皆さんあけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、先日の新作ベストテン記事にて予告したように、2018年下半期に見た旧作の中で特別面白いと思えた作品について、一言程度コメントを添えつつ紹介したいと思います。並び順は単に見た順というだけです。ちなみに、昨年の旧作鑑賞数は140本でした。なお、上半期ベストについては<こちら> をどうぞ。
『文学賞殺人事件 大いなる助走』(1989)
筒井康隆原作の小説を鈴木則文監督が映画化。筒井康隆の作品を読んだことはないのでその個性はわからないが、同人会員も選考委員もキャラが立ちまくっていて、そのおちょくり方が鈴木則文らしく、アナーキーでしょうもない勢いが楽しいコメディ。しかし「ソクラテスの妻」と揶揄される宮下順子に「私はソクラテスの妻でいいわ。でもあなたはいつになったらソクラテスになってくれるの?」という強烈な一言を浴びせられる蟹江敬三の存在が、終盤になるにつれ文学愛好家としての悲哀を強めておりアクセントになっている。ラストはちょっと長い。
『空の大怪獣ラドン』(1956)
本多猪四郎監督、特撮監督円谷英二という間違いない布陣。瓦屋根から車から、街中の大小ありとあらゆるものが風で破壊され、燃えたり吹っ飛んでゆく特撮はかなり見応えがある。阿蘇山での最後も落ち方が切なくて最高。そしてラドン以外にも、炭鉱町に現れるヤゴの怪獣・メガヌロンは生活圏で見たらぞっとする絶妙なサイズ感で抜群に気持ち悪い。しかもこれが破壊というよりは民家にいきなりぬるぬると侵入してくるのだから怖い。
『絹の靴下』(1957)
ルーベン・マムーリアン監督、フレッド・アステア、シド・チャリシー主演のミュージカル映画。足にはじまり足に終わる映画なのだけれども、中でも「ニノチカ」ことお堅いシド・チャリシーが絹の靴下を手にし、いままでの服を脱ぎ捨て華麗に変身していくダンスはセクシーというよりも素敵という言葉で表現したくなる、素晴らしいシーンとなっている。というかこの作品のシド・チャリシーは最高。ミュージカル部分は全体にカットやアイデアによる空間の見せ方も楽しいし、「Stereophonic Sound」で立体音響になるところは笑える。
『明日は来らず』(1937)
レオ・マッケリー監督。これは『東京物語』の元ネタになっているということで見て、確かに中盤まではそういった趣もあり、またそれ故にヤカンが妙に気になったのだけれども、しかしそんなこととは別にして傑作であった。この作品で何より素晴らしいのは後半、老夫婦がベンチに腰かけてから二人でデートをするという展開にあり、先々で車売りやホテルマンに指揮者などの第三者を介入させながら会話をさせていくシーンの一つ一つに、微笑みながら泣いてしまうのだ。視線のやり取りで笑えもするし、室内シーンは窓際の風景がいいのだけれど、これはおそらくその窓際に置かれた、うるさく音を立てきしむ古びた椅子が孤独を浮き彫りにもさせるからであろう。
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『月光の囁き』(1999)
この作品に出てくる、道の良さに感動した。関係性が前後する川沿いの告白や、自転車で素晴らしい疾走をみせる曲がり角と直線。土手。病院の階段と呼応する二人が寄り添う曲り道。塩田明彦監督は『カナリア』でも男女を道で印象的に衝突させており、『風に濡れた女』もそうであったな、などと思い出しもした。また川、汗とキス、おしっこ、雨、汗、滝、ジュースという水の要素が繰り返されているのも面白い。
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『人間人形の逆襲』(1958)
バート・I・ゴードン監督。『マッドボンバー』も今年鑑賞し、チャック・コナーズの顔のあまりのマッドボンバーぶりに感動したのだけれども、この作品も忘れがたい魅力があった。特撮としてはミニチュアサイズされてしまった人間たちが見どころではあるけれども、ミニチュアサイズ人間の楽園を作ろうとする自己中心的な狂った人形師側のお話が良くて、妻に逃げられたこの人形師の孤独、すべてが水の泡となったときに放つ、「お願いだ、わたしを一人にしないでくれ」という言葉が染みるのだ。
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『モンキー・ビジネス』(1952)
ハワード・ホークス監督。猿が薬を調合するシーンの、猿の演技というか動きやカメラワークや最高すぎる。その後の騒動、例えば最後の二人同時退行は変化のシーンに最も顕著だが、一つのショットの中でやたらと動くのである。そしてこういったはじまりが良く出来ているからこそ、加速していく馬鹿馬鹿しさも大いに笑えるのだろい。またホテルでのやり取りに顕著だが、扉や照明が効果的に使われている。ちなみに扉については、目の悪さという設定も相まって次第に入り口と出口が無茶苦茶になるというギャグにもつながっていく。
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『雀』1926)
ウィリアム・ボーダイン監督のサイレント映画。全く聞いたことのなかった監督だったが、DMM動画で簡単に見られるのでなんとなく視聴をしたら大変面白かった。人里離れた沼地のある一軒家という舞台設定がまず最高。そこで貧困と搾取に苦しむ子供たちの描写もさることながら沼が何より凄くて、人形を握りつぶして捨てる冒頭からワニのいる湿地帯を潜り抜ける終盤の脱走劇に至るまで非常に印象的である。ちなみにその脱走劇は舞台設定をうまく生かした画面が素晴らしく、密林では板や木を使うアドベンチャー的面白さが、そしてその後はボートチェイスの迫力がと、まるでスリルの手本のように展開が転がってゆく。
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『ルーキー』(1990)
クリント・イーストウッド監督・主演。冒頭の面接から妙に影が強く空間も異様なのだけれども、こういった妙に不安をあおる演出はクリーニング屋で最も炸裂していて、ビニールに覆われた服の数々が醸し出す妙な不気味さだけで大好き。風に揺れていたり、突如機械仕掛けによって回りだすのがいいのだ。黒沢清はこの作品を好きに違いない。さてそんな影ばかりではなく光の非常に印象的であって、イーストウッドのみならずチャーリー・シーンも後半逆光で登場している。光というと、闇夜に火花をあげながらチェイスするシーンもよく、アクションは割と派手。そして見上げる視点とコンベアの流れで締めるラストも最高。
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『ショックプルーフ』(1949)
ダグラス・サーク監督。とにかく早い。物語が早い。それだけでもうすごいというところではある。さて脚から登場する美女が服を着替え髪色を変え、殺人を犯した罪から保護観察局へと出向くという冒頭はノワール風なのかもしれないが、しかしその後の展開はメロドラマ要素もだいぶ強まっているように思えた。またこの作品は美術が非常に印象的で、例えばコーネル・ワイルドが演じる監察官のいる事務所の窓枠であるとか、鉱山での巨大な装置が丸見えになっている窓などは単純に視覚的に面白いし、何より監察局や彼の実家などは階段、というか高さが素晴らしく、だからこそ飛び降り自殺も映えるのだろう。ところでパトリシア・ナイトは美人ですねー。
ちなみにこの作品はシネマヴェーラ渋谷にて12月30日に見たのだけれども、なぜ北海道の田舎者が年末にそんな場所で映画を見ているのかということにつては後日ブログを書く予定。
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以上が2018年の下半期旧作ベストでした。他にも『マンクスマン』『次郎長三国志 次郎長初旅』『トロール・ハンター』は面白かったですね。今年はどうも心と体のバランスが例年以上にうまくとれていなかったのか、旧作の鑑賞数が昨年から60本以上減っていました。2019年は年明けからキアロスタミの『桜桃の味』などがレンタル開始にもなりますし、いろいろと今まで見られなかった作品も販売開始になったりしているので、たくさん見れるよう健康でいられたらいいなと思っております。
さて、ここ数年は本を読みたいということも目標している、というのは去年も書いたことなのですけれども、恐ろしいことにまったくそれは達成できていません。しかし2018年は念願だったソール・ライターの「Early Color」を入手できたのがうれしかったですね。今年もその目標は継続していきたいと思います。またブログの更新頻度についてはどうも改善できそうにないのですが、とはいえ新作だけでなく旧作も、短かろうがせめて月イチでは書いていけるようにしたいと思っています。それでは皆様、今年もよろしくお願いいたします。