最近ますますブログの更新が滞っておりますが、とりあえず2017年も上半期が終わりましたので、旧作映画のベストについて書きます。今年1月から6月の間に見た旧作で特に面白かったものを列挙していきたいと思います。
『怪人マブゼ博士』(1933)
ラングの中でも大好きな作品。見えない犯罪者を中心としたテンポの速い犯罪映画だが、その見えなさを利用した一種のホラー映画としても最高。とりわけ音・声の演出が素晴らしく、見る・聞くの驚きに満ちている。例えばまずは冒頭の、工場の地下にあるのかと思われる部屋の中では、ものが揺れるほどの振動音が響いており、そのテンションの高さから爆発までの流れで一気に引き込まれてしまう。その後の、電話中に襲撃される場面にも犯罪映画的サスペンスの面白味があるのだが、このようにして事件に巻き込まれた人間の中には、見えざるものが見え、見えるべきものが見えなくなり、また不在の声を聞いたり、はたまた言葉を失ってしまう者がいる。そして全ての中心にいるマブゼは自身の姿こそ見せないが、声を借り、文字を借りて世界に混沌をもたらすのである。高橋洋が最も恐ろしい映画として挙げたのも頷ける、理解不能な理論で世界が書き換えられようとする、素晴らしい恐怖映画であり、一級の犯罪サスペンス映画だ。
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『冬冬の夏休み』(1984)
これは素晴らしい夏休み映画で、走ったり遊んだり寝そべったりする子供たちが、ただ単に子供たちでしかない良さがある。風景も美しく、心地よい時間が流れていはいるものの、そこには死や悲しみも普通に存在しており、そういったすべてをひっくるめた時間と空間が豊かに映し出されているのだ。何度か登場する列車のタイミングが最高。
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『日本暴力団 組長くずれ』(1970)
高桑信監督による日本暴力団シリーズ二作目。この監督についてはなかなか調べても情報が出てこないのだが、しかしやはり面白い。若山富三郎の出番が異常に短いのは残念ではあるものの、鶴田浩二と池部良の兄弟設定、そして何より山本麟一に男泣きである。銃撃・襲撃シーン等、画面奥左右をドアや窓、柵を利用した画面構成へのこだわりもいくつかの場面では見られるのだが、色としての白が多いのも印象的で、冒頭からして異常なまでに白く、またそんな中に時折差し込まれる赤も鮮烈な印象を残す。
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『みかへりの塔』(1941)
更生学校の子供たちの、只々歩いたり走ったりというような様々な行動が生き生きと捉えられており、カメラもまた気持ち良く動いている。ロングショットが抜群に美しい。断片的な話を、そういった町の風景が繋いでいるようにも思えた。喧嘩や靴の話などは時折サイレントのようでるが、その少年同士が橋の上で喧嘩する場面でのカット割りや、最後の開墾風景はまるで西部劇風でもある。しかしそういった生き生きとした子供たちの動きに対して、元生徒が尋ねてくる座ったままの静かなシーンによって、話に重みがかかっている。
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『ギャング同盟』(1963)
オープニングクレジットからカッコよく、全編スピーディーに展開するクールな作品。鶴田浩二みたいなスターは出ていないが、しかしその、華やかさとは違う負け犬達の渋い戦いがかっこいい。クールでサスペンス調の誘拐シークエンスに、黒の映える画面、そして正体不明瞭な「組織」とのやり取りはハードボイルドな雰囲気を醸し出しているものの、最後には西部劇調の廃屋での籠城戦となる。ただしアクション演出でいうと、むしろそのクールなトーンに合わせて一瞬のうちに光るエレベーターでの場面の方が、本作の場合は面白いかもしれない。深作欣二が主張にハマりすぎず撮ったギャング映画の佳作。
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『顔役』(1971)
細かい感想はこちら→最近見た旧作の感想その30 - リンゴ爆弾でさようなら
勝新太郎監督作が醸し出すダウナーな空気感が好きなのである。
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『僕の彼女はどこ?』(1952)
ダグラス・サーク監督によるコメディ。話の動機としてはどうなの、と思わないではないけれど、爺さんを中心にひたすら言葉の応酬をし続ける楽しい作品。酒場や賭博場に顔を出すシーンはその顛末も含めて笑える。層をつくり、その中を登場人物たちに出入りさせ、また多くの動きをつけることで画面が生き生きとしている。色使いは流石の一言。メロドラマの系譜よりもこちらの方が個人的には好きで、クリスマス映画としても抜群の雪の美しさ。傑作。
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『牯嶺街少年殺人事件』(1991)
細かい感想はこちら→最近見た旧作の感想その31 - リンゴ爆弾でさようなら
これもまた、控え目に言っても驚くべき傑作。
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『シー・ホーク』(1940)
マイケル・カーティス監督、エロール・フリン主演による海洋冒険活劇。海戦から集団脱走に潜入モノと、内容てんこ盛りで飽きさせない娯楽作。音楽も含めておそらくは『スター・ウォーズ』に影響を与えたのだろうと思われる。室内外問わず縦奥に広いゴージャスな空間の設計が見事で、また陰影を凝らした撮影がいい。夜の街並みや海、無人の船に落ちる影、そして最後の剣戟ではその空間と影の面白さが存分に発揮されており、とにかく見所いっぱいで楽しい。ヒロインを演じたブレンダ・マーシャンも可愛かった。
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『アンダーカヴァー』(2007)
撮影に目を惹かれる作品で、一つ一つの画面に貫禄がある。目線で語るのが主になっており、出来事を見つめさせ、またその交わりで緊張感を高めさせたりするのがうまく、さらにその上で物語を自然に展開させる脚本が良いと思うのだが、対して銃撃戦やカーチェイスなどのアクションシーンは視界不良の中で行われている。特に麻薬工場での、扉やビニールカーテン、それに闇を利用したそれは音や血の効果も相まって印象に残るシーンであった。
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『三十九夜』(1935)
ヒッチコック作品の中でも特に素晴らしいこの作品は、風に揺れるカーテンが一つの殺人事件を運んできた後止まることを知らぬまま、ある男が乗り物や群衆を駆使しつつ、女と関わりながら逃亡劇を展開することとなる。ヒツジの群れから始まる霧の水の夜のシーンが素晴らしく、更にその後の、手錠をはめられたままの男女が一つの部屋に泊まることとなる場面では、女がストッキング脱ぐ際、手錠というアイテムによって性的な行為ひとつなしに性を強烈に印象付けている。
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『時代屋の女房』(1983)
夏目雅子の存在感がイチイチ最高で、何故か傘をさして登場するこの殆ど幽霊か妖怪かとすら思えてしまう正体不明気味な女性は、その動きによって圧倒的な魅力を画面にたたきつけているのだ。勿論この作品の良さはそれだけではなく、時代屋の家屋設計といった美術面から、その家の中で層をつくり画面手前奥で異なる動作の流れをつける演出も魅力的なのである。平田満が出てくるシーンは全編面白動作大会すぎて最高。森崎東監督作品は初めて見たのだが、これは面白かった。
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『暗黒街の美女』(1958)
鈴木清順による、死んだ男が呑みこんでいたダイヤモンドを巡る争奪戦。キャラクターの個性が立っており、またダイヤモンドをいわゆるマクガフィンとし、アクションを止めないで進行するスピード感が最高な娯楽作。影を駆使した犯罪映画としての雰囲気立てもかっこよいし、白木マリが水島道太郎と追いかけっこをしたり、川辺で歩いている辺りの自由な動きも魅力的だ。ところで、鈴木清順作品は柵やガラス窓、壁といったものに登場人物がしがみついたり、張り付いたりするシーンがいくつかみられるような気がする。すぐさま思いつくのは『野獣の青春』の宍戸錠、『けんかえれじい』の浅野順子だが、今年初めて見た『港の乾杯 勝利を我が手に』も『悪太郎』にもそういったシーンはあった。
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というわけで、以上が今年上半期に見た作品で特に面白いと思った作品でした。今年もなかなか新作映画についてブログを更新できない状況にあましたが、しかし北海道から東京という遠さがありながらも名画座へ行く楽しさを覚えてしまい、金は消えてゆくものの『顔役』や、鈴木清順の作品を見ることができ、また『牯嶺街少年殺人事件』の全国での公開もあって、今まで見ることを半ばあきらめていたような作品に触れることが出来たのは、大きな収穫でした。下半期もどんな作品に出会えるかも楽しみですね。