リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『LOOPER』を見た。

時をかけるハゲ

話題のタイムトラベル型SF映画です。いやぁしかし、タイムトラベルは人気ジャンルですね。映画に限らず、絶えず制作されているような気がします。主演はジョセフ・ゴードン=レヴィットブルース・ウィリス。監督は長編3作目のライアン・ジョンソン


西暦2074年。開発こそされたものの、その危険性ゆえ使用が禁じられていたタイムマシンは、密かに犯罪組織によって悪用されていた。2074年では犯罪を犯しても簡単に足がつくため、犯罪組織はタイムマシンを使い、殺したい人間を30年前の過去へ送り、ルーパーと呼ばれる殺し屋に処分させていた。ルーパーの一人であるジョー(演じるのはジョセフ・ゴードン=レヴィット。以下ヤング・ジョー)はある日、いつものようにターゲットの殺害の準備に取り掛かる。しかし、彼の目の前に送られてきたのは30年後の自分(演じるのはブルース・ウィリス。以下オールド・ジョー)だった。戸惑うヤング・ジョーの一瞬を突き逃げ出すオールド・ジョー。彼を殺さないと組織に殺されてしまうヤング・ジョーは必死に後を追うが・・・

未来の俺を殺さなければ、今の俺が殺されてしまう!という設定がなにより光ります。タイムトラベル物は数多くあれど、この展開は(クローンとかを除けば)僕は見たことなかったかなあと。それにヤング・ジョーを演じるのが『(500)日のサマー』でおなじみジョセフ・ゴードンレ=ヴィット(以下JGL)だというのに対し、未来から来るオールド・ジョーはザ・不死身の男、ブルース・ウィリスだというのも面白いですね。勝ち目ねぇ!そしてさすがブルース・ウィリスが演じていると、どれだけ化け物級の強さでもなんとなく納得です。
ちなみに、このヤング・ジョーがいかにしてオールド・ジョーになっていくかというのを描いたシーンがあるのですが、ここのハゲ進行過程がひどくて。ちょっと後退したなーと思ってると、次のシーンでは急にハゲ散らかしてるんですよ。ロン毛という事も相まって、ちょっともう悪ふざけか!ってくらいのハゲでしたよ。こりゃ演じたブルース・ウィリスも大したもんです。もし自分がハゲたとしても、彼のように自分で笑いにできるくらいの男でいたいんものですな。



さて、ハゲハゲ言っていてもしょうがないので映画についてもうちょっと感想を。僕はこの映画特に前半良いなと思う部分がたくさんありましたね。まずはオープニング。白いシーツの敷かれた野原という「何かな?」と思う光景の中、ルーパーの仕事である「処刑」が突然行われるんですね。この演出は斬新でした。そしてタイトル。このタイトルがまた異様に不吉な感じで、ホラーかと思うくらいでした。
それと僕がこの映画で一番感心したのは「同一時間上にいる未来の自分と過去の自分との関係性」を描いているシーンです。それはポール・ダノ演じるルーパーが、処刑すべき未来の自分を取り逃してしまった際に非常に恐ろしい形で描かれます。
その未来から来た男は逃げている途中、自分の体に突如蚯蚓腫れができ、さらにそれが「○○へ来い」と書かれていることに気づく。すると次には指が一本、二本となくなってゆき、ついには鼻、そして足まで消えてしまう。そして彼が蚯蚓腫れで指定された場所へ行くと、そこでは現代の自分が拷問により体のほとんどを失っていた・・・。つまり現代での行動は、未来の自分にそのまま直結するということですね。それをこのような、非常に残酷、しかし直接は映さないスマートな方法で描くとは。これはかなり変わった、しかし拷問シーンに名を残す名場面かと。



そういった強烈な色を見せながらも、基本SFアクションとして進んでいく本作ですが、後半になるとそれはガラッと様相を変える。そして『ルーパー』というタイトルが、様々な意味を含んだものだということもわかっていくのです。ここから先はネタバレです。



前半、ヤング・ジョーの生活は同じことの繰り返しであるということが説明されています。人を殺しては酒を飲み、薬をキメ、娼婦を買う。貯まりに貯まった金は使い道もなくただ保管されてあるだけの、孤独な男だ。そんな彼がある親子と出会うことにより、変わっていく。そして彼は、その怠惰な繰り返しの生活から抜け出す決断をするのだ。そしてその行動がもっと大きな、憎しみや復讐の輪を抜け出すという事にも繋がってゆく。ルーパーとは単に仕事の名称というだけでなく、このように2重3重の意味を持ってると思います。

そのジョーの決断、それは彼が母親に捨てられた子であるということが原因になっている。彼は母を奪われる事の意味を知っていた。また、彼が心を通わせようとする女性が皆子持ちで、しかもシングルマザーであるという点も興味深い。孤独な生き方をしている彼こそ、実は最も愛を必要としている人間だ。髪を撫でてもらうという行為なんて母の愛を求める子供そのものという感じがします。そしてそんな彼だからこそ、親子の愛に触れることで変わることができ、あの決断ができたのでしょう。
そして本作で最も悲劇的なのはオールド・ジョーだろう。彼の生きて来た人生のほとんどは、孤独と憎しみの人生といえないか。確かに少しの癒しはあった。しかし結局再び燃えるような憎しみの中で、彼はタイムトラベルしてきた。ヤング・ジョーは彼なりの答えを見つけたが、子供まで殺し、自責の念に駆られながらも妻を守ろうとした、オールド・ジョーはどうだろう。



ところで、不満点もこの映画いくつかあります。まずは前半の未来社会設定。せっかく2044年という設定なのに、未来的ガジェットやビジュアルがあんまり登場しないのは寂しいですね。まぁあの未来社会は格差が拡大したディストピア的世界なので、最下層にいる人間は恩恵を受けず、あんな感じなのかもしれません。しかしこれなら現代の話でも問題なかったのではないでしょうか。社会の崩壊具合もしょっぱい感じだしね。
それと、将来はアメリカに変わり中国が覇権を取るというのを描きたいなら、別にそれでもいいんですよ。でもそれならヤング・ジョーがフランス語を勉強している設定は削ってもよかったですよね。回収しないし。
いくつかの場所で指摘されている「未来では人を殺せないはずなのに、ジョーの妻は殺された」という問題ですが、たしか未来では「殺せない」のではなくて「体内に埋め込まれたナノマシンの追跡機能により、殺したらすぐに足がつく」んですよね。だから殺せはすると。ただ、ナノマシンが埋め込まれているなら、タイムマシンで人を飛ばした場合いきなり反応が消えるという事になり調査されるはずなので、ちょっとそこはおかしいかも。
でですね、実は僕が一番好きじゃなかったのは後半部なんですよ。たしかに、脚本はうまいのだと思います。ジョーのトラウマや人とのコミュニケーション、暴力や憎しみの連鎖と言う問題などをまとめ上げたその腕は素晴らしいのでしょう。ただ、TK能力のあたりがどうもノレなくなっちゃって。ハードなSFアクションの方が見たかった・・・。しかしそれはいいとしてもラスト、あの大の大人がプカプカと浮いている画はダサいでしょ。あとはこの『シェーン』的というか、このタイプの西部劇とかの型に僕はそこまで感動しないのかもしれませんね。まぁこれは趣味の問題です。



とはいえ、急にハッとする残酷描写があったり、面白い仕掛けのある映画で見応えは十分にあります。イロイロな映画を思い起こさせるのも面白く、僕はやはり『AKIRA』あと『ターミネーター』の、特に2ですね。「チップはまだ残ってる」的なね。それにワンカット『トゥモロー・ワールド』みたいなのもあったし。それに実は『オーメン』とか。また先ほど書いたように『シェーン』などですね。とまあこのように、様々な要素の入った楽しい映画なんですよ。良く考えればつじつまの合わないところもあるかもしれないけど、うまい脚本だと思いますよ。一見の価値はあると思います。あとエミリー・ブラントがやたらエロいシーンが素晴らしい。必見です。