リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『脳男』を見た。

キング・クリムゾンッ!「結果」だけが残る!

首藤瓜於によって書かれた同名小説の映画化作品。原作は江戸川乱歩賞を受賞した作品なんですってね。監督は『はやぶさ 遥かなる帰還』などの滝本智行。タイトルである脳男を演じるのは生田斗真

東京都内で爆弾を使った殺人事件が多発。刑事の茶屋(江口洋介)はわずかな証拠から犯人と思われる人物のアジトを突き止めるが、そこには誰かが逃走した形跡と、鈴木一郎(生田斗真)と名乗る奇妙な男がいるだけであった。鈴木は犯人グループの一人とみなされ逮捕されてしまう。その後、精神科医・鷲谷(松雪泰子)による精神鑑定の結果鈴木は並外れた知力、体力を持ち、更に感情がない人間であるという事が判明。そして茶屋と鷲谷は調査により、鈴木一郎は共犯ではなく真犯人である緑川(二階堂ふみ)を殺そうとしていたことが判明するが・・・

一言で感想を言うと、つまらなくはないが面白くもない。と言う感じです。全体の印象としてはうっすーい『ダークナイト』とか『羊たちの沈黙』って感じですかね。あ、もしかしたら『ターミネーター2』もあるかも。
そしてビックリしたのは、見た直後にも関わらず何も残ってないんですよ。こんな映画は久しぶりですね。面白くもつまらなくもないし、見た直後なのに全然印象がないってのはなかなかないことです。ホント、キング・クリムゾン(スタンド)(byジョジョの奇妙な冒険)で映画を見ていた時間を消し飛はじたような、そんな映画でした。
こういうと酷い映画に聞こえますが、いいところもあるんです。というわけでがんばって思い出しつつ、まずはこの映画の良かったところから書いていきたいと思います。



※ネタバレ


・役者が頑張ってた
感情がないキャラクター、鈴木一郎(a.k.a脳男)を演じた生田斗真は相当な役の作りこみようでした。肉体は無駄がなく鍛えられていたし、感情がないという事を表現するため劇中一切瞬きしないのですが、まあご苦労様です。アクションのキレも良かったし、ちょっと現実離れした美しさがまた作品に合ってたのかなと。ホント、いい素材です。二階堂ふみ演じる爆弾魔も、むちゃな要求によく答えたなぁという感じです。



・前半はワクワクした。犯人が爆弾魔ということもあり、爆発描写はなかなか良かったと思う。邦画にしては、という言い訳付きではあるけど、犯人のアジト襲撃時など、インパクトのある映像が楽しめたと思う。それと逮捕された鈴木一郎が留置所でゲスい犯罪者の目玉をくりぬくシーンなどのアクションはなかなかわくわくさせてくれるものではあった。ちなみに、この展開って『羊たちの沈黙』のレクターが隣の檻にいた奴にすることとと似てないですかね。



と、良いところは大体このくらいでしょうか。では次にどうかな思ったところですがまずは・・・

・キャラクター描写脳男というキャラクターはその名前の馬鹿っぽさは置いといても、面白い設定ではあると思います。でもせっかく生み出したキャラクターを活かせてないんですよ。簡単に言うと彼は感情の無いロボット野郎なわけですが、その頭の良さが劇中で発揮されるのは「病院の地図を一目ですべて覚えた」ということくらいなんですよね。しかもそれもそんなに意味はないし。天才、という設定に作り手が追い付いてない感じがあります。
また問題なのは、せっかく生田斗真がこれだけ体仕上げてアクションも頑張ってる感じなのに、後半にあんまりアクションシーンがないということ。最後なんてただ車に轢かれまくるだけだしなぁ。江口洋介との格闘シーンも暗いところでやっているのでどうにも盛り上がらない。せっかくなんだから『アジョシ』のウォンビンばりに暴れるシーンが後半に欲しかったですね。あとスゲェ殺人マシーンという設定なんだから江口洋介とかはとっとと立てなくするような攻撃を加えるべきではないかな。反撃とかさせちゃダメじゃない?
あとこういうキャラクターは過去のエピソード、なぜ殺人マシーンになったのか、というのは描かない方が良いでのは?脳男に対して感情移入させようという作用は分かりますが、むしろありえなさが際立ってしまったように思う。ジョーカーもレクターも、その辺は謎のままだったでしょうよ。それに、そのほうがラストで彼が起こす殺人も納得できたかなと。
あ、それと先ほど<良いところ>で書いた「瞬きをしない」と言う件ですが、その頑張りは評価するけど感情がない=瞬きをしないっておかしくない?脳男は痛みを感じないという特徴もありますが、瞬きしないってそういう問題じゃないから。ドライアイとかいろいろ大変よ?それと首をかしげる仕草も安っぽいなと思いました。
二階堂ふみももったいないですね。せっかくの熱演も、キャラの描きの甘さのせいで馬鹿馬鹿しくなっている。一言で言えば<異常者のテンプレ>というようなキャラなんですね。こういう安っぽい役は見飽きました。またあまりにリアリティがなくて、これまた白ける。こういうキャラクターだからこそリアリティを持って描かないと嘘くさくなってしまうのに、そこがしっかりしていないのはダメでしょう。どうやってあんなに爆弾作ったの?その大量の爆弾をどうやって運んだの?どうやって大人の女性を結構な距離運んだの?など、疑問は尽きない。レズっ気のある相棒(『ブレードランナー』のプリスみたい)の描写も面白味はなかった。
ところで、この映画二階堂ふみがその相棒や松雪泰子とレズっぽいシーンになると「ゴホゴホ」とせき込みやがるのはムカつきますね。子供向けアニメか!ちょっといい雰囲気になると咳き込むアレか!ハッと我に返って赤面するのか!そんなんなら最初から入れるなよ!
松雪泰子江口洋介に関してもテンプレとしか言いようがない。善意を信じるお人よしな女医と、男気溢れるアツい刑事(デカと読もう)。もうご勝手に。



・展開がタルい前半は面白かったのですが、それ以外は全部かったるいです。まず収容された鈴木一郎が一体どういう人間なのか登場人物は結構長い間分からないままですが、観客は真犯人が彼ではないこと、彼が悪を殺そうとしてることはもうわかっています。なので彼に対して取り調べにいくら不穏な空気を漂わせても観客は怖さを感じないし、ドラマもなかなか進まないので、だんだん退屈してくるんですよね。まぁ、伏線ではあるんですが、例えば彼が収容されるところから始めて、回想形式で語るとかにしたらどうでしょうか。
中盤、彼の正体を調べるため、松雪は彼のかつての担当医と実家を訪ねます。過去のエピソードはいらないと思いますが、入れるなら入れるでここももうちょっとスマートに語れたのではないかと僕は思います。例えば担当医と体力づくりのトレーラーは統合すべきですね。わざわざ別の人間にして語らせる意味がないですし、時間の短縮にもなる。それと江口洋介とその後輩。彼らの話が結構な間ほったらかしになっているのも気になる。どうにかして彼らで鈴木の捜査をする、そしてそこでもうちょっとこの2人の関係性を描けなかったものか。
そして後半はなんだかグダグダ説教みたいなものが始まったり、感動的な雰囲気になってしまうのがこれまた残念。ダメな邦画レベルのお涙ちょうだいではないし、本当のラストは結構苦い物だったりもしますが、その場はやはり若干白けてしまいましたね。



・演出が微妙撮影は悪くないと思います。というか、ダメ邦画にありがちな安っぽい画になってないところは、十分良いところだとは思うんですよ。ただどうかと思う部分もありまして。まずは冒頭のバスが爆発するところの長回しですが、これはバスを常にカメラに入れておかないとだめでしょう。
次に暴力シーン。これはまぁ、収益に影響しない範囲で何とかやった、程度の評価しかできません。起こっていることはハードですが、だいたいはカメラ引いたりして直接映さないんですよね。その上『ダークナイト』のジョーカーのように戦慄させることもないので怖くない。しかし先ほどの二階堂ふみのキャラクターやこの暴力描写などの点から考えるとやはり『悪の教典』はなかなか優れた映画だったんだなあと思い直しますね。
あと演出っていうか、エンドロールでキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」がかかるんですが、いや、カッコいいよ?でもそれは曲がカッコいいだけで、映画としての魅力になってないんですよ。それにそれまでの映画のテンションとも違い過ぎててどうも・・・。



というわけで、いいところを悪いところが蝕んでいるという、非常に残念な、惜しい映画だと思います。<正義とは何か>と言う問いかけ、ラストにある松雪泰子の戦いの決着など、考えるのが面白い要素はあるのに、映画自体が楽しくないから考える気にならない。映画のテーマの部分も、結局そのような形で浸食されてしまっているのですね。もったいない。
オススメはしませんが、あえて言うなら生田斗真ファンは肉体美も楽しめるし良いかもしれません。あとは松雪泰子の口から「私とセックスしたいですか?」「マスターベーションはしますか?」と言う言葉を聞きたい人にはお勧め。

脳男 (講談社文庫)

脳男 (講談社文庫)