疑者を弱らせたところで、息抜きにスポーツと称し、若山富三郎がひたすら柔道の投げ技を決めるという流れは、動ける巨体・若山富三郎流石の見せ場と言った感じである。
ところで、取り調べ室でのシーンが面白い映画とは大体いい映画なんじゃないだろうか。それは取調室という場所が狭く単調であるために、そこをどう見せるのかで監督の演出力が試されているからかもしれないし、そもそも警官がひたすら人をいたぶる取調べというシチュエーション自体が面白いからなのかもしれない。もしくは、ある個人の精神を否応なしに揺さぶる取り調べという行為が否応なしに展開に巻き込む映画の特性と呼応しているからかもしれないが、とにかく映画では、だいたいそういうことになっているように思う。
三隅研次によるこのバイオレンス映画は、残念なことにDVDが出ていない。しかし本作の影響を受けかと思われる作品はいくつかあって、例えば北野武の『その男、凶暴につき』や黒沢清の『復讐 運命の訪問者』あたりは話の筋がまず似ている。北野武に関しては、本作の姉妹編と言える作品らしい勝新太郎の『顔役』からの影響かもしれない。しかし黒沢清は、本作をいつだったか邦画のオールタイムベストにも選んでいたりもする。そんな作品を、たった500円で見ることができたのはまさにラッキーとしか言いようがない。皆さんも、本作を見つけたら速、レスキューしてほしい。