リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ミッション8ミニッツ』を見た。

はじめまして、さようなら

映画好きほど騙されると評判のSFサスペンス映画。監督は『月に囚われた男』が好評だったダンカン・ジョーンズ。余談ですが『月に〜』は本作のテーマと似通ってる部分があるのでそちらも見ておいて損はないでしょう。


ところで、ネタバレというのはどの映画でも非常に嫌われるものですよね。特にこの映画のように衝撃のラスト、と宣伝されるとさらに敏感になってしますね。どこまで書いていいのかと迷いますし、ちょっとだけ聞いたのでも怒る人もいるでしょう。
ただ、この映画どうしても触れたい部分がネタバレしないと言えないので今回の記事はネタばれ全開です。ただ、本作は正直ネタバレされると問題のある映画だとは思いません。なので鑑賞前に読んでも大丈夫でしょう。



シカゴで乗客全員が死亡する大規模な列車事故が発生。政府はこの事件の犯人を探るため、死亡した乗客の最後8分前の意識に入り込むというミッションを実行。この作戦に選ばれたスティーブンス大尉は何度も8分間を繰り返すことになるのだが・・・というストーリー。



本作はよくいわれているように確かに『恋はデジャヴ』と似ている部分がある。何度も同じ時間を繰り返すうちに同じ空間を共有する全く無関係の人物さえも愛おしく思えてくる主人公という点は同じだろう。
ただ本作ではどれだけ想っても8分を過ぎたら彼らは必ず死んでしまうというのが悲劇的であり、美しい。どれだけ彼らの事を愛おしく思ったとしても救うことはかなわない。起こってしまった事故は避けられない。この点がすごく僕は好きです。残酷な運命だけれども、とても切なくて心を打つのです。

ティーブンスはそんな彼らのために、そして自分のためにこの8分間を生きることを決意する。もしこの瞬間で人生が終わってしまうとしても、それでも最期の瞬間を幸せにしてあげたい。それまでどんな人生を歩んでいたとしても、このときだけは。そのために自分はやる。「僕をもう1度送り込んでくれ」。この決意は非常に感動的でした。



ティーブンスの計らいにより人生最後の美しい一瞬を迎えた乗客たち。最期の8分間が終わる・・・。ああ、この一瞬に僕はひたすら感動していた。このまま幕が閉じる・・・と思いきやである。8分を過ぎても彼らの人生は続いていく。

え?どういうこと?

そう思っているとなんとそこから並行世界なるSF嗜好に物語は振れていくのだ。折角感情が最大の盛り上がりを見せていたところだったのに突然トンデモ(というと元から無茶な話なのであれなんだどさ)方向に向かっていく。

こうなるとそれまでは特に何も思っていなかった「それってどうなの?」という部分が妙に目についてくる。

例えば、スティーブンスはショーン・フェントレスという男の意識に入り込み8分を繰り返してた。そこではショーンとして生きているし、死ぬものショーンである。しかし、そのまま生き続けるとなるとどうなるのだ。ショーンはその世界に存在しないという事になってしまう。彼の精神はすり替わったままだ。
ショーンとして生きる方もそれはそれで相当だろう。これからの生活どうするつもりなんだ?軍人が社会の教師として生活できるか?いろいろ疑問がわいてきて彼が生きていても素直に喜べなかった。
またショーンと共にいた女性、クリスティーナとの関係も微妙だ。もし彼らが劇中の雰囲気のまま恋人関係になったとしてもそれは言ってしまえば騙しである。スティーブンスはクリスティーナに恋心を抱いたかもしれない。しかしクリスティーナはどうか。ここは引っかかる。もともと彼女はショーンに惹かれていたのではないか。



先程書いたように僕がこの物語で感動したのは死ぬとわかっていても、それでも立ち向かっていく姿なのであって、そこで並行世界なんて方法で変に人物が救われるとその感動が薄れてしまうのです。だからこの部分は本当蛇足だと感じました。



とはいえ、おおむねこの映画には満足です。というか最後さえなければホントの傑作だったのではないでしょうか。緊張感のあるすばらしいサスペンス映画であり、感動的な人間ドラマであることは間違いないので是非見てほしいですね。まぁSFとしては良くわかないけどね。世界構築の理論とか。

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