リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ヒューゴの不思議な発明』を見た。

愛・おぼえていますか
スコセッシの新作です。もう1か月近く前に見たんですけどね。ただ2Dでの鑑賞だったため、感想は3Dでも見てから、と思っていたらもう公開終了ですって。
なぜ3Dでも見ようかと思ったかって、その理由はこの映画が非常に3Dを意識したつくりになっいたからです。冒頭、俯瞰でパリの街を見せそこからカメラはぐんぐんと駅構内へ。そして狭く複雑な構造をした時計台の中を少年とともに駆けていく。もうそこから「あーこれ3Dでみると興奮するんだろうなあああああ」なんて思いつつ、2Dで見た自分を罵倒ですよ。



さて、物語のほうですが、これは映画に魅せられた人たちのいろいろな姿について描いている作品だと思います。初めて映画を体験する瞬間。成長して映画ファンとなった姿。そして次の世代に映画の素晴らしさを伝えていこうという未来への姿勢です。ここにはシネフィルだといわれるスコセッシ自身の映画人生、ひいては映画に魅せられる私たち自身も詰まっているのではないか。


少年たちが忍び込んだ劇場で体験する感動。興奮。それは私たちもかつて映画を見て味わったことのある、あの永遠の瞬間と同じものです。スクリーンに映し出された物語の中へ引き込まれる感覚。一生忘れられないその時のことを、僕はこの映画を見て思い出しました。
途中登場する評論家は、そうやって映画に魅せられた少年が成長して映画好きとなった姿にも思えます。死んだと思っていたメリエスに会えた彼は「あなたが生きていてよかった」や「あなたにお礼を言いたかった」ということを言います。これは映画ファンならだれもが持っている感覚なのではないか。やっぱり僕も言いたいですもん。一言でもお礼を。スコセッシはそれを自分の映画の中でやっちゃったということですね。これは感動的でした。
そしてこの映画の最後では、映画のマジックが世代を超えて受け継がれていく様子を描写している。これが本作のいいところですね。映画愛が狭い世界で閉じていない。未来への広がりを見せているんですね。ここに、どんなことがあっても映画が起こすマジックは消えないんだ、というメッセージを感じました。映画を愛し、その力を信じているであろうスコセッシらしいといえるメッセージでしょう。



今でも多くの古い映画がDVDにもならず、若い人には見られることなく忘れ去られてしまっている作品がある。しかし、その中には今に通じる技術を作り上げた作品もあると思います。そういう作品を、そこに携わった人を忘れてはいけない。本作はそういった全ての映画への愛と敬意にもあふれていましたね。この作品を見た映画関係者皆さんにはできるだけ早くそういった作品を復刻させるべきだと思ってほしいものです。



またスコセッシが偉いのはそれを懐古趣味で魅せるのではなく、CGや、(僕は見れませんでしたが)3Dといった新しい技術を使って見せている点です。映画は何より見世物であり、技術の発達によってそれぞれの時代の人々を驚かせてきました。その始まりこそメリエスで、彼は特殊な技術を使うことで映画の可能性を広げたのです。スコセッシはそこに敬意を表し、特殊な技術を用いて私たちを驚かせ、同時に映画史を振り返るという事をしたのです。



というわけで本作の映画愛の部分にはやられてしまいましたが、ポスター等から受ける<少年の冒険物語>的な部分はかなり薄い感じはします。というか正直うまくいってないと思う。結構最初の段階で父親云々の話がどうでもよくなってきちゃったし、もともと冒険譚の部分は期待してなかったとはいえ、映画愛を現した部分と溶け合ってない具合もさすがに引っかかりました。サシャ・バロン・コーエンのキャラクターは良かったけどね。ああいうコンプレックスから孤独を抱え込んじゃった人の話、個人的に好みなんです。でも全体のバランスとしてみると微妙かもしれません。



とはいえメッセージには泣かされましたし、いいところ、好きになっちゃう部分の多い映画であるのは間違いなく、大変楽しみました。こんな物語をファミリー映画として大規模に製作したことにも驚きですしね。スコセッシといえば暴力映画だよ・・・とも思うかもしれませんが、ある意味では非常にスコセッシらしい作品だったとも思います。映画好きなら間違いなくお勧めな一本でした。
しかしジョルジュ・メリエスという『月世界旅行』で初めてSF映画というものを作った人の映画が、技術系ではアカデミー賞において多くの賞を受賞したにも関わらず、作品賞は取れなかったというのは面白いですね。アカデミー賞の長い歴史の中で、いまだにSF映画は作品賞に輝いてはいないですから。そんなことにも思いを馳せましたね。ではでは。

ユゴーの不思議な発明(文庫) (アスペクト文庫)

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