リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ホビット 竜に奪われた王国』を見た。

いざ、スマウグの荒らし場へ。
1937年に出版された『ホビットの冒険』を原作とする3部作の2作目。タイトルは「The Desolation of Smaug(スマウグの荒らし場)」から「竜に奪われた王国」に変更。新たなキャストにはルーク・エヴァンスエヴァンジェリン・リリーベネディクト・カンバーバッチ。そしてオーランド・ブルームロード・オブ・ザ・リング3部作と同じくレゴラス役で出演。監督はもちろんピーター・ジャクソン


かつてドワーフ族が治めていた国を取り戻すため、トーリン・オーケンシールド(リチャード・アーミテッジ)率いるドワーフの旅団と魔法使いガンダルフ(イマン・マッケラン)、そしてホビット族のビルボ(マーティン・フリーマン)は、長く危険な旅に出ていた。その途中、邪悪な予感を感じ取ったガンダルフは一行から離れ、ビルボらは闇の森を抜けることに。蜘蛛の襲撃や、いがみ合うエルフとの遭遇と逃亡。人間の住む湖の街エスガロスへの到着など長い旅路の末、ついに彼らはかつて王国があったエレボールへとたどり着く。しかし、トーリンが最も欲するアーケン石奪還のためには、地下深くにある、邪悪なる竜・スマウグ(ベネディクト・カンバーバッチ)の住処へと潜入しなければならなかった。

面白くないわけがない。前作の感想(→『ホビット 思いがけない冒険』を見た。 - リンゴ爆弾でさようなら)で書いたが、LotR3部作は僕の映画人生において決定打的な作品で、小5で初めて見たときから僕は完全に映画の虜となった。もちろん『ホビット 思いがけない冒険』も期待を超えて最高で、この世界がまた見られるのかと昇天したものだった。そんなわけで、3部作のちょうど中間であるこの第2章。面白くないわけがないのである。
2章の面白味とは、世界がどんどん広がって、広がったままになるところである。初めは説明しなければいけないし、最終章は物語を終わらせなければいけない。だが2章はそういう制約がないために、一番自由にできるとも言えるかもしれない。そしてこの『竜に奪われた王国』もやはり、やりたい放題といった暴れようであった。もはや、原作それ自体とは別物であるとすらいえるだろう。原作の見せ場であった2つの問答はバッサリなくなり、スピード感を増すためアクションを追加、追加、追加。これでもかと見せ場のつるべ打ちをし、アクションアドベンチャー感をさらに増していく。3時間ずっとテンションが高いままなのだ。またアクションだけでなく、キャラクター、これは数もそうだが、性格描写も色々と追加されており、そのためドラマも大きく膨らんでいる。



まずアクションシーンについてだが、これは見た人ならもう、感嘆せざるを得ないであろうシーンがある。それは闇の森にすむエルフ達から、トーリンらが樽を使って川を下り逃走する場面だ。ここではドワーフ、エルフ、オークが三つ巴の様相を呈するのだが、流石ウェタ・デジタルが総力を挙げて完成させただけあってホント最高。前作の感想でも書いたように、位置関係を把握させるのがうまいため、3D効果がより素晴らしいものになっている。多数のキャラクターを自在な位置に配置させ、縦横奥行きをうまく使った画面は層を重ねることでよりその状況を効果的に見せることができていたと思う。また引きの画から寄りの画、横移動などカメラの動きも素晴らしい。特にボンブールが、あの愛すべきボンブールがまさかの大活躍を見せるところなどはよく視点の動く長めのショットで、しかもアイデアのあるアクションシーンであった。原作では見せ場のない彼がこんな形で目立つというのはピージャクも太っ・・・いや、なんでもない。
終盤、エレボール内部でのスマウグとドワーフ一団との追いかけっこも楽しい。製錬所の辺りで王国がかつての火を取り戻し竜に立ち向かうというのは、故郷を取り戻すという彼らの思いとも重なる。またトーリンが穴に落ちた後の、高低差を生かした画面は3D映えしているし、ここも複数のキャラクターが縦横無尽に動く様の面白さと、そしてスマウグの暴れっぷりを堪能できるのだ。



次にキャラクターだが、やはり特筆すべきなのは邪悪な竜・スマウグであろう。これがもう、素晴らしく怪獣なのだ。その恐ろしい姿かたちは本作でついに明らかにされるが、まぁ巨大。その恐ろしき巨体はビルボとの対比でより強調されており、またドワーフには不釣り合いなほどの広さを持つエレボールを所狭しと火を噴きながら大暴れする様でもそれはよくわかる。これだけの大きさを誇りながら、なめらか且つ肉感的に作り上げたその全貌をクライマックスでじっくりと見せ、且つ成功させたピーター・ジャクソンは流石。彼とスタッフの培った技術や、レイ・ハリーハウゼンや自らリメイクした『キング・コング』など、映画的記憶の蓄積により成せた功績だろう。
欲深く、狡猾な性格に関しては、ベネディクト・カンバーバッチが声と、まさかのモーションキャプチャーで表現しておりこれがまたいい。破壊の神スマウグはその圧倒的姿と声によって、素晴らしき怪獣として君臨していた。ちなみに、エンディング曲の「I See Fire」がスマウグであるとは言うまでもないが、『二つの塔』のエンディング曲は「Gollum's Song」であった。どちらも暗さや不吉さを予感させる歌であり、劇最後の展開とも重なる。また、劇中スマウグもこの2つを結びつける印象的な「ある言葉」を発していたことが自然と思い出される。
もう一人、書き残しておきたいキャラクターがいる。それは今回再登場したキャラクターなのだが、レゴラスではない。覚えているだろうか。全ての始まりである『旅の仲間』でフロドの一行がブリー村に着いたとき、汚ねぇデブが人参を齧っていた姿を。あの男は後にアカデミー賞を制覇する偉大な男なのだが、今回もその男はカメオ出演しているぞ。



展開は刈り込まれたように思うが、レゴラスや完全新キャラクターのタウリエル、そして大幅に見せ場の増えたキーリ、エスガロスに住む人間バルドらによって、内包するドラマは膨らんだ。その結果、前作同様やはり本作もLotRに近くなっている。両者をつなげるエピソードが増えたのはもちろん、グループが3つに分岐するのはまさに『二つの塔』ではないか。キーリ、レゴラス、タウリエルの三角関係はアルウェン、エオウィン、アラゴルンの関係性とも一致する。他にも大弓とバルドの誇り、エレボールとエスガロスの関係、スランドゥイルとトーリンの確執、魔法使いと闇の軍勢、指輪の魔力に蝕まれつつあるビルボなど、ドラマは膨らみ重みを増しつつ、破壊と最終決戦の幕開けを予感させて2章は幕を閉じる。
そんな中、顔見せで終わってしまって残念なのが熊人・ビヨルンだ。僕は原作でガンダルフが一計を案じるところが好きだったので、大幅に出番が減ったのは残念ではある。しかし熊化した姿は見られたし、アゾグとの因縁も語られたのでおそらく最終作で大暴れするに違いない。エスガロスに残った者たちのエピソードも、来たるべき戦いへの布石だろう。今回のドラマは、全体に橋渡し的な役割が大きいようにも感じた。



橋渡し故に、『二つの塔』における「心に深く残る物語」の話だとか、前作のゴラムとビルボの邂逅ほどに涙を誘うエピソードは登場しない。というか、どの話もオチてない。なので5作のうち、この作品が一番ドラマは薄いかもしれない。しかしだからと言って悪いわけではないし(ユダヤ人をモチーフにしたと言われるドワーフが故郷へついにたどり着く場面は感動的)、ライド性・アトラクション性が一番強いのはおそらくこの作品だ。また、3作目は本作によってより大きな物語となっているのは間違いないだろう。そう考えると、やはり『ホビット』という物語の中間として、本作は間違いのない作品になっていたと思う。あぁ、でもこれがあと一作で終わってしまうなんて!すでに寂しいが、同時にとにかく3作目が待ちきれない!それまでは死ねないぞ!