リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ランゴ』を見た。

カメレオン、自分色に染まる。

西部を舞台にしたCGアニメ。多くの映画ファンがどうでもいいと思ってたであろう『パイレーツシリーズ』のゴア・ヴァービンスキー監督とジョニー・デップコンビの作品ではありますが、本作はむしろ今まで非難してきた方々に愛されるような映画愛に溢れた映画となっていました。



水槽という狭い世界で人間に飼われ、役者ごっこばかりしている名前もないカメレオンがとある事故で灼熱のハイウェイに放り出されてしまう。そこでミステリアスなアルマジロから「一日あるけば町に着く」と教えられたカメレオンはとぼとぼと砂漠を歩き始める。するととある水不足の町にたどり着くのだが、そこでカメレオンは得意の演技と偶然により凄腕のガンマン、ランゴとして町の危機を救うハメになってしまう・・・というストーリー。



カメレオンを主役に置いた本作は異色に見えるけれども、中身はど真ん中西部劇であり、数々のオマージュや遊びを取り入れストレートに映画愛を示した映画である。そのオマージュの最たる例はSpirit of Westなわけだが、これは見てのお楽しみ。黄金の像を携えランゴに色々と(色んな意味で)意味深いアドバイスをくれる精霊さんの姿は必見。
また西部劇に限らず『地獄の黙示録』や『スターウォーズ』なの映画を引用したアクションシーンもあり、本作でも一番の視覚的な見せ場となっている。このシーンはCGならではのカメラとスピード感のあるド派手アクションとなっており、迫力ある映像を生み出している。ワルキューレがかかるのもなんだかバカバカしいが良し。
またなんとセルフパロディ的な部分もあり、例えばランゴが初めて外の世界へ出た後に見る夢の風景は『パイレーツ3』のジャック・スパロウが精神世界に迷い込んだシーンのようであった。銃弾一発だけというのもそういえば『パイレーツ1』にあったなぁ。



ジョニデ演じる主人公がカメレオンだと言うのはもちろん示唆的なものである。自分の名前を持たず、誰かを演じることばかりやっていたカメレオンは自分自身というものがない。たどり着いた町で演じたランゴというガンマンも理想の自分であり、それは決して自分自身ではない。この映画はアイデンティティに関する物語だ。

そんなランゴは英雄とは何かに関する問答をへて真の英雄となる。もちろん英雄になるとはいえランゴは特別何かできるわけではない。しかし、彼は町のため、人のために勇気を持つのだ。それが英雄になると言う事であり、「ランゴ」として生きると言う事となる。
生まれついての英雄はいない、ある時男は一線を超えて、真にそれを望んだ時、そうなれる。この映画はそういうメッセージで観客を勇気づけてくれるのだ。



何かリアルでグロいけど魅力的なキャラクター達、リアルで作り込まれた西部の風景映像、派手なアクション、そして音楽も素晴らしく、娯楽映画としても楽しめる、そしてメッセージもきちんと入れて作られてある。非常によくできた映画だと思います。『パイレーツ』の事は忘れて作家としての映画を楽しみましょう。

Rango

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