リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その38〜2019年上半期旧作ベスト〜

旅行記も書き終えたところで、恒例としている半年ごとの旧作ベストについて更新したいと思います。今年も相も変わらずの更新頻度となっておりますが、鑑賞数も例年に比べ少なありますが、その中でも、これは、と思うものについていくつか、順不同で書き連ねていきます。

 

 

俺たちの血が許さない(1964)

鈴木清順監督作品。Amazonプライム・ビデオにて鑑賞。序盤、仕事をさぼって家で休んでいる高橋英樹家へ長谷百合が尋ねてくるシーン。何の前触れもなく唐突に銃声が画面を貫いたかと思うとお盆の上のコップが割れるという流れには説明どころか真実味も必然性もない。しかしだからこそ出鱈目さが楽しくもある。そしてこの室内シークエンスは小林旭演じる兄と高橋英樹演じる弟の対比が自在なカット割りによって表されておりそれもまた楽しい。さらにここでコミカルに使われている扉という装置は劇中幾度か繰り返され、時に男女の障害として開け閉めされ、時に秘密の部屋へ通じていたり、時に籠城のため封鎖され、そして開け放たれる。そもそも冒頭の襲撃も2度ドアノブに手をかけ室内へ入り込むところから始まっていたななどとも思いだし、丁寧な積み重ねがあることに思い至る。またその丁寧さはアクションシーンでも発揮されており、画面の広さを流れ良く変えることで気持ち良いアクション空間を生み出しているし、ラストではカメラを移動させつつ左から右への疾走という他清順作品でも見られた快感を、陰鬱さの漂う場面であろうとも感じ取ることができる。というわけで清順の基本的な巧みさがわかりやすく、ストレートに楽しめる作品だとは思うのだが、しかしぶっ飛んでるとしかいいようのない場面もきちんとあって、特に小林旭が車の中で高橋英樹に秘密を打ち明けるシーンでスクリーンプロセスにより合成されている映像が、なぜか荒波。土砂降りの中を走る車というよりこれはもう海上を走っているようにしか見えない。

俺たちの血が許さない

俺たちの血が許さない

 

 

 

ザ・ベビーシッター(2017)

マック・G監督、Netflix配信作品。「優しくてちょっとエッチな俺のベビーシッターが我が家で悪魔崇拝者の集まりを開いてるんだが」という感じの大変楽しい作品。ポップすぎるテンションのまま、ほとんどギャグとして繰り出されるハードな人体破壊も素晴らしいし、「男らしくあれ」とけしかけつつ半裸で追いかけてくるマッチョはまるでデッカードを追いかけるロイ・バッティのようで笑える。悪魔崇拝者一同との対決はそれぞれ違ったシチュエーションにて行われているのだが、各場面・状況に合わせた仕掛けや演出が施されているあたり、観客を楽しませようというサービス精神を随所から感じ取ることができるのである。また彼らは主人公の少年に対し結果的に成長を促してもいるのだ。というわけできっちり面白がらせてくれる良心的な一本。

 

  

『ズーム・イン 暴行団地』(1980)

 黒沢直輔監督によるロマンポルノ。何がすごいかというのは序盤の惨劇を見ればすぐにわかるだろう。不審者に付け回される少女とその二人の伸びる影、助けを求める声に反して一室一室消灯されていくマンション、有刺鉄線、目のアップ、工事現場を駆け抜ける足、そして性器への着火からジャングルジムの死体に至る凄惨な暴力の流れはまるでジャーロ映画のようであり、全編このような調子で異様に暴力的なのである。そしてこの点において特に素晴らしいのはズタ袋から女を引きずり出し生きたまま焼却炉にブチ込むというシーンで、その行為のヤバさももさることながら、しかしなにより印象的なのは扉である。言い過ぎかもしれないが、この扉が『悪魔のいけにえ』の、かの有名な扉を思い出すほどなのだ。しかもこんな風に思って見ていると、最後には主人公とすれ違った妊婦が突然発火しのたうち回ってばたりと倒れるという異常な恐怖シーンもあって、こちらは『スポンティニアス・コンバッション/人体自然発火』を連想せずにはいられないだろう。だだっぴろい平地にポツンと置かれたドラム缶のある風景も最高。

ズーム・イン 暴行団地 [DVD]

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『不変の海』(1910)

D・W・グリフィス監督による短編。漁に出たまま帰らぬ夫をひたすら待ち続け、身ごもっていた娘が大きくなり、その娘が青年に求婚される年となり、家を出てまた一人になっても、まだひたすら変わらぬ海の先を見つめ待ち続ける妻の様を描いた非常に美しい作品。夫が旅立っていった海の、その先を感じさせる実際の風景と人物配置が素晴らしく、ほとんど同じような画面でありながら、しかし確かに長い年月が経ったのだと感じさせる時間経過表現も見事だ。また、待ち続ける妻の姿と並行して見知らぬ土地に漂着していた夫の姿も描かれており、このとき彼らの視線や進行方向は左右ちょうど逆、つまり空間を超えて向かい合わせになるよう映し出されていているのだが、だからこそ、最後に二人が再び出会うときの感動も増すのではないか。

D・W・グリフィス傑作選 [DVD]

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宮本武蔵(1961)

何度も映画化されている吉川英治原作の『宮本武蔵』のうちの内田吐夢監督版。第一部ということもあり派手な見せ場が多いわけではないが、俯瞰と仰角を利用した撮影によって画面には高低差のダイナミズムが生まれている。また時にカメラには滑らかな水平の動きがつけられていて、これらが特に素晴らしく映えているのは、吊るされていた木から降ろされた武蔵が姉を探して岩山を下りおり、人気のない牢を探し回るシーンであろう。アクションの捉え方もよく、例えば序盤、おばばらが戸を開けると外で乱闘が始まろうとしているシーンも画面に層があって最高。

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やくたたず』(2012)

三宅唱監督。とにかく人物を動かすことにこだわっていて、3人の高校生がだらだらと歩いたり、一列に並んだり、バラバラに動いたりしているだけではあるのだけれども、しかしそれが妙に魅力的であって、この良さは近作『きみの鳥はうたえる』にも通じる、監督の特徴といえよう。そしてこの魅力とは役者の身体の魅力であり、登場人物たちと時間、空間を共有できるからこその魅力である。またロングショットでの長回し、例えば動いている車の荷台に飛び乗るシーンでは小さなスペクタクルまで生まれており、ここには周到なカメラのパンもある。また車が盗まれる下り、写真を撮る下りでは集合と解散の動きが心地よく、前者は各方向へ動き出し画面外まで消えていく立ち回りが、後者は少し切ない余韻が残る。

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『楽日』(2003)

 蔡明亮監督。例えば映画館内の廊下、このただの廊下がただひたすら素晴らしいとはいったいどういうことなのかよくわからないが、しかしやはりハッとするほどに魅力的なのでである。またスクリーン横の小さな扉から今まさに上映されている胡金銓監督の『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』を見上げるシーンは、不思議にスペクタクルだ。これらをはじめとした映画館という場所の素晴らしさこそ、本作の素晴らしさである。廊下や階段にトイレに映写室、スクリーンと客席、そしてそこに集う人間たちの素振りが大変に面白く、ほとんどセリフがないにもかかわらず笑えもすれば泣けもする。個人的にこういった映画館の記憶はほとんどないけれど、それでも郷愁を誘われるし、刺さるものがあった。不意に登場した揺れる布と意外な幽霊話にも心惹かれる。

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ホフマン物語(1952)

 マイケル・パウエルエメリック・プレスバーガー監督。嘘っぽい表現の極致とでもいうべき美術と色使いが楽しめるオペラで、平面をうまく使いつつ奥への意識も促すことで視覚的に楽しい空間が生み出されている。床に書かれた階段をダンスしながら降りていくシーンなどはだまし絵的な錯覚が見事である。本作は3つの恋物語により構成されているが、特に面白かったのは一番最初の、人形娘に恋をするパート。このパートでは最後にその人形がバラバラにされてしまうというシーンがあり、予想外に残酷なフェチズムの楽しみまで満たしてくれるのである。

 

  

『ドーターズ・オブ・ドラキュラ/吸血淫乱姉妹』(1974)

ホセ・ラモン・ララツ監督。光差し込む森の風景や陰影の効いた古城が大変魅力的である。またセックス・ショックシーンのアグレッシブぶりも忘れ難いものがあり、イメージとしての吸血鬼らしくなくナイフで男をめった刺しにして殺害するシーンには気合を感じるし、欲に燃えた淫乱吸血姉妹が男をほっぽり出して百合行為に励むというすっぽかしっぷりもツボ。一応のヒロインらしい女性が地下へ迷い込む場面は格子や地下通路などを捉えた撮影も良いし、序盤と終盤で血の付いた手が窓ガラスに張り付くという反復があるのも気が利いている。そして「ほら終わったよ、とっとと帰りな」とでも言いたげな放り投げ感のあるラストにも味わい深いものがあった。

ドーターズ・オブ・ドラキュラ 吸血淫乱姉妹 [DVD]

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『女っ気なし』(2013)

ギヨーム・ブラック監督。公開されてからずっと見るチャンスのなかった作品だが、この度めでたくDVDが発売された。ひと夏のバカンスを描いたこの作品にはまずロケーションの良さがあって、ロングショットでとらえられる海辺街の風景や、客としてやってきた母娘の泊まるアパートが面する路地、緑色のバルコニー。賑わってはいるけれども少し寂れていて、浮足立つというよりは、少し軽やかな休暇の雰囲気を感じさせてくれる光景が実に心地いい。そしてそこで繰り広げられるのは、いかにも女性に縁のなさそうな男の、もどかしい恋愛である。この男とひと夏の客である母娘との間に会話はそれほど多くはないけれども、やり取りの中に豊かな魅力がある。そしてこの交流をより豊かにしているのが編集の素晴らしさであって、これらの魅力が詰まっているのが、終盤、ついに明日帰るとなった夜に、娘が男の家を訪ねてくるシーンであろう。同じベッドに入り寄り添う二人の位置が朝になると逆転しており、そして娘は言葉なくそっと優しい光差し込む部屋から出ていく。男は彼女が出ていくと、さっきまで娘のいた枕元に頬をつけ、ささやかな感触を惜しむのである。実に簡素でありながら、描くこと、描かないことの選択によって、豊かとしかいいようのない画面を生み出しているのである。そしてまた、街から遠ざかるバスの中で寄り添う母娘の美しいショットで作品が終わっていることにも大変感動した。わずか58分の中に忘れ難い愛おしさが詰まった傑作。

ギヨーム・ブラック監督『女っ気なし』DVD

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というわけで以上が上半期に見た旧作のベストでした。このほかにもヒッチコック『見知らぬ乗客』における距離の変化と見ることの不気味な面白さ。ブレッソン少女ムシェットの淫靡な雰囲気。きちんと家が(溶けて!)沈むジャウム・コレット=セラ蝋人形の館の正しさ。DVDレンタル解禁となったキアロスタミ桜桃の味の道たち。船の到着と横移動に列車の到着と強風、桟橋や水辺と風に揺れる緑という画面の美しさが何よりも素晴らしいゴダールの決別』。編集の技に魅せられるワイズマン『肉』ルノワール素晴らしき放浪者のあまりの奔放で自由な魅力などなども忘れ難く、どれも素晴らしい作品だったと思います。

上半期はこのほかにもファスビンダーなど、今までなかなか見ることのできなかった作品のレンタルが解禁になったりと映画好きにとってはありがたいこともありました。今回は間に合いませんでしたがペドロ・コスタの『ホース・マネー』もその一つで、これからどんどんいろんな作品が簡単にみられるようになることを願うばかりですね。もちろん名画座にもまた行けるのであれば行ってみたいという気持ちもあるので、下半期には何とか金を作って旅行したいと思っております。