リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その26〜下半期ベスト〜

皆さんあけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、早速ですが、昨日書きましたように2015年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ、紹介したいと思います。ちなみに並び順は単に見た順というだけです。また、上半期ベストについては<こちら>をどうぞ。



『新婚道中記』(1937)
レオ・マッケリー監督によるスクリューボル・コメディ。犬や猫、それにドアといった道具づかいがとにかくうまい。そして終始反目しあってるようで実のところイチャついてるだけのケーリー・グラントアイリーン・ダンの騒々しいやり取りにも笑う。しかし一転、最後の隙間風が吹き込むログハウスではじっくりと二人の関係を見せており、からくり時計でフィニッシュ。スクリューボール・コメディというジャンルに対して、面白いけどついていけない、という感想を持っていた僕ですが、これは素直に面白かったですね。



『ある優しき殺人者の記録』(2014)
本作にしろ『コワすぎ!最終章』にしろ、カメラというものについて自覚的な作品を白石監督は連続して作ったように思う。この2作に共通しているのはカメラだけが世界と戦う術なのだという宣言であって、カメラだけが、儀式によって世界を超えることが出来る。そしてそんな現象とフェイクドキュメンタリーという手法によって、映画とカメラと観客とをつなぐ関係性にも触れている作品ではないでしょうか。ちなみにこの作品から『超コワすぎ』までの流れとして、自らの肉体を傷つけることによって次のステージへ進む、という特徴も出てきたように思います。



『その夜の妻』(1930)
小津のサイレントをいくつか見ましたが、その中で一番良かったのがこれ。影の使い方が冴える前半は犯罪映画として楽しみ、中盤以降、舞台が室内へと移行してからはカメラの動きに痺れる。特にズームアップ・アウトの使い方。例えば、刑事役の山本冬郷がドアを叩く瞬間であるとか、夫を守るためにその刑事と対峙する八雲恵美子演じる妻との、2人の静かな対決がズームアップ・アウトによって描かれていたように思います。銃を構える八雲恵美子が大変魅力的でもありましたね。ちなみにこの作品は、後にジョニー・トー監督『エグザイル/絆』へ継承されていったように思います。



マンハント(1941)
ひたすら撮影が冴えまくっているフリッツ・ラング監督作。影による演出はもちろんですが、他にもらせん階段から地下鉄での追跡、霧が立ち込める橋の上での女との別れなどはあまりにカッコよくて声が漏れるほどです。穴のモチーフが貫かれているようにも感じられて、スコープを覗いていた男が、逆に穴の中へ中へと押し込まれるのですが、最後には穴の中から反撃に臨むというわけで、そのラストの対決もまた、最高なんですよね。

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キートンの隣同士』(1920)
フェンスを挟んで隣同士にあるものの、仲は悪い家同士が繰り広げるドタバタコメディ。なによりもそのドタバタとアクロバティックなアクションの徹底ぶりが素晴らしくて、ひたすら見ていて楽しい。細かいネタのアイデアも秀逸で、キートンの短編の中では、僕は一番好きな作品ですね。

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『群衆』(1928)
キング・ヴィダー監督による小市民映画。怖いような滑稽なような、しかしそれでいて幸せが待ち受ける物語も良いのですが、まず驚いたのはビリー・ワイルダー監督『アパートの鍵貸します』のオープニングそっくりなシーンがあって、あれはこの作品からの引用だったのか、ということなんだけれど、カメラが仰角でビルを見上げ窓から侵入する『群衆』の動きの方が素晴らしい。また主人公が父の死を知るシーンや、子供が生まれ病院へ行くあたりの画面も独特の構図というか画面設計で驚かされる。ちなみに本作は淀川長治曰く「小津安二郎そっくり」とのこと。確かに『東京の合唱』や『一人息子』へ通じるものがあるように思います。

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『ザ・ファン』(1996)
「○○はわしが育てた」とか勘違い発言を繰り出しているようなファンの狂行を描いた作品で、その狂気の野球ファンを演じたデ・ニーロが流石の演技でしたね。室内の照明、煙、それに大雨の試合など、とにかくカッコよさ優先の画面がまたすごく良かったです。ところでデ・ニーロの狂人っぷりも相当なものなんですが、彼の仕事であるナイフのセールスについて、上司がブチ切れるシーンも最高だと思います。外国車のドアをナイフでめった刺しにしながら「うちの会社のナイフはこんなにすごいのに何でてめぇら売れねえんだよ!」ってキレるところですね。

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『悶絶!!どんでん返し』(1977)
凄い映画でした。男に犯された男がオカマとなり、その原因となった男を恋人から寝取る。そして二人は美人局の仕事に取り掛かる・・・という話なんだけれどこの時点で相当凄い。しかしその話に負けないくらい映像も凄くて、いったい次に何が起こるんだろいうというようなアクションが連続する。それは例えば股間に吹き戻しを挟んで「ピーッ」て鳴らすような超絶くだらないギャグであったりもするんだけど、なぜかそのアクションがうっかりと切なさすら帯びてしまう瞬間もあって、というのも彼らの行動にはどうしようもない人生を歩んでいるのだという自覚の下、それでもせいぜい馬鹿みたいなことをして生きるんだという思いが感じられて、そこに切なさを感じてしまう。そのまじりあった感情が爆発するのが、あの階段下りにはじまるラストシークエンスだったと思います。

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『エレニの旅』(2004)
テオ・アンゲロプロス監督作品の中では『霧の中の風景』に次いで好きな作品かもしれません。上半期ベストに挙げた『こうのとり、たちずさんで』も相当に好きなんですが、こちらの方が物語がわかりやすい、ということがありますね。呑みこみやすい。もちろん、映像面の素晴らしさは言うまでもなく、どこを切り取っても構図、人や物とカメラの動き、入り込む音等、シーンを構成する全てが美しく、言葉を失う。なによりも水と悲劇の映画なのですが、鏡、シーツ、機関車等り返されるモチーフは多いと思います。これを見ると確かに、『エレニの帰郷』は少し落ちますね。

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唐獅子警察(1974)
ボートで死体を捨てに行くシーンのクールな色調。小林旭が病室で尋問する場面や夜における黒の出方。またポイントとして画面に差し込まれる赤も印象的でした。そして渡瀬恒彦が中華料理店へ殴り込むシーンと安藤昇の死に様。そして小林旭渡瀬恒彦の最後の対決。その決死の追跡と決着からの執念の運転。その運転の、過剰なまでの執念爆発っぷりも凄いものがありますね。そして負け犬の怨念がこもった話にも魅せられました。渡瀬恒彦の狂犬っぷりや組織が拡大していく中での狂騒も楽しめますし、『沖縄やくざ戦争』に続いて下半身が大変なことになる室田日出男もばっちりです。中島貞夫監督作は深作欣二に比べまだ見ていない作品が多いので、2016年もそれらを見るのが楽しみですね。まずは『安藤組外伝 人斬り舎弟』のVHSを探さないと。

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ラルジャン(1983)
ロベール・ブレッソンの映画は初めて見ましたが、これは、相当なものと出会ってしまったなという気がしました。それを言葉でうまく説明できるようには思えませんが、とにかく凄まじい省略、凄まじい音、的確なアップ、そして扉。どのショットも、こうであるのが最善とでもいうような力強い簡素さを感じられて、よくわからないけれど、画面から凄みを感じたような気がします。例えば、平手打ちを受け珈琲をこぼしてしまう場面などはなんてことないのに何故か「映画だ」と思わされてしまう。そういった、よくわからなさとの衝突という点で、この作品は衝撃的でした。

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さて、以上が下半期に見た作品で特に良かった作品でした。他にも『鬼の棲む館』『ヤンヤン 夏の想い出』『恋恋風塵』『ムーンライズ・キングダム』『イワン雷帝』なんかも面白かったのです。さて、前回更新時にも書いたように、今年はなるべくブログの更新回数を増やしたいと思います。あとは本ですかね。映画関係の本も、買ってはいるけど積んだまま、というものが多いので、そういったものをしっかり読んでいきたいと思っています。というわけで皆様、今年もよろしくお願いいたします。