リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その28

ここ最近仕事の都合で土日と言えど休みがなかったので、疲れた心に三角マークの東映製薬を注入すべく、何本か見ていた。その感想を、まとめて書こうと思う。



博徒解散式』(1968)
深作欣二監督作。深作欣二監督といえば狭い場所でのゴチャゴチャとした乱戦、任侠とも違うそのカオスなエネルギーを扱うのが巧いと思うのだけれど、例えばこの作品やそれ以前にしてもわかるように、広い空間を捉えるのもまた巧い。そして広い空間と言えどそこに開放感はなく、むしろ息苦しくてごつごつとした、まるでごみ溜め場かというような感覚があるように思うである。埋立地やボロ小屋の立ち並ぶ団地というのは深作欣二作品の、特に『仁義〜』以前の特徴でもある。黒味の強い画面もキマっている。
本作では室田日出男が弁当を起点にしたドラマとその死にざまによって画面に花(?)を添えており、乱戦こそほとんどないが鶴田浩二が決闘をする2場面において室内に落ちる影や、丹波哲郎が与えられた居住地の描写がいい。また織り込まれる回想シーンでは「任侠モノ」のような場面を見せ、現代パートでその反転を行うかのような構成になっている。この反任侠の流れはいくつかの作品を経て、5年後の『仁義なき戦い』で完全なものとなったのだろう。

博徒解散式 [DVD]

博徒解散式 [DVD]



『日本暴力団 組長』(1969)
続いてこちらも深作欣二監督。それまでいくつかの作品で点在していたストップモーション・ナレーション・テロップ・斜めカメラという要素が出揃っている。ここですごいのはカメラを斜めどころか、横長の画面でほぼ真横に倒した撮影をしているところだ。しかもその場面がまたすごく、ラスト、ヤクザ組織の手打ちが神社の境内で行われている。黒塗りの車が並ぶ中、そこへ覚悟を決め登場する鶴田浩二の、その挙動を真横で捉えるのだ。やりすぎだろう。本作では、若山富三郎が暴れ者集団「北竜会」の会長役を務めており、その暴れっぷりが期待される。しかし組員こそはダイナマイトを敵事務所へ投下して暴れまわるものの、若山富三郎自身は鶴田浩二の前に怯み、あまり豪快なことをせずに終わってしまったように思う。会長だから当然なのかもしれないが、そこは期待外れに終わった。安藤昇の起用も単発的で、あまりうまくいっていないのでは。
ところで、本作にもはやりボロ小屋団地は登場する。それはまず前述した北竜会の事務所であるが、ここでもうひとつ、深作欣二の特徴として、水というものを挙げてみたい。埋立地なのだから、そばに水辺があろうと大地に湿り気があろうとそれは不思議ではないのだろうが、水は多くの作品で登場している。そして時に雨という形でもあり得るこの水とは、決して登場人物たちを癒すためではなく、むしろ暴力や重み・ぬかるみとして画面に登場しているのではなかろうか。本作では特に、安藤昇が水と共に登場している。もちろんこれは、いまとのころ単なる思いつきでしかないのだが。

日本暴力団 組長 [VHS]

日本暴力団 組長 [VHS]



『人斬り観音唄』(1970)
原田隆司監督作品。若山富三郎主演『極悪坊主』シリーズのスピンオフらしいのだが、『極悪坊主』は見つけられなかったので、とりあえず手っ取り速く見られるコチラを鑑賞。菅原文太演じる盲目でありながら拳法と鞭の達人である坊主が、寺の前に捨てられていた盲目の子供の親を探している途中で、西南戦争の資金と火薬を巡るいざこざに巻き込まれるというお話。まるで『座頭市』にありそうな話だが(ご丁寧の賭場で丁半博打のいかさまを見破る場面まである)、大映の作品と比べると画面の美しさや殺陣の流麗さで到底及ばないし、千葉真一が出演した空手映画のようなインパクトもない。菅原文太は『日本暗殺秘録』で一瞬だけ見せたアクションが光っていたことからも分かるように、千葉真一ほどではないとはいえアクションができないわけではない。しかしどうにもこの作品は演出からキャラクターに至るまでインパクトに欠けていた。かといってつまらないわけではなく、何故か最後の決戦では目つぶしを多用して戦うなど、見所もあるにはある。

人斬り観音唄 [VHS]

人斬り観音唄 [VHS]




暴力団再武装(1971)
佐藤純彌監督による、任侠の終わりを描いたかのような作品。序盤は鶴田浩二が珍しく悪辣なヤクザを演じており、ためらいなく人を殺し、過去に抱いた女にも一切の興味はなく、労働者に対して慈悲を見せることなどない。特に素晴らしいのは、手下に殺しを依頼し、その顛末を自身は椅子に座りながら悠々と横目で確認する場面の色気である。中盤になると鶴田浩二は労働者と結託し協力体制を取るが、しかし組織の方針ゆえに破門。単身、自信を上回るあくどさを持つ組織と対立することとなる。ここで変わっているのが、もし任侠映画であれば最大の見せ場となるはずの殴り込みに爽快感は欠片もなく、労働者から見れば、単に自分たちを苦しめるやくざ同士の迷惑な殺し合いでしかないことが示されるという点だ。だから鶴田浩二は最後ヒーローにならず、ひたすらなじられて終わる。近衛十四郎がスーツ姿でやくざの親分を演じているというのも見所の一つだし、待田京介が殴り込みをかけるも警察に取り囲まれる場面も面白いのだが、同じく港の労働者を描いた作品でもある『博徒解散式』と比べると描写が弱い。

暴力団再武装【DVD】

暴力団再武装【DVD】



博徒斬り込み隊』(1971)
こちらも佐藤純彌監督。とにかく人が死ぬ。このジャンルで人が死ぬというのは珍しいことではない。しかし本作においてはとにかく鶴田浩二の周りで、彼のためにばたばたと死んでゆくのである。殺しが行われる酒場の鏡の使い方や(2度ある)、扉が開くと盃の準備が万端に整っており、その直後列車の中で殺される辺り、そして行動目的が策を練り「葬式を行うこと」となるなどなど面白い点はたくさんあるが、しかし何といってもその葬式が二転三転した後、最終的に大混戦の殺し合いへ発展するのが最高。『実録 私設銀座警察』程とはいかないまでも、なかなかに壮絶な絵面である。『暴力団再武装』における殴り込みは、意味は良いとしても画面としてイマイチだったのに対し、このように混戦となるといい。
しかしこの作品、その盛り上がりの後最後にもう一展開あるのだが、その部分は蛇足感が拭えず、すべての糸を引いていた警察を殺さなければという気持ちはわかるが、例えば『アウトレイジ ビヨンド』と比べるとトロくささが一目瞭然である。ただし、この不満を差し引いても十分に楽しめはする。

博徒斬り込み隊 [DVD]

博徒斬り込み隊 [DVD]



『脱獄広島殺人囚』(1974)
中島貞夫監督作品。主演も監督も同じ『暴動島根刑務所』と違うのは、こちらの方が脱獄回数が多く、90分間の内に4回も脱獄するということである。だから『暴動〜』では「飯食わせろ〜」と団結し火を起こしたり、豚の飼育を取り上げられた田中邦衛がスピード自殺をしたりという、刑務所内の生活描写も色々とみられたものの、こちらは抑え目である。代わりに描かれているのは、松方弘樹の圧倒的な生命力と闘志だ。4回も脱獄するこの男は学ばないし、慎重さを微塵も持ち合わせてはいない。もちろん、逃走計画・プロセスにしてもプロフェッショナルには程遠い。しかし、それでも何度だって脱獄するのである。そのいやしくも燃え尽きることのない、何としてでも生にしがみついて今を抜け出そうとする意思こそ、本作に魅力なのだ。
ところで『狂った野獣』『唐獅子警察』といい、中島貞夫作品において室田日出男は何故か下半身が酷い目に遭うことが多いように思う。そしてやはり本作でも彼は下半身にダメージを受けていた。直後の家畜解体シーンで結果ほのぼのとした空気にはなるが、なんともかわいそうな扱いばかりされている。笑うけど。

脱獄広島殺人囚 [VHS]

脱獄広島殺人囚 [VHS]



その他には小沢茂弘監督『いかさま博奕』(1968)も見ていて、これがまた素晴らしい作品であった。鶴田浩二若山富三郎が薄灯りの賭場でいかさま博打を仕掛け、そして見破るという緊張感のある作品で、博徒の手際の見せ方や、(札のように)まず襖から倒れる敵、そして片目に傷を受けつつも決戦へと向かう鶴田浩二に燃え、最後まで「嘘」で戦う男の背中に泣く最高の作品なのだが、今回は任侠よりも実録寄りの作品で固めたため、最後にちらりと書く残す程度にしておこうと思う。