リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!史上最恐の劇場版』を見た。

狂い咲きゴーストハンター
フェイクドキュメンタリー界の鬼才・白石晃士監督によるビデオシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』の第6弾で劇場版。お馴染みの大迫茂生、久保山智夏に加え、前作に引き続き宇賀神明広も出演。そしてカメラマン・田代はお馴染み、白石晃士監督自身が演じている。


『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズディレクターの工藤(大迫茂生)とアシスタントの市川(久保山智夏)の下に新たな投稿ビデオが届いた。それはタタリ村と言う、村に入れば発狂するか消えてしまうという噂のある村であった。実際に工藤らが投稿ビデオを確認したところ、映っていた2人の人物のうち1人は失踪、もう1人は発狂したという事が判明した。工藤らは早速、アイドル(小明)・霊能力者(宇賀神明広)・科学者(金子二郎)と共にタタリ村へ向かうのだが・・・

白石晃士監督は現在最も刺激的な作品を作る監督の1人である。何を今更と映画好きなら思うかもしれないが、申し訳ない。僕がその凄さを知ったのは昨年『カルト』を見たときのことで、しかも『コワすぎ!』に至っては、当然噂は聞いていたものの、実際に見たのはたった数か月前のことなのだ。そして遅ればせながら、そのあまりの面白さに衝撃を受け、その後『オカルト』を見て確信した。白石晃士監督こそ、現在最も刺激的な作品を撮る監督の一人である、と。
『コワすぎ!』シリーズについて1から感想を書くと長くなりすぎてしまうのでやめておくが、一応、シリーズ全体について自分なりの感想をまずは書いておこうと思う。『コワすぎ!』の、最も分かりやすい面白さとはやはりキャラクターの面白さであろう。特に主役である工藤ディレクターが素晴らしく、口裂け女だろうが幽霊だろうが一般市民だろうが、目の前にある壁はすべて暴力でぶち壊していこうとするアグレッシブかつバイオレンスな狂人なのである。実はビビりなのも良い味。
怪奇現象のような霊的、もしくは超自然的現象に対抗する場合、普通であれば霊能力であるとか超能力などの、同じような超自然的力で立ち向かうだろう。しかし工藤は極めて肉体的な力を駆使する。そして『コワすぎ!』シリーズで最も面白さの弾ける瞬間とは、多くの場合この工藤というキャラクターが肉体によって怪奇や怪異とぶつかった瞬間であり、その衝撃と破壊の反応に、面白さの壁を突き抜ける力があるのだ。怪奇現象を扱うホラーで、これほど生身の身体が重視されている映画も珍しいように思う。
白石監督は工藤のような普通ホラー映画に登場し得ないキャラクターを魅力的に動かすことを得意としているが、ここに大迫茂生という俳優が加わったことにより、その面白さがさらに飛躍したのは間違いない。『グロテスク』でも濃い存在感を発揮していたが、とにかく顔の説得力が尋常ではなく、特に黒目のバランスと声が印象的で、工藤という役にはこの人以外考えられないほどにハマっている。
工藤だけでなくそのアシスタント・市川も面白い役で、理不尽すぎる工藤を前にぶつくさ文句をいったり散々ひどい目にあわされつつも、実は工藤と同じような殺気を漲らせたりもする女性である。なんだかんだ協力したり工藤の暴力に対して時にただ傍観しているだけというのもいい。こういった個性的なキャラクターたちがこの映画を引っ張っているように、まず僕は思うのだ。



映像面の面白さについても触れないわけにはいかない。フェイクドキュメンタリーという形式は、目の前で起こっている出来事をありのまま野蛮に捉え(たように見せ)つつ、劇映画のように時間にも場所にも、何物にもとらわれることなく世界を一変させてみせることもできる方法だと思うが、それを見事に使いこなしているのがこのシリーズだ。ドキュメンタリーのようでありつつ、「ここぞ!」という瞬間に尋常じゃないジャンプがあり、それが気持ちいいのである。特に『FILE04-真相!トイレの花子さん』はそれが素晴らしい形で結実しており、カメラの振りによって一瞬で世界が変わる恐怖。ワンカットの中で時間を飛び越えるスリル。ドラマ。キャラクター。全てが素晴らしい効果を上げているのだ。『劇場版・序章』での、四谷怪談を扱いつつ何故か『エクソシスト2』風味にし、とはいえしっかり戸板返しをした上でアナログな恐怖表現により盛り上げていくという強引さにも感動した。説明より画と行動のインパクトで見せていくあたりもいい。
『コワすぎ!』は、キャラクターの面白さとチープさだったりいかがわしさで語られてしまうこともあるように思うが、何よりアイデアと確かな映画の技術によって支えられている作品なのだ。その土台があるからこそ、行動や展開にある無茶すらも、「勢い」として見ている側を巻き込んでいくのだ。それが『コワすぎ!』の魅力なのではないか。



結局前置きが長くなってしまったがようやく本編。今回の「劇場版」はこれまでの『コワすぎ』シリーズの、一旦のまとめのような作品になっている。今まで積み上げられてきたいくつかの伏線やアイテムが、とりあえずの結末を迎えるのだ。
舞台となるのは地図から消えた村。神隠し。呪術師集団。鬼。旧日本軍。そして神と、話はどんどん大きくなっていくが今回一番驚いたのは、作品がまさかの宮崎駿庵野秀明ワールドになっていたことだ。工藤の腕の件や鬼神兵のビジュアルはまさに『もののけ姫』であり、ラストは『巨神兵東京に現る』のオマージュだろう。いくらなんでも壮大すぎる。しかしそんな「思いついてもやらないだろ」ということすら面白く見せてしまうのは流石。
もちろんホラー映画としての機能も本作はしっかり果たしている。特に僕が好きなのは、アイドル・小明の顔がゆっくりと変形し、心霊写真のような不気味な顔になっていくところ。写真を撮ったら顔が変形していたという、心霊写真の恐怖は多くの映画で幾度も描かれてきたが、ゆっくり変形していく姿は初めて見たように思う。ちなみに変形後の顔はインスマス面っぽくもある。
怖さでいうと、工藤ディレクターの暴走にも拍車がかかっている。今まではビデオの投稿者や情報を持ってそうな人物を殴る蹴る程度で済んでいたが、今回は拉致。そしてほぼ殺人まで行っているのだ。流石にやりすぎである。事あるごとに彼は言う。「海外だよ!海外!」。ここまで来ると本当に擁護不可能の狂人だ。しかしそんな男の運命にも涙を流させてしまうのだから、物語とは不思議なものである。



工藤というディレクターにはモデルがいるのか?僕はそれがずっと疑問だったのだが、本作を見て納得した。これは白石晃士監督自身がモデルなのだ。誰も見たことのない衝撃的な作品で金を儲けて、世間に注目されようという工藤の思いはおそらく、監督自身が心掛けていることなのではないか。何処を見ても同じような作品ばっかりでうんざりだ。誰も見たことのない刺激的な作品を作りたい。日本は腑抜けばっかりじゃないか。現状をぶち壊したい。工藤は白石監督の鬱憤を代弁し、現状の破壊者となってくれるパートナーなのではないか。
また監督は『オカルト』公開時のインタビュー(http://eigageijutsu.com/article/115758311.html)で、『ゆきゆきて、神軍』のラストシーンとして予定されていた「実際に人を殺す現場」映像こそ(無理とはわかっているものの)撮るべきと語っている。フェイクとはいえ、ドキュメンタリー的な映像の中で工藤は、現実にそんなことをやってしまったら撮影どころではない暴力を振るう。しかし先に書いた監督の考えの通り、やはり映画はその瞬間こそ面白いのだ。もし本当にすごいものが撮れるのであれば、どんな撮影方法も厭わない。その欲求を誇張した形で叶えてくれるのが工藤だとしたら、弱気なカメラマンの田代(監督自身が演じている)は、現実にはそれができないとわかりつつ惹かれてしまうことを誇張したキャラクターなのかもしれない。



白石晃士監督は『ある優しき殺人者の記録』という新作が控えている。これは日韓合作で、ロケはすべて韓国で行ったという。どういう経緯で撮影に至ったのかはわからないが、まさに「海外だよ!海外!」という事であろう。また本作にしても、シリーズはビデオというフォーマットからスタート。VFXも自分で手がけなければならないほどの低予算。それでも、全力突っ走って巻き込んでいった先にあったのがこの「劇場版」なのだ。それを考えると、本作で工藤が口にしたある言葉は、反逆のヒーローとしてかっこいだけでなく、平凡な僕にも喝を入れ、勇気をくれる言葉に思えてくる。それはつまり、「運命に逆らえってな」という事なのである。

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