リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その12〜下半期ベスト編〜

あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いします。
さて、挨拶はこのくらいにして、さっそく2013年下半期に見た旧作の中から特別面白かったものを取り上げたいと思います。ちなみに、並びは順位ではなく五十音です。



『黄線地帯』(1960)
詳しい感想はコチラ→最近見た旧作の感想その9 - リンゴ爆弾でさようなら
東宝から東映、そして晩年の作品まで、石井輝男作品の特徴の一つには「路地裏・裏道に入り込んで彷徨う」というものがある気がする。

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狼と豚と人間(1964)
詳しい感想はこちら→最近見た旧作の感想その8 - リンゴ爆弾でさようなら
深作欣二のエッセンスがぎゅっと詰まっている作品なので、ファンなら間違いなく楽しめる。高倉健が拷問も辞さないというダーティーな役で新鮮。

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『斬る』(1962)
今回はとにかくこの作品について触れたかった。三隅研次監督と市川雷蔵による『斬る』という映画は文句なしの傑作である。黒と白のコントラストが映える冒頭から、襖を開けども開けども目的に辿りつかぬという劇終盤まで、全てのショットがなんとまぁ印象的で美しいではないか。この美しさは、三隅研次監督の演出はもちろん、本田省三のカメラと、大映の、本格的というよりは非常にモダンというか、シュールでもある美術によるものだろう。美術監督三隅研次とのコンビが多い内藤昭。特に中盤の仇討場面などは必見。こういった美しさの中に三隅監督お得意であろう華麗な殺陣が入るのが素晴らしい。刺客を切り捨てるワンカットに、梅の枝の使い方よ!お話の方はというと、出生に秘密を持つ剣豪が数奇な運命をたどるというものでありこれがニヒリズムの極致であり、味わい深かさを残すのである。この濃密さで71分!いつかこの作品か、もしくは三隅研次作品については個別で記事を書こうと思っているので今回はこの辺にしておく。とにかく僕にとってこれは人生ベスト級の傑作だった。ちなみに、三隅研次監督の時代劇では『子連れ狼 三途の川の乳母車』などが本作とは全く違う趣向ではあるものの、大傑作だった。

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『彼奴は顔役だ!』(1939)
昨年の旧作ベストには『白熱』を入れたが、この作品もあちらと同じラオール・ウォルシュ監督、ジュームズ・キャグニー主演のギャング映画。色んな要素の入っている映画だが、スピード感のある演出でもってぐいぐい見せていく。『The Roaring Twenties』という原題の通り、何度か挿入される新聞記事やニュースフィルムを通してギュッと凝縮された時代を体感していくような感じだろうか。スコセッシが影響を受けたのは間違いないと思う。ジェームズ・キャグニーの役は、若い女のために損な役回りを受ける時代に取り残された男という、よく見る男の姿のうちの一つとも思うけれど(ヒーロー像と言えるかもしれない)、劇の最後に映るのがあの3人であるというところに面白味というか、悲劇的な美しさとでもいうものを感じる。雪がいい。自分が見た古典(どこまでが古典なのかはよくわからないけど)ギャングものの中では1番良かった。

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『巨人と玩具』(1958)
増村保造監督作品。3つの大手キャラメル会社による宣伝戦略を皮肉的に描いたもの。とにかくテンポが速い。いったいどれだけの量喋るんだというくらい会話シーンが多く、だからと言って退屈な会話劇になるのではなく、それによってぐいぐいと観客を引っ張っていくのである。なかなか火がつかないライターをもうまく使う編集のキレが抜群なんだろう。50年以上前でこれとは、増村保造恐るべし。さらに後半に行くにつれ登場人物は狂気的な領域に突入し、最後はなんとも馬鹿馬鹿しく、皮肉的で、虚しい姿を見せるのである。時代の先を行くこの映画が語るマスコミ論が、今でも十分に通用するものだというのも面白い。人間の頭の中は赤ん坊以下で、マスコミはやり方によっていかようにも強制できるのだと。なるほど、確かにそのとおりであると思わされることはいくらでもある。しかし気をつけたいのは「ホントその通り、バカばっかりだな」と思っている奴もまた・・・という事なのだ。

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『堕靡泥の星 美少女狩り』(1979)
感想はこちら→最近見た旧作の感想その10 - リンゴ爆弾でさようなら
鈴木則文にしてはダークかつハードな作風にビックリするとんでもない問題作。「神に反逆するハレンチ」のすさまじさは忘れられない。



『反撥』(1965)
ロマン・ポランスキー監督作。カトリーヌ・ドヌーヴ主演。男性への興味と恐怖の間で女性がだんだん狂気に陥ってく様子を描いたホラー。とにかく精神を病んでいく描写が良くて、歯ブラシだとか水だとか肉だとか壁のひびだとか大きさが変わっていく室内だとか、そんな諸々の描写で見ている側もじわりじわりと追い詰められていく。僕はこういう精神ぶっ壊れ系映画が大好きで、『バートン・フィンク』とか『ジェイコブス・ラダー』とかね。時計など、音も印象的だったと思う。ほとんど瞬きをしていカトリーヌ・ドヌーブの目も印象的だ。ラストの家族写真も色々含みがあるような感じでいい等と色々あるけど、まとめると、キチガイの出てくる映画とか現実が狂気に侵食されていくようなって楽しいよねってことです。

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女系家族(1963)
『斬る』に続き、こちらも三隅研次監督作。『子連れ狼』はサクッと紹介したのになぜこっちはこうやって取り上げるかというと、「凄いのは時代劇だけじゃなかったか!」と思ったからである。老舗商店社長の遺産を巡って3姉妹とその関係者、そして愛人が策を巡らせる話で、原作は昨年亡くなった山崎豊子。というわけで物語の吸引力は言わずもがなだし、また女優陣の演技合戦のうえに中村鴈治郎田宮二郎までも加わり、非常に見応えがある。また宮川一夫のカメラが印象的で、巨大な屋敷を俯瞰で捉えたところであるとか、壁にかかる一族歴代の顔写真と今の一族の姿をぐるっとカメラを一周させ見せるところであるとか、京マチコがスタスタと歩いていくラストだとか、印象的な場面が多い。こちらも美術は内藤昭。

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『ライフ・レッスン』(1989)
スコセッシ、コッポラ、ウディ・アレンらによるオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』の内、スコセッシが監督した作品。芸術化同士の恋愛という事で『ニューヨーク・ニューヨーク』の焼き直しと言えないこともないけれど、あちらが往年の映画に敬意を表したものであればこちらは、後のスコセッシ映画にも通じる撮影・編集・音楽で見せる感じだった。特にアトリエの中を動くカメラが印象的。話しも僕はこちらの方が断然好み。ニック・ノルティはどうしようもないんだけど、あの中に少なからず自分もいて、嫌いなんだけど、「馬鹿じゃない」とか「みっともない」というような言葉だけで終わらせられない感じ。あと意外と女性を撮るのがうまい気がするぞスコセッシ。

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『リバティ・バランスを射った男』(1962)
感想はこちら→最近見た旧作の感想その11 - リンゴ爆弾でさようなら
ジョン・フォードもやはり、いろいろ見ていかなければいけないなと思った。『黄色いリボン』『周遊する蒸気船』あたりは今年中に見たい。

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その他、上半期に感想を書かなかったけど、思い返してみるとよかったなぁという作品は『流れる』『怪異談 生きてゐる小平次』『座頭市 血煙り街道』『怪談昇り竜』『ああ爆弾』辺り。見事に邦画ばっかりで、2013年は確かに邦画をよく見ていた。ヨーロッパの映画を色々見るという目標を立てていたのだけど、結局あんまり掘れなかったのでそれは今年も継続していきたい。
というわけですっかり昨年映画の大掃除もおわりました。例年よりベスト記事への反響が少ないのが若干寂しいですが、今年も頑張って更新していきたいと思います。もっと知識を増やし、読解力と文章力を磨けたらいいな。