リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その8

トランスフォーマー/ロストエイジマイケル・ベイが、『ペイン&ゲイン』という病気スレスレの凄い作品を撮った直後にこの『トランスフォーマー/ロストエイジ』を撮ったことを考えると、「マイケル・ベイはバカ映画ばっかり撮ってるしょうもない監督」などという意見は的外れであると思わざるを得ない。「そこに爆発する要素はないだろう」というところでも全力で爆発させる狂騒は本作においてもはや病気としか思えない境地にまで達し、さらに登場人物は皆異様に殺気立っているか、もしくは狂ってしまっている。オプティマス・プライムはしきりに殺意を口にし、偉大な先祖すら力でねじ伏せるという強硬手段を取る。彼をはじめとするオートボット側は皆事あるごと仲間同士で口論し、殺意を滾らせているのだ。
そして主役のマーク・ウォルバーグに至っては、これが完全なる狂人である。娘を愛し、娘の命を何よりも大切にし、娘を溺愛するあまり彼氏の存在を許さず、死んだ妻をいつまでも愛し、いざというときには頼りになる善き父。とはいえ血気盛んさも失わず、時に無許可で電気を盗んだり、正当に家賃を要求する大家をバットで「殺す」と威嚇したり、「今は貧乏だが、俺は偉大な発明家になる。信じろ」と豪語する、実に「アメリカン」な男が本作の主人公なのだ。
そんな彼をオートボットは「典型的なマチズモだな」と皮肉る。筋肉もりもりで家族愛に溢れ、「俺は凄いやつさ。未来は明るい」と信じているこの男はマッチョイズムというよりむしろ、その空虚さを皮肉的に体現した存在なのかもしれない。『ペイン&ゲイン』はまさにこのような筋肉主義によって肥大化した自己と空虚さを特盛の狂気により彩った映画であって、主演は同じくマーク・ウォルバークだ。この配役と台詞からも、マイケル・ベイは自覚的に映画を撮っていると思わせる。またオプティマスを拾うのが町の寂れた映画館である点も見逃せない。そこで「最近の映画はリメイクか続編ばかりだ」と老人に言わせるのだが、それは「はーいその通り、またこれですよー」という皮肉な宣言であるかのように、僕には聞こえた。
この上、スティーブ・ジョブズ風の男がおもむろに中国製品の宣伝をし始めるのだからこれはもう、鈴木清順がそうしたのと同じような、皮肉的なギャグとしか言いようがない。資本主義の大波にただ埋もれたりせず、むしろ頂点に立つ男として機械!破壊!爽快爆発狂騒!でどっさり楽しませ、途方もないお金をさらに途方もない儲けにちゃんとさせつつ、ベロを出して見せる。このことを鑑みれば、マイケル・ベイが間違いなくとんでもない存在であると、納得せざるを得ない。
ただその作品が「面白いのか?」と聞かれれば、ダイノボットに乗ったオプティマスが駆けつけるシーンなどは確かに最高にカッコいいのだけれど、全体を通して考てみると、素直に「うん」と頷きづらいのも確かなのである。

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ホドロフスキーのDUNE』途方もないビジュアルであったがために頓挫した幻の映画『DUNE』を追ったドキュメンタリーだが、一番の魅力はアレハンドロ・ホドロフスキーという人のぶっ飛び面白おじいさんっぷりにある。話す内容は奔放で壮大かつ高尚そうであるが、その語り口と表情、身振り手振りに人間味を漂わせており、エネルギッシュに周囲を巻き込む力を持ち合わせていた素敵なおじいちゃんなのだ。また彼がこの未完の大作について話す姿は純粋で前向きで、常に楽しそうである。『エル・トポ』しか作品を見たことはないが、あの作品からこの姿は想像できなかった。
『DUNE』で予定されていた「魂の戦士」こと、豪華スタッフ・キャスト達も(それこそ、ネットで交わされる「〜が実写化されるならこのキャストだよね」という妄想の1万倍くらい豪華)、企画の偉大さだけではなく、ホドロフスキーという人間の面白さに惹かれたのだろうが、この「魂の戦士」集めがまた面白い。次々と夢の実現に向け人材が集まっていく過程は、まるで運命に定められた者たちの物語を見ているかのようだ。そして集まった戦士たちが見せる構想、そしてビジュアルには、やはり目を引くものがある。「このビジョンが映画になったらさぞかし凄い映画だったろうな」と思わずにはいられないのだ。
すっかりホドロフスキーの作り出す世界に引き込まれていると突然、現実の冷や水を浴びさせられてしまう。結局のところ『DUNE』は完成しなかった。撮影もされなかったのだ。ホドロフスキーはポケットから貨幣を取出しこう言う。「映画には心がある。精神がある。力がある。志もある。それが、こんなものせいで」それまで楽しげに壮大な夢を語っていた顔に、哀しみが浮かび上がってくる。
おそらく、『DUNE』が実際に作られていたら失敗作になっていただろう。ホドロフスキーのイマジネーションと理想はあまりに無謀で途方もない。だからと言って「むしろ頓挫してよかったのだ」とは、本人たちの想いを見て、無念を聞いてしまった後では断言してしまうことはできないが、結果としてこの作品が残したものの大きさは、観客に確かな勇気をくれる。本作が良いのは、『DUNE』を「嘗て企画されていた幻の大作」として扱うのではなく、「今もまだ夢であり続ける幻の大作」と位置付けている点であろう。皆が夢見た『DUNE』は、夢そのものになって今も輝き続ける。まるで『ロッキー・ホラー・ショー』に登場するセリフのようになってしまったその夢は、ホドロフスキーの新作『リアリティのダンス』であるとか、例えばクリス・フォスの参加している『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などといった形で広がり続けているのだ。

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