リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その33〜2017年下半期旧作ベスト〜

皆さんあけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、早速ですが、昨日の新作ベストテン記事にも書きましたように、2017年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ、紹介したいと思います。並び順は単に見た順というだけです。ちなみに、昨年の旧作鑑賞数は202本でした。また上半期ベストについては<こちら> をどうぞ。



四川のうた(2009)
閉鎖される国営工場で働いていた人たちへのインタビューを行うドキュメンタリー。いきなり『工場の出口』のごとく押し寄せる人の流れの、その数の多さに驚き、またインタビューは常に窓を背にしながら鏡などを配置しながら行われているのだが、そこでは赤から白への移行、そして奥の存在などが周到に用意されていて面白い。例えば鏡に反射した窓の、外では赤い布が揺れているというようなことがふと気になってくるのである。そして素晴らしいのは赤い服を着た少女がローラースケ−トで屋上を滑走している動きであって、ここまでそういった自由な動きが封じられていた分、この軽やかさが感動的である。

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美女と野獣(1946)
ジャン・コクトー版。光と闇の、素晴らしい怪奇映画。霧の森を抜けた先にある屋敷ということで、『アッシャー家の末裔』と似た部分を持つが全然違う。例えば移動を捉えた撮影で見ると何より目を引くのはベルが屋敷に入ってきたときのスローモーションであって、こういったスローの使い方とその場面でのベルの身振り、これが本作は素晴らしいのである。もちろん怪奇としての屋敷描写も最高だし、また僕の大好物である布の揺れもやはりキマっている。そしてこういった要素が最高の密度で混ざり合う最後の飛翔シーンは、忘れ難い美しさを誇っているのだ。

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『按摩と女』(1938)
冒頭からなんとも清水宏監督っぽいなぁと思う歩き姿で既にもう面白いのだが、舞台が温泉宿へと移るとカメラは時折旅館の内部を捉えるように斜めや横に移動し、人物のタイミング良い動きの素晴らしさを堪能できる。男と別れた高峰三枝子が傘をさして川にかかる小さな橋を歩くシーンとバストショットも感動するほどに美しいが、最高なのはその高峰三枝子が按摩を追わせては逃げてを繰り返す場面の切り替えしであって、ここでは按摩を主人公にしたことによって、本来見えていない、見えることのないものを映画によって見せるということに成功しているように思う。

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台北ストーリー』(1985)
冒頭の窓に始まり、四角形をフレーム内の基本図形とした画面の構成が最後まで続いており、そこに光の反射、光源の点滅といった照明の感覚と変化が加わり、美しというか、何か凄いとしか言えないような興奮をもたらしている。物語は殆ど説明がなく、しかも何か劇的なことが起こるわけでもないのにこんなにも面白いと思えるのは、この純粋な画面の力によるのだろう。特にフジフィルムの看板やバイクで出かける夜のシーンに出てくるネオンは涙が出るかというほどだ。開けた海のショットは意外で驚いたが、色としては青と緑がずっと根底にはある。

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『燃える平原児』(1960)
ぽつんと建つ一軒家と、そこに広々と伸びる大地の中/外感覚に見応えがある。そしてこの感覚はインディアンとの混血児であるプレスリーを中心とした複雑な事情を持つ一家の物語とも当然関わりを持つのであって、ラストの兄弟の対話は二人の位置関係、というか背景との関連性によってまたこの感覚が際立つではないか。しかし何といっても母親を探しに外に出たときの異常な強風。これが厳しくもまぁ美しい。



『現代やくざ 与太者仁義』(1969)
『現代やくざ』シリーズといえば深作欣二による傑作2本があるけれども、それ以外の作品も簡単にレンタルできるようになっていたので鑑賞。その中ではこれが1番良いのではないかと思う。特にロケーションと美術が素晴らしい。例えば海沿いに連なるボロ小屋と、その海辺で殺される男の画。ここでは殺しにやってきた黒いスーツのヤクザ達が、見事にその姿を鏡面となった海に反射させているのがカッコいい。また最後、一騎打ちの背後で赤白青に点滅するブロック状の壁も見た目として楽しいし、更にその場面に至る直前では、壁に掛けられた絵が燃える中、人物の動きに合わせカメラが横に移動するという鬼気迫る感覚を感じさせてくれたりもする。ちと画面が暗いこと、そして『やくざ絶唱』でも思ったことではあるが、田村正和はこういうジャンルに似合わないのが残念ではある。



『見えざる敵』(1912)
二つの部屋を中心に展開する短い作品ではあるが映画的な見所に満ちており、例えば草木を揺らす風の強さ、穴と拳銃、車と橋などの要素によって映画としてしっかり楽しめる。特に小さな穴から出てくる拳銃の、その出方が良い。画面に向かって、ゆっくりと伸びてくるのだが、まるで見つけた獲物を確実にしとめるため忍び寄るようなスピードで観客に迫ってくるために、不気味なのだ。そしてそれを見たリリアンとドロシーのギッシュ姉妹のリアクションによってスリルとサスペンスが増幅される。ちなみにおそらくこれは姉妹百合萌え映画としても最古のものでしょう。

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『死神の谷』(1921)
映像表現の楽しさが詰まっている。冒頭、死神頂上シーンでの風と砂。階段や円・半円による高さの表現。ロングショットで示される孤独な存在感等々であって、特に死神が築いた壁の、圧倒的に人を寄せ付けないであろう威圧感であるとか入口の裂け目に無数の蝋燭が並ぶ部屋は最高で、これらの映像の、連なりが良いのだ。3つ出てくる舞台だと中国パートが抜群に面白くて、特撮の見どころも多い。また物語では「もう神に従いたくないんだよね」と零す死神や、夫の代わりに死ぬ人を探すヒロインというのも面白い。

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以上が2017年の下半期旧作ベストでした。他にも『ビッグ・ボウの殺人』や『オキュラス/怨霊鏡』『アスファルト・ジャングル』『幸福の設計』『春桜ジャパネスク』なんかが面白かったですね。上半期の豊作っぷりに比べると下半期はやや好みの作品と出会う率が低くなってしまいました。僕は色々片っ端から見ていくというような気力が備わっていないため、どうしても決め撃ちでソフトを買おうと考えてしまいがちなんですけれども、下半期は資金が尽きた、ということもあります。2018年はもう少し考えて行動したいですね。無理でしょうが。
さて、ここ数年は本を読みたいということも目標にしており、その点今年は多少マシという感じですが、まだまだ未読本が罪あがっている状態なので、やはり今年もその目標は継続していきたいと思います。ブログの更新頻度についてはホントに改善したいですね。新作だけでなく旧作も、短かろうが少しは書けるようにしたいです。というわけで皆様、今年もよろしくお願いいたします。

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