リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その9

マイ・ブラザー 哀しみの銃弾』車と、そして道路が印象的な映画だった。例えばロングショットの画面に佇む姿であるとか、もしくはその画面内を進んでいく姿や、また曲がり角といった限定的なポイントでの車と道路などといったものが、この映画において僕の印象に残る場面であった。当然、銀行強盗の後、奪った車で逃げ去ろうとする兄が、銃を構え制止しようとするも結局銃を撃てずにいる弟を残し、そのまま去ってしまう横移動のショットは言うまでもない。静かなドラマチックさがこの映画にはある。
兄弟のドラマが主軸となる本作で、最もドラマチックなのは弟が兄に対し「ある約束」を果たすシーンだろう。ここで兄弟は、初めて絆を線で結ぶことになる。それ以前にも家族が集まるシーンはあるが、そのどれもが中途半端なまま終わっている。しかも家族の中では犯罪者の兄より、むしろ警官の弟の方が異端児であるかのように描かれており、その理由は父の口などからも語られるが、ちょぅせつ的ではないにせよどれも弟の精神的な弱さが理由になっているようにも見える。だからこそ、彼がある選択を兄に伝える場面が際立っていた。
70年代の雰囲気を再現した映像に、当時の音楽を多用するセンスは良いと思う。ただここで「sunshine of your love」を使うのはどうしても『グッドフェローズ』を思い出すし、マリオン・コティヤールが売春宿を再開する場面の編集も似ていて、気持ちはわかるがこの作品の雰囲気にはそぐわない気がする。節度のある銃撃戦はカッコいいし、全体にいい映画だとは思うけど、それっぽさの模倣の域を越えず、頭一つ抜けて面白いものは感じられ無かった。繰り返すけど、いい映画ではありますよ。

カリートの道 [Blu-ray]

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『渇き。』わざわざ宣伝文句に反応する必要はないのだけど、「劇薬エンターテイメント」と言っている割には別に毒が強いわけでも強烈な表現があるわけでもなかった。暴力や性は表面的に刺激があるように見えるだけであって、実像があるわけではない。例えば、暴力は大量に登場するがそれは暴力のイメージであって、「暴力を表現しよう」というものではない。また劇中、写真が重要なアイテムとなるが、あんな何も映ってないつまらない写真が何になるというのだろう。肝心なところで強烈さが足りていない。ただ、「ヤバい」ことが起こっている「風」なのだ。
本作において、この実像がなく、表面的であるのは重要なポイントである。なぜならそれこそがこの映画のテーマだからである。役所広司演じる主人公・藤島は最初から最後まで一辺倒に汚くて馬鹿な男だし(罵倒が場面を繋ぐのは面白いけど)、他の登場人物も皆、自分のことだけしか見えていないくせに、他人との絆という幻想を実現させようとしている。藤島や周りの人物は結局ありもしない何かを探し続け、これからもそこにすがり続けるのだ。まさに「果てしなき渇き」である。無茶苦茶に見える編集も、誰も繋がっていないことを際立たせるための仕掛けなのかもしれない。
愛も家族もすべて空っぽなんだ、空虚なのだ。というのは別にいい。CM風映像の悪意に満ちた使用法も面白いと思う。ただしこの映画は最初から最後まで「はーい。からっぽでーす」と宣言しているので、真に迫ってくるものもない。これでは毒にも薬にもならないのだ。ストーリーに関してもある一点を除いて驚きはなく、一発目の画面で分かることを観客は繰り返し繰り返し見せられる。意図は分かっていても、それを見つづけるのはしんどい。
ただ本作は別につまらないというわけでもない。初めからこういうものだと割り切ってみれば笑える場面は多いし、役所広司のヤク中見分けっぷりは流石「シャブしゃぶしゃぶ」をやった男だけある。その娘を演じた小松菜奈の独特な存在感も確かに面白い。そして何と言っても妻夫木聡の使い方は文句なし。というわけで、散々書いておいてなんだが、僕はこの映画、面白いとは思わないけど嫌いでもないのだった。

果てしなき渇き (宝島社文庫)

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