リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』を見た。

帝王のTINTIN、大暴れ!

スティーブン・スピルバーグ監督3年ぶりの新作。久々です。予告編やらで毎年その名を耳にすることは多いんですけどね。



ジャーナリストとして活躍する少年、タンタンは相棒のスノーウィーとともに街を歩いている際、伝説の船ユニコーン号の模型を手に入れる。しかしすぐさま謎の男がその模型を譲れとタンタンに交渉してきた。それに疑問を持った彼は図書館でユニコーン号について調べるのだが、そのすきに模型を盗まれてしまう。落胆するタンタンだったが、模型のマストから落ちていた巻物を発見する。そこに書かれたいたのは謎の暗号だった。ユニコーン号に隠された秘密を知ってしまったタンタンは、同じくユニコーン号の模型を持ち秘密を追うサッカリンという男に拉致されてしまう。そうしてタンタンは気がつくと海の上、とある船室に閉じ込められてしまった。そこで彼は同じくサッカリンに閉じ込められていたハドックという男と出会うのだが・・・というストーリー。



一言で感想を言えば、全編に渡ってとにかく楽しい映画である。冒頭、原作のタッチに近いアニメーションのオープニングクレジットからまず素晴らしく、スピルバーグの過去作でいうと『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』に近いものだと思う。
そして本編が始まると、非常にクオリティの高い映像にも驚かされる。導入はタンタンが似顔絵を描かれている場面なのだけど、その似顔絵が原作っぽいのにもニヤッとさせられましたね。この顔はこの映画ではこの人ですよっていう説明ですからね。こういった処理により、うまくこの映画の世界へと入り込ませることが出来ていたように思います。



非常にリアルで美しい映像は素晴らしいのですが、ところどころアニメっぽさを残しているので実写とも違う雰囲気を持っており、それがまた魅力の一つになっている。アニメっぽさを残している事で少々無理な展開も納得させることができるんですね。例えば声の響きでガラスを割ったりだとか、酒気をおびたゲップで飛行機の燃料とするなど。これらを実写で表現するのは不可能・・・というか、やったらおかしいですからね。でもアニメなら、これもアリ。



しかし、なんといってもCGアニメならではの強みを感じるのはカメラアングル。それがとくに顕著なのは、モロッコで繰り広げられる4分間ワンショットのチェイスシーン。これがホント凄い!ダム決壊から次々につながっていく怒涛のアクション!縦横無尽に襲いかかる仕掛けの数々にもう手に汗握りっぱなしなのだ。
スピルバーグの過去作では『宇宙戦争』でも、宇宙人からのファーストアタック受け車で逃げる際に印象的な長回しのシーンがあった。あれにも大変驚かされたのだが、今回はそれをはるかに上回る度肝の抜きっぷり。このシーンを見るだけでも『タンタン』には価値があると僕は思う。(ちなみにこのように本作は過去のスピルバーグ映画を思わせる部分も多く、ファンはそれも楽しみにしてほしい)

さらにその後続く港のシーンも語らずにはいられない。ここはなんと「ロボットバトルか!」と言いたくなるような大迫力の格闘シーンとなっているのだ。クレーンがこちら側に向かって直線的に襲ってくるなショットなど、見ている側をギョとさせる仕掛け含め凄い見所となっている。この辺はさすが恐怖表現マスターといったところだろうか。

また、カットの驚きでいうと鏡や泡、ガラスに映ったものを見せると言う実写だと難しいと思われるシーンも多く、こういった部分も非常に面白い。砂漠が海にのみ込まれ、そのまま海上での大戦闘シーンになったりなどの映像も見事としか言いようがないところである。



キャラクターの魅力も忘れられない。タンタンはまあいいとして、僕はハドックが好きですね。海を愛する大酒呑み、っていうかアル中。彼がいると大抵の物事が面倒な方向へ行ってしまうのだが、それがいい。セリフの一つ一つに笑ってしまった。それに彼が単なるダメ人間というわけではなく、偉大な先祖への劣等感からそうなってしまっているという点も好き。そういうキャラクターに僕弱いので。



ただ、今回はストーリーを語るという点に関してはどうもハナから力を入れる気がなかったのかとも思う。消化の仕方は上手いものの、アクションの連続という事もあり感情に訴えかける部分は少なかったかもしれない。
しかしですね、僕はそれを大して弱点とは思いません。というのも本作は誰にでもある<少年の心>とでもいうべきものを、ある冒険を通して経験させようというものであるからです。エンターテイメントとして最高に楽しめる本作に、僕は素直にワクワクできた。作品としてのそこまでの出来ではないとはいえ、僕は小学生のころ、テレビで『レイダース』を見たときのような気分になった。
あえて弱い部分を挙げるなら、後半の怒涛の展開に比べればそれまでの部分が若干冗長に感じられるかもしれないということ。ただ、そこはそこでノワール風の雰囲気が良かったので個人的には問題なし。ともかく、スピルバーグの本気を確かめに劇場へ行くことをお勧めします。少なくとも劇場にいるうちは間違いなく楽しめるでしょう。

限定版 タンタンの冒険コレクターズBOX

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