リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『捜査官X』を見た。

雲南省武侠
ピーター・チャン監督、ドニー・イェン金城武主演の中国映画です。現代は『武侠』ですが、日本では金城武をフィーチャーし『捜査官X』としたのでしょうね。



1917年、中国雲南省の小さな村である事件が起こった。二人組の強盗が両替商へ押し入ったのだが、村の紙職人ジンシー(ドニー・イェン)が必死に抵抗し、偶然撃退したのだ。しかし、町から来た捜査官シュウ(金城武)は疑問を抱いていた。退治された強盗のうち一人は武術の心得があり、一人は凶器を所持。そんな2人を相手に、なんと丸腰の村人は的確にこめかみのツボを打っていたのだ。シュウはジンシーを殺しのプロとにらみ調査を開始するが・・・というストーリー。



日本独自でつけられた邦題はどうにも困ったものが多いのですが、映画前半は確かに『捜査官X』という感じです。ジンシーに対し「こいつ武術の達人なんじゃね?」と疑いを持つシュウは、独自の捜査によりどんどんその疑いを強めていくのですが、その過程が愉快なんですね。
最初にジンシーと強盗が戦うシーンを私たちが見るとき、確かに彼が退治できたのはたまたまのように見える。しかし、シュウによる捜査の目を通してみたときには、それが武術の達人によるものに見えるんですね。襲撃の再現シーンはスローやCGなどが使かわれており、映像的に凝ったものになっていました。アクションが謎解きになっているというのも良いです。


愉快なのはその映像だけじゃありません。なにより面白いのはシュウの人間性です。確かに彼の推理の目を通すとジンシーは達人ということになります。しかし、この目はこじつけとも取れる、根拠に乏しい、かなり妄想的なものなんです。このうさんくささはちょっと『スリーピー・ホロウ』でジョニー・デップが演じた役を思い出します。鍼が何たらで神経が・・・などトンデモ科学感などですね。
また彼は「達人なら大丈夫」と言いながらジンシーを橋から突き落したり、その時にたまたま木の枝に支えられると「あの高さから落ちて枝が折れないはずはない。技を使ったんだ!」などと言い出す始末。かなり危ない人に見えてくるので「この人は信頼できる人なのか?」と混乱します。しまいには「達人ならよけられるはず・・・」と鎌で切りかかります。

シュウがジンシーにこだわるのは、過去に助けた少年に裏切られた経験があるからだった。そのことから彼は「法は情よりも重んじられるもの」という信念のもとに動いている。ジンシーがいくら善良な市民として今は暮していようと、過去に法を犯した人間だとしたら許してはならぬ。しかし、どこかで実は情を捨てきれないでもあるんですね。その結果自分の分身が見えているというホントに人格が分裂しているので困ったもんです。この狂っているのかまともなのかという曖昧さ、特異な操作方法など、本作は少し『MAD探偵』にも似ている部分があるように思いました。



しかしですよ、シュウという人物が妄想気味とはいえ、ジンシーを演じるのはあのドニー・イェンのアニキです。劇中のジンシーがどれだけ素朴で優しそうな、暴力嫌いの市民に見えたとしても、やっぱりあのドニーさんですからね。そりゃあこっちも武術の達人なんじゃないのかと思ってしまいますよ。



ここからネタバレ





さて、そんな前半とは打って変わり、後半はまさに原題通り『武狭』といった感じになっていく。田舎町で平穏に暮らしていた男が、実はかつて人殺しをしていた男であり、そのつながりを断ち切れないという西部劇ややくざ映画にあるような話になっていくんです。この映画はそれらによく見られる、相手からの暴力に耐え続けるんだけどついに・・・というパターンの亜流と言えるかも知れませんね。主人公にプレッシャーをかけるのが暴力ではなくミステリー(+かなり危ない人による妄想)であるというのが面白いです。



そしてジンシーが真の姿を覚醒させたとき、ついに本作はアクション映画へと変化する!ここからは「いよっ、待ってました!」という感じ。クララ・ウェイとの牛小屋でのバトルは素晴らしいアクションシーンだと思います。
そして大ボスにはジミー・ウォング。彼とジンシー一家が食事するシーンは緊張感があるいい場面でしたね。大声で叫ぶと家全体がガタガタ震えるのは笑えましたが。もちろんアクションも素晴らしく、『片腕ドラゴン』などで知られるジミー・ウォングへのリスペクトか、ジンシーも片腕を切り落としてのバトルですよ。これも素晴らしいです。片腕であの剣術とは恐るべしですよ。



しかしラスト、これがちょっと残念なんですね。やはり片手では勝てないと感じたのか、なんとジミー・ウォングは雷に打たれて死んでしまうんですね。これはちょっとポカーンでしたよ。
確かに、シュウがついに情に従って行動したことによりその結果がおとずれはしましたよ?でもさ、どうせ鍼を使うなら、それによって何か神経を弱らせるとかでいいじゃない。そこをジンシーがせめて協力プレイによって倒すとかさ。そうした方が燃えませんか?最後の最後は自然の力ってそりゃあないよと思いましたね僕は。



と、このような文句もありますが、ミステリーとアクションを融合させた面白い映画だとは思います。僕はこの映画かなり好きですね。特に金城武演じた人間的に分裂している胡散臭い捜査官というキャラクターが好きです。もちろんアクションは言わずもがなのかっこよさですので、見て損はない映画だと思いますよ。あとパンフレットがいろいろ詳しく書いてあってオススメです。

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