リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『アーティスト』を見た。

その思いを抱きしめて
今年のアカデミー賞において作品賞・監督賞・主演男優賞など5部門を受賞したフランス映画です。サイレントであるということも話題になりましたね。



1927年、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)は映画スターとして輝かしい日々を送っていた。新作も大ヒットで、舞台挨拶後、彼の周りには大勢の女性ファンがとりまいていた。その中には女優を目指すペピー(ベレニス・ベジョ)の姿もあった。後日、ペピーは持ち前のキュートさでジョージの映画にエキストラとして出演を決める。惹かれあう二人であったが、時代はサイレントからトーキーへと移行していき・・・というストーリー。



さて、サイレント映画であると聞いてはいましたが、実際に見るとやはり驚かされますね。いつも劇場で見ているものとの違いに初めは戸惑いました。画面のサイズも違っていますしね。でも映像自体はクリアで、やはり<今の映画>であるという感じもします。これは面白い感覚でしたね。
そして<空白の多さ>というのも見ていて強く感じたところです。登場人物の声が聞こえることはなく、言葉はときおり字幕が挿入されるだけ。なので字幕のないところは観客の想像によるんですね。想像を掻き立てる余地が大きい。でも映画の内容が理解できないなんてことはないように演技や音楽、そして演出でしっかり見せるんですね。そこが魅力的なんです。



この映画を見ていると、ジョージがトーキーに対し「こんなものに未来はないよ」といった気持ちもわかる気がします。当時からすると言葉を使うなどは芸術性を削ぐものだと考えられたのでしょう。僕はあまりサイレントを見ませんが、確かに現在の説明が過ぎる映画など見ているとジョージの懸念したことも少し理解できます。

ただ、ただのサイレント万歳とはならない。本作では現代の技術も使われていますし、今だからできる非常に効果的な仕掛けもあります。サイレントの魅力を伝えながら、しっかり現代の娯楽にもしようとしているんです。これがいいですね。「昔は良かった」とか言うジジババのための慰み物じゃない。むしろこの手法は新しい可能性かもしれない。



さて、サイレントからトーキーへの移行を描いた作品といえば『雨に唄えば』や『サンセット大通り』などを思い出します。どちらも映画史に残る傑作ですが、描かれ手いるモノは大部違う。本作のジョージはトーキーへの変化により落ちぶれていく側です。これは『サンセット大通り』のように忘れられた側の物語になんですね。コレが僕は好きなんですよ。『雨に唄えば』はそっち側は悪として描かれていて可哀想に感じるんです。だから嫌いなんですよね。『雨に唄えば』。
そして、落ちぶれたジョージが最後にすがったあるもの。これには泣かされました。正直ロマンス要素はさほど感動しなかったのだけど、彼が抱きしめた過去。名誉とか地位とかではなく、あの喜び、あの幸せ。そして最後には再びそれを手に入れ、解き放たれるその瞬間。是非これを見てほしいですね。



というわけで、作品賞も納得のいい映画でしたよ。サイレントだからといって古くさくならず、新しさが見れるのも素晴らしい。また、ジャン・デュジャルダンの演技も素晴らしく、非常に魅力的な人物を作り上げたと思います。物語は意外性もなく単純なので物足りないという人もいるかもしれませんが、個人的には心に来るものがあったので満足。男と女のロマンス、という点において違和感を感じる部分(元妻とか)もあったので100点満点、というわけではありませんが、映画好きなら必見です。サイレント映画を見たことない人でも見てみる価値はあると思います。



ちなみに、余談ですがこの映画ほんの少しだけマルコム・マクダウェルが出ているんですね。これまさか「雨に唄えば」繋がりということは・・・ないよね。

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