リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その35~2018年上半期旧作ベスト~

相変わらず亀にすら追いつけないほどのスローペース更新が続いている当ブログではございますが、時間は早いもので今年ももう上半期がおわりましたので、恒例の旧作ベストについて書きたいと思います・・・と言っている傍からすでに上半期が終了して一か月が経っているという体たらく。まぁグダグダ後悔してもしょうがないので、早速本題へ移りましょう。例年どおり、並びはランキングではなく見た順です。



『古都憂愁 姉いもうと』(1967)
横長画面の内部でさらに戸や窓や柵を利用して四角の世界を生み出す画面構成が冒頭から炸裂しており、そんな余白を生かした美術と撮影の美しさが全編に渡って存分に堪能できるのだけれども、しかし本作においてより強烈に印象に残るのは例えば食器や陶器、もしくは調理器具といった、道具に対するフェティシズムである。道具が用途に沿って一つ一つ丁寧に並べられていく様はそれだけで非常に心地よく、そもそもオープニングクレジットからもその嗜好は明らかである。また料理はその調理過程も含めて非常に心地よく湯気をたたせ、さらにはたばこの煙も同時に画面に立ち上がってくる。ところでフェチというと三隅研次監督の女性映画では度々女性の足先がクローズアップされており、例えば『婦系図』や『雪の喪章』や『なみだ川』がそうであったように、やはり本作においても足袋を脱ぐ足先のクローズアップがあった。



『人情紙風船(1937)
現存する3本の山中貞雄監督作品では唯一見ていなかった作品。身体から離れ落ちる手紙や髪飾りに足元のショット、風に吹かれ武士の前を通り過ぎる紙風船、繰り返される雨といった印象的なシーンを筆頭にして、ここはこのように撮ればいいのだというかのごとく的確な画面構成とショットの繋ぎ、クローズアップ、ミドル、ロングの切り替わりが素晴らしい。また、河原崎長十郎演じる夫の噂話を立ち聞きしてしまった妻・山岸しづ江がとぼとぼと長屋の通りを歩くその姿や、家の中に転がる二つの紙風船といったシーンの流れも美しいではないか。さらに最後に紙風船が水へ落ちるシーンの動きも実に素晴らしい。素晴らしいのだが、その動きのあまりの素晴らしさは不思議にすら思えるほどだ。奥行きのある路地には人々が集い、行き交うことで活気づいてはいるものの、しかし例えば主人公夫婦は家で目を合すような位置にいることが少なく、最後の刃に当てられる光の鋭さをとどめとする非情な話でもある。そしてやはり、会話劇としても抜群に面白い。このように、いくつもの要素についてただひたすら素晴らしいと繰り返すだけになってしまうような傑作。

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『マーシュランド』(2014)
土地の映画。冒頭の極端な俯瞰や死体を見つけるシーン等、水と乾燥のロケーションを捉えた撮影が良く、乾いた風を感じさせる木々やシーツ、そしておそらくは砂埃で汚れたのであろう窓から見つめる視点など、各シーンの雰囲気がきちんと出ていてロングショットも様になっている。この俯瞰は『ボーダーライン』の、家々や麻薬や死体が密集していることを感じさせる俯瞰とは違い、土地そのものの不吉さであって、だからこそ最後に血は水へと流れ、水路の脇を車が走り抜けるのであろう。湿地帯の銃撃戦も、雨やぬかるみ、そして茂みといった条件をうまく使って、視界不良の画面的サスペンスを作り出している。だがそれだけで本作を上半期ベストとまで言いはしない。僕が真に感動したのは夜のカーチェイスだ。不審な車を発見した警官がその後を追うと、砂埃舞う中でのチェイスとなる。警官のやや斜め後ろからその横顔と、フロントガラスを通して不審な車を捉えているカメラが、ゆっくりとズームし始めるとその不審な車のリアウィンドウ越しに、突如ぼうっと女が現れるのだ。おそらくそれは誘拐された女性なのだろうが、しかしあのタイミングはまるで心霊ビデオであって、その恐怖表現に、大層興奮したのである。

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悲しみは空の彼方に(1959)
こちら→http://d.hatena.ne.jp/hige33/20180301/1519910407に感想を書いたように、サークでは『僕の彼女はどこ?』『天が許し給うすべて』に並ぶ傑作だと思う。

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きらきらひかる(1992)
初めて見た松岡錠司監督作品。アル中の妻と、同性愛者の夫と、夫の愛人との三角関係を描いた物語だが、だからといって何かしらの問題意識であるとか、もしくは性愛にクローズアップしたりはしない。では何が良いのかといえば、何より笠松則通の撮影が素晴らしいのだ。開けた空間の使い方や歩く・走るの横移動、3人で海に出かける場面はなにより夕焼けも沈んだ後の海の捉え方が素晴らしい。ライトに照らされる夜の撮影、車窓も悉く見応えがある。また本作は視線劇であって、登場人物は高低差のある位置でよく会話をしている。それは頻出する階段や斜面という場面においてのみならず、たとえ室内であろうとも座っている、寝そべっているというような状況を利用することによって、地形や体格差に関係なく位置や視線で映画内の状況を作り出しているのだ。役者が動きながら位置関係を変化させてゆくやや長めのワンシーンや、もしくはラストの分離された3人を繋ぐカットなど、多彩さもある。この監督の作品、とくに『バタアシ金魚』は是非とも見てみたいと思わされた一作。

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デリンジャー(1973)
この乾いたタッチで描かれる作品は、ギャングを生業とする男たちの生き様を描いた作品ではない。むしろ彼らの、死に様をこそ描いているのだ。そしてその死に様とは、決して哲学めいた話ではない。ただ次々と警察に包囲され死んでゆくという、それだけの話なのだ。だがそんな死に様を積み上げてゆく銃撃戦によって残される弾痕や、もしくは窓をはじめとする破損物こそ魅力的なのである。上にも下にも人体を転がしてゆく自動車の暴力性も素晴らしく、車は走るためのというよりもはや銃を撃ち込まれ、転がり、さらに盾となり炎上する物体として存在しているかのようだ。弾の切れた銃をフロントガラスにブチ刺すシーンなんてまさに車の存在を書き換えている。個々のショットも良く、特に湖畔の別荘は、夜とそれが明けてからの光の感覚が激しい銃撃戦と相まって素晴らしいシークエンスとなっている。



『真紅の盗賊』(1952)
ロバート・シオドマク監督バート・ランカスター主演のこの海賊映画は非常に軽やかで、おおらかで、エンターテイメントの魅力に満ちた作品である。特に中盤の、市街地追いかけっこは相棒役を演じたニック・クラヴァットとの掛け合いも相まってまさに縦横無尽という言葉がふさわしい、アイデアの詰まった素晴らしいアクションシークエンスだ。殆ど宮崎駿的冒険活劇。

真紅の盗賊 [DVD] FRT-208

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木枯し紋次郎(1972)
映像化作品としては先にテレビドラマ版があるけれどそちらは未見の為、本作で初めて『木枯し紋次郎』という作品に触れたのだが、そのおかげもあってか、ニヒリズムを湛えたこの役は菅原文太にピッタリではないかと思えた。先ず熱量のない眼がいい。そしてモデル体型故の脚の細さが紋次郎としての立ち振る舞いと暗いストーリーを支えているように思う。また本作は三宅島でのロケーションも素晴らしく、海に囲まれた孤島の厳しさがロングショットや土、そして風によって良く伝わってくるし、そこからの脱出シークエンスで描かれる醜いまでの生への執着は中島貞夫監督らしい卑小で強大なエネルギーを感じる。脱出後は、ふんどし一丁で襲い掛かってくる山本麟一や水車の回るボロ小屋でのカッコいい殺陣も見どころ。続編も併せてアマゾンビデオで気軽に見られるというのもありがたい。

木枯し紋次郎

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ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ! 』(1996)
おもちゃの線路を増築しながら猛スピードで爆走するクライマックスは、腹を抱えて笑いつつも面白すぎて涙が出てくるほど素晴らしく、アニメーションの技術と魅力が爆発している。それだけでも十分すぎるのだが、本作は照明も印象的で、例えばグルミットがペンギンを尾行するシーンは縦構図を利用した画面もさることながら、影の付き方が素晴らしいのだ。ペンギンちゃんが大量に冷や汗をかくシーンの可愛らしさも最高。この作品のために費やされたのであろう膨大な労力が、画面上の面白さとして結実しているという感動がある。

ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ! [DVD]

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以上が2018年上半期のベストでした。他にも、キャラの面白さのみならず場所とシンクロした銃撃戦が続き空間使いの巧さが光るチャド・スタエルスキジョン・ウィック:チャプター2』や、フィルムという幽霊を画面に召喚させるホセ・ルイス・ゲリン『影の列車』、画面に映るものすべてがエネルギッシュな森崎東『喜劇 女は度胸』、人だけではなく馬にも容赦ない暴力描写、特に家の外からラッパの音が聞こえるシーンが素晴らしいロバート・アルドリッチ『ワイルド・アパッチ』、車が風景を不穏に繋ぎ微妙に変化する天候や照明使いで画面を充実させ、一本道でサスペンスを作るフランチェスコ・ムンティ『黒い魂』、テンポの良いカット割りや人物の動きにより狭い空間も活劇的に広げ見応えある団令子の躍動が楽しい岡本喜八血と砂』も、『春婦伝』二こそ劣るけれど良かった。また劇場鑑賞した旧作では、色使いや浮かれると落ちるを繰り返すイエジー・スコリモフスキ『早春』の、美しいからこそ素晴らしいラストは忘れ難いものがあった。
さて、今年の上半期は去年ほど精力的な活動ができなかったのが心残りですので、下半期はもうちょっといろいろな場所へと足を運ばせるようにしたいと思います。お金さえあればね。