リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その3

『カルト』
日本ホラー界の雄、白石晃士監督最新作。テレビ番組の企画として、怪現象の起こる一家のお祓いに同行する3人のタレントが、次々と起こる怪現象に巻き込まれていくというフェイクドキュメンタリー方式の映画。
胡散臭い見た目の霊能力者と共にお祓いするも、次々と怪現象が起こる前半はドキュメンタリーにしてはやや過剰気味ではあるが、ちゃんとしたホラーだ。隣の家から覗く怪しげな人影、ありえないところから出現する割れた皿などは、しっかり不気味に見える。
しかし、中盤になると方向性が変化していく。霊能力者は次々と怪異の前に倒れ、もはや打つ手なしか、いや一人最強の霊能力者がいた。アイツに頼めば・・・というわけで登場するのが、霊能力者NEO(通称)だ。しかしその男、初登場時から机の上に座るという不遜な態度を見せ、口は悪く、金髪でチャラいホスト風の見た目。しかもナルシスト。それまでの霊能力者とは違う意味で全く信用ならなそうな男ではあるが(しかもNEOという名前は『マトリックス』から来ている)、能力は超一流。いかなる事態であろうとクールかつ尊大な態度で的確に対処するのだ。つまりは、NEOは少年漫画的キャラクターなのであり、彼が活躍する後半は、まさかのヒーロー映画的側面を見せるようになっていくのである。
いかに少年漫画的キャラクターであるかといえば、例えばNEOは左手に黒い手袋をはめており、力を使うときになるとそれを外す。これはもう、『地獄先生ぬ〜べ〜』の世界じゃないか。さらに、彼が最後に放つ台詞も、少年漫画の読者であったならば誰もが知っているものである。これほどまでに過剰なキャラクターでありながら成立しているのは、演じる三浦涼介の存在感もあるのだろうが、監督白石晃士によるバランス感覚の賜物なのかなという気もする。監督の作品は『グロテスク』(あと「Asian Ace」というテレビ番組で撮っていた短編)以外未見であり、その辺は何とも言えないところではあるが。
後半で方向性が変化すると書いたが、前半も実は笑えるポイントがいくつかあったりして、それは後の展開に対する用意の周到さと言えるのかもしれない。例えば、危機的な状況下にある霊能力者が携帯電話で先輩に助けを乞う場面の何とも言えない馬鹿馬鹿しさであるとか、霊につかれやすくなるから肉を食べちゃいけないと言われたのにそれを破ってしまい、結果憑りつかれ、「ハンバーガー食べちゃった」などと岩佐真悠子が懺悔する場面は笑える。このようにNEOのみならず、登場人物がちゃんとキャラ付されており、それぞれ印象的な活躍(?)をしているもの楽しい。そしてもちろん、後半は後半でただただヒーロー的かというと異様さ、不気味さもしっかり確保されており、基本はホラーでありながら、色んな要素をこの一作で楽しめるようになっているのだ。
というわけで、ホラー好きも嫌いも、これは楽しめる映画なのではないかと思う。個人的にはNEO主演でシリーズ化されて欲しいくらいに好きな作品であった。次回作はきっと劇場行きます。いやだって田舎じゃ公開されなかったんだよ・・・

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『桜姫』
東映の社員監督であり、『探偵はBARにいる』等で知られる橋本一監督による時代劇。ある晩、高家の娘・桜姫(日南響子)は腕に釣鐘の入れ墨を持つ強盗によって犯されてしまう。反抗しながらも快楽にとらわれた姫は翌日、家宝の掛け軸と共に消えてしまった。それから少しして、ある売春宿に絶世の美女がいるとのうわさが立つ。腕に風鈴の入れ墨を持つその女こそかつての桜姫であり、客を使って釣鐘の入れ墨を持つ男を探していたのだが・・・。
というわけで、身もふたもない言い方をしてしまえば、エロ映画である。景気よくおっぱいが出るわ出るわ、濡れ場もあるわあるわで、良くやってくださいましたと思わされる。主演の日南響子は完全なヌードとまでは言わずも体当たりな演技をしていたと思う。彼女の人気に嫉妬する役には麻美ゆま。こういう映画には欠かせない人ではあるが、ただ脱ぐ要員としてだけでなく、存在感もある人だなと思う。
さて、ただのエロ映画ならこれ以上書く事もないのだが、実はこれ、それだけではないところが面白い。なんとこの作品、偉大なる東映異常性愛路線の石井輝男牧口雄二の世界を継承しているのだ。小塚原刑場の、陰鬱で残虐な雰囲気。吹き出す血しぶき。ゾンビ化、果てには完全なるモンスター化するでんでんなど、これは過剰ないかがわしさてんこ盛りのとんでもない映画なのである。
そんなとんでもない映画ではあるが、セットがしっかりと組まれてあったり、血しぶきがCGでないところに東映作品への敬意を感じる。黒人売春婦がいるのも東映らしい。全盛期の作品と比べると流石に美しさなど色々劣る部分もあるし、ぶっ飛び感もまだまだという気がしないわけではないが、それでもこれだけのものが僕の生きている時代に作られたことが嬉しくなる。路地裏らしきところをフラフラと歩いているショットも石井輝男作品感あり。
もちろん、こういった作品に眉をひそめる人がいるものわかる。実際チープに見えるし、おおっぴらに見せられる内容ではないかもしれない。しかし、このいかがわしさや低俗さというのは、映画が持つ力でもある。この力は確かに、良識と真逆の方向を向いているが、それによってのみ獲得しうるものを、この映画は見つけようとしている感じがするのだ。なので是非ともこの方向性を絶やさず、いつか傑作を送り出してほしいと僕は願うのである。次は必ず劇場行きます。いや当時は就活がね・・・。

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