リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『パラノーマン ブライス・ホローの謎』を見た。

声なき声を聴いて
コララインとボタンの魔女』で知られるライカスタジオ制作による3Dストップ・モーション・アニメ。アカデミー賞では長編アニメーション部門にノミネートされていました。監督はサム・フェル&クリス・バトラー。


魔女狩り伝説の残る町・ブライスホロー。ここに住む内気な少年ノーマン(コディ・スミット=マクフィー)は、生まれつき死者が見える能力を持っており、そのために周囲から奇異の目で見られ、家族からは煙たがられ、学校ではいじめられていた。ある日、ノーマンは幽霊になった親戚の叔父(ジョン・グッドマン)から、魔女の呪いからこの町を救ってほしいと頼まれる。実はノーマンの家系は、代々幽霊と話せる者が魔女の呪いにより蘇える悪霊を鎮めるため、ある儀式を行っていたのだ。言われた通りに儀式を行おうとするノーマンだが、そこで思い余もよらない真実を知ることになる・・・

凄いクオリティの映像にまず驚かされます。とにかく動きがなめらかなんですね。キャラクターの動き、表情、アクションシーンなど、カクカク感の全くない映像に仕上がっており、スタッフの苦労を創造するだに恐ろしい映像なんですね。とくに群衆シーンなんかいったいどれほどの苦労が・・・。
「じゃあCGアニメでやればいいじゃん」という意見もあるかもしれません。実際細かいところでCGも使っているみたいですしね。しかしこの映画、人形を使っているという事によるぬくもりみたいなものを感じる(気がする)ことができるのですね。それと画面の歪み感。つまりは画の雰囲気づくりという点でも、やはりこの手法だからこその感じは出ていたのではないでしょうか。
そして何と言ってもラスト付近の、ある対決とその終結。このシーンは圧巻の映像美です。これはもう言葉では言い切れない、恐ろしさと美しさと哀しさの交じりあった素晴らしい映像でした。もちろん、そこで語られていること含めての素晴らしさではありますが、ホントに凄まじいものがあります。この部分だけでも十分に見る価値はある、名シーンですね。



さて、そんなアニメの凄さもさることながら、お話の部分。これがまた良くできている。特に中盤以降、魔女伝説の裏に隠された真実が明かされていく展開には唸ります。人間、魔女、悪霊(ゾンビ)、民衆、こういった登場人物たちの立場が次々に逆転していくことで、本作はそのテーマを明らかにしていく。
本作は「人と違う事」について描いた映画だと言えるでしょう。ノーマンはじめ、本作には「人と違うから」という理由で酷い目に遭っている人物が登場します。違いは恐怖を生み、偏見を生み、差別を生み・・・。本作はこういった「差別が発生するプロセス」というものや群集心理をしっかり描いているのです。そうすることによって、この悲劇が<遠い昔の、魔女狩りという特殊な状況下で起こったこと>ではなく、<今も身の回りで起こること>としているのです。これは現代の日本においても他人ごとではありません。善良な市民こそ、もっとも恐ろしくもなりえるのです。



本作ではこの問題に対して非常にまっすぐで感動的なメッセージを発してます。それが先ほど書いたラスト付近の凄まじい映像の部分で語られるわけですが、もうボロ泣きですよね。
ノーマンは未練を残して亡くなった人の声を聴くことができます。また、人の痛みに対しても敏感に反応できる優しい人。彼は声なき声を聴くことができる人なのです。人とは違うからと避けられてきた少年。そんな彼だからこその方法で立ち向かって行くラストが非常に感動的です。
いやほんとに素晴らしい映画だと思います。でもですよ、僕はこの部分に対してちょっと思ったことがありました。
重いテーマを扱っているとはいえ、本作は子供向けの作品です。なのでラストで語られるような真摯で真っ当なメッセージを発するのは当然のことだし、全く正しいと思います。でも、僕なんかは「映画って大人だよなあ」と思ってしまうのです。つまり僕だったら本作のような大人な決断はできないというか、「皆殺しだぞコラァ!!」くらいに思っちゃうんですね。
本作は明らかに『サイレントヒル』の影響を受けています。製作者もある程度『サイレントヒル』ありきみたいな部分があるようなので(ある人物のキャスティングがまんま)間違いないと思いますが、あの映画のラストの方が、僕にとっての正直なんですよね。
もちろん、だから良くない、面白くなかったというわけではありません。むしろそんな風に思っているからこそ、ラストはかなり響くものがありました。でも、そんな感じのお話であることに加え、ホラーテイストではあるものの、中身はいたって健全で、『コラライン』のような狂気もない(これを作った人たちには狂気じみた努力があるとは思いますが)。この大人な感じに、ちょっと僕は反発を感じてしまったのも確かなのです。



若干キャラクターの行動に説得力が乏しい部分もなくはない気もします。特にノーマンの姉の行動ですね。あれで満足できないことはないけど、もうちょっと描いてほしかった。ただ、それを差し引いても必見の作品であるのは間違いありません。最初に書いたように非常に恵まれない公開状況ですが、それは本当にもったいない。感動的なだけではなく、悪意を感じるギャグや、ホラーテイストの画面、オマージュなどなども楽しめる、とてもいい映画でした。声優が豪華なところもおすすめ。