リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その18

『天国の口、終りの楽園』(2001)
アルフォンソ・キュアロン監督による、男2人女1人のロードムービー。キュアロン監督作の特徴と言えば二つあると思っていて、一つ目はまず、主人公が象徴的に死を迎えた後生へと向かいだすということ。例えば『トゥモローワールド』や『ゼロ・グラビディ』の主人公は生きる目的をすっかり見失っている。しかし、そんな中ですぐそこに死のある世界へと放り出され、その地獄を巡ることにより、生きる意志を取り戻していく。またデビュー作である『最も危険な愛し方』においても、エイズであると宣告されたヤリチン男は、一度自殺を決意した後、真面目な人間としての生き方を取り戻している。どうやら、これは一貫したテーマらしく、本作においてもこのテーマは見られる。
もう一つは盟友エマニュエル・ルベツキによる凝った撮影であり、例えばそれは構図や色調、そして何より、長回しに代表されるものだ。『最も危険な愛し方』ではまだ鳴りを潜めていたので初期はそうでもないのかと思っていたら、ここではもうガッツリやっていた。特に印象的なのは終盤。浜辺の酒場でひたすら飲み明かす主人公ら3人を捉えた長回しだろう。これは単に、ただ長回しをしているからいいというのではない。これがストーリーと密接に結びついているのだ。
本作は、青春の終りを描いている。もっと大きく言えば、「終わってしまうもの」についての映画だ。漁師や長年続いた政党の大敗など、本作に出てくるエピソードは長くは続かない物事について言っている。そしてガエル・ガルシア・ベルナルディエゴ・ルナにとって、この旅は二人で過ごす最後の夏となる。この旅を終えた後、二人はそれぞれ別の道に進むことになる。最後の楽しい日々。いつまでも続けばいいのにと思うような、そんな青春の瞬間。夜の酒場が長回しで捉えられるのには、そんな意味がある。つまり、この瞬間を終わらせたくないのだ。カットを切って、次の時間になど飛びたくない。この時間が永遠であればいいのに。そんな思いが夜の酒場には込められているのだろう。
とはいえ、全体にそんなしんみりした映画というわけではなく、基本的には下ネタばっか話してる奴らのカラっと陽気で、ときにセクシャルな映画だ。だが根底には刹那的な青春への思いが流れており、旅という終りのある物を撮るロードムービーとよくマッチしていると、僕は思った。
しかし驚くのは、『最も危険な愛し方』や本作のような、性を前面に押し出した映画を撮る監督を『ハリー・ポッター』の監督として起用した人間のセンスである。よくこんな映画を撮る監督に、子供たちが楽しむ超ビックバジェット映画を任せようと思ったなと驚くし、実際キュアロンの監督した『アズカバンの囚人』はシリーズ屈指の面白さということで、凄い審美眼だなと感心するのであった。まぁ、実は『アズカバンの囚人』はシリーズ唯一ハリーがオナニー(自家発電)するシーンがあったり、長回しがあったり暴れ柳のグワングワンする感じなど、作家性の見える作品でもあるのだが。

天国の口、終りの楽園。 [DVD]

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