リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『リアル・スティール』を見た。

スクラップでは、終われない。

近未来を舞台に、ロボット同士が格闘技をするというSF映画。主演はウルヴァリンことヒュー・ジャックマン。予告編がなかなか面白そうな出来だったので期待して見に行きました。
結論から言うと、面白かったと思いますよ。話の進め方が丁寧です。だらだらしないでしっかりポイントは押さえておき、全てが最後の<燃える>展開へ向かっていくというね。



面白いのはヒュー・ジャックマン演じる父親・チャーリーが相当なクズだという事ですね。借金返さないわロボットの扱いは下手だわ(絶対ギャンブルで負け続けるタイプ)、挙句の果てはロボットのためなら自分の息子・マックスも売り飛ばすという本物のクズ(さらに自分の息子の年齢すらも分からない、というかどうでもいいと思ってる)。これだけのクズ野郎もそうそう見ないのではないでしょうか。
そんなおやじにマックスも最初からうんざり。しかもチャーリーは自分を売った金で買ったロボットを最初の戦いで大破させてしまいます。その操縦センスのなさにもやれやれです。もう父親とすら思ってないくらいだと思います、普通は。


息子を売ってまでして手に入れたファイティングロボットを失ってしまったチャーリーは、修復に必要な部品をそろえるためジャンク置き場へ。そこでマックスはあるロボットが埋まっているのを発見する。
ボロボロの姿で土に埋まっていたそのロボットを見てマックスは捨てられた自分の姿を重ねたのか、持ち帰り自分のロボットとして試合に出すことを決意。ATOMと名づけ、ただの戦闘用のロボットとしてだけでなく特別な何かとして交流しダンスを仕込んだりします。
また、チャーリーは旧式で使い物にならなくなったロボットに元々ボクシング選手として活躍していた自分の過去の姿を見たのか、そのロボットに夢を託すようになる。こうして三者は負け犬からの復活戦への道を歩んでいくのだ。



確かにこの手の話は燃える。最初は小さな会場で勝利を重ね、その中で取り戻す親子の絆。そして絶対無敵の王者への無謀な挑戦。ベタな話とはいえしっかりと無駄なくストーリーを進めていけば間違いのない感動が起こる。
ただ骨格がベタとはいえ、ロボットがボクシングをするというのがフレッシュで良い。ロボットのボクシングは劇中でも語られるように確かに人間のそれより残酷ショーとしての興奮があるように見える。首が吹っ飛んだり腕がもげたり。破損した場所からは血のように燃料がボトボトこぼれたりとかなりな見せ物。
そのロボットの個性も本作では忘れがたい魅力となっている。主役であるATOMは無駄もないけど洗練さとはほど遠いデザインで、はっきり言ってダサいし古臭い(だからこそラストが燃えるのだけど)。子供たちからの人気は得られなさそう。
しかし、彼は頑丈であるという性質を生かし、じっくり戦う。敵の攻撃を耐えて耐えて戦うそのスタイルは、現実にボコボコに打ちのめされたチャーリーと重なるようであった。ATOMがその機能の一つであるシャドー機能を発動させ、チャーリーとの合わせ技で最大の敵ゼウスに一撃喰らわせるシーンの盛り上がりは最高である。

そのゼウスの洗練された漆黒のフォルムデザインも最高だし、二人で操作する双頭ロボットも個性が強く面白い。日本の甲冑のようなデザインとバカっぽい漢字ペイントが男の子心をくすぐるノイジー・ボーイなど魅力的なマシンが多い。この格闘技にファンが多いのもうなずけるくらい魅力的なのだ。



それとオープニングも良かった。風力発電の風車がある風景の中おんぼろトラックにチャーリーが乗ってるシーンから何か僕は好きでした。なんでしょうねあの殺風景で寂しい感じ。



というわけでとりあえずはオススメできる面白いし作品なのです。しかし文句、と言うか気になる部分も良く考えるといくつかありまして。



まず一つは、イマイチ親子が絆を取り戻す過程に説得力が足りないということですね。ただ試合で勝っていくだけでだんだん親子としての絆を取り戻していくとい感じなのですが、自分を売った相手なのにねぇ・・・なぜ親子の絆と言う特別なものを取り戻せたのかと言う部分が不十分だと感じました。あるロボットを通じて心が一つになっていくという事はある程度描かれているのですが、今一歩、と僕は感じました。あれは親子関係の特別さとはちょいと・・・まぁ結局親子としての関係には戻れないと考えると・・・うーん。

それと、ATOMですね。途中で彼にはどこか感情があるようなそぶりが見られます。例えば、鏡に映った自分の姿を意味ありげにじっと見るシーンもあるのですがそれが生きてこない。何も無いならそういう描写しなくてもいいですよ。そういう描写がなくてもちゃんとこっちは鉄の塊以上の何かとして見れますよ。

悪役も若干不満です。どうなんだろうかあのゼウス側の奴らは。ゼウスの圧倒的な雰囲気に対して支配・操縦する側の人間は存在感が薄く感じました。小物っぽいんですよね。ロボットは確かに凄いけどイマイチ彼ら自身の凄さが分からないのがもったいないと僕は思いました。タクマシド自身が操縦してもゼウスの強さがあんま変わらなかったのがなぁ。



と、文句もありますが、先ほど書いたように面白かったという事は間違いないです。だからこそ「ここをこうすればもっと・・・」と言う部分が見えてきてしまうのです。なのでもし見るか見ないか迷っているならとりあえず見てみてはいかがでしょう。