リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『カレ・ブラン』を見た。

食人映画最前線
このブログではまず紹介することのないフランス映画ですが、ディストピア映画という事でしたので東京遠征ついでに見てきました。ディストピア、良いですよね。THE悪夢って感じで。監督はこれが長編デビューとなるジャン=バティスト・レオネッティ。


思考も感情も統制され、プロパガンダのような放送が延々流れる社会。人類は「社畜」と「家畜」に分けられ、テストで不合格となった「家畜」は始末され、「カレ・ブラン」という食物に加工されていた。「組織」の管理職に就いているフィリップ(サミ・ブアジラ)は、幼いころの記憶から心を隠し、「社畜」として、妻のマリーと(ジュリー・ガイエ)と共に不自由のない暮らしをしていた。しかし、マリーはこの社会に疑問を持たない夫に対して不信感を募らせていた・・・

即物的な暴力が非常にイヤーな感じで面白かったです。袋に入った男をめっためたに棒で殴るところとか(↑の画像)人をボコボコ蹴ったりだとかですね。まー気分悪くなるように撮られているんですよ。暴力による爽快感とか全くないんですね。
その他にも嫌な気分にさせるシーンはたくさんあってですね。例えばタイトルになっている「カレ・ブラン」とは人肉を加工した食品の名前なのですが、これが『ソイレント・グリーン』のような感じではなく、皆実体を承知の上でパクパク食べているんですね。ただ、「カレ・ブラン」は目印となるマークがついているので、みんながみんな無理して食べる必要もない。なので食べる人は「俺たち人肉派!」ってことですね。むしゃむしゃとカレ・ブレンを食べてるシーンの気持ち悪さは『未来世紀ブラジル』の食事シーンに近い不快感があると思います。
理不尽な試験を受けさせているシーンも暴力的でした。電流の流れる棒を握り続けさせるテストとか(被験者はショック死)、背中を壁にくっつけた状態で「そのまま後ろに下がってみろ」というテストなどですね。ここは<逆らえないことを武器にして無理なことを強いる>みたいな感じで、精神的な暴力を振るわれているような感じでした。
それとですね、駐車場にいるおじさん。この人は車が来るたびに、機械の指示するタイミングで笑顔を作るのですが、なんかこれがイヤなんですよ。笑顔が不気味に見えてくる。この人は上の立場の人とは話すことも基本許されず、勤務中はとにかく機械の指示通りに動かなければならない。作品内に管理社会であることを示す要素はいくつかありますが、このにっこりおじさんはいや〜な感じでしたね。



さっきから嫌な気分になる部分ばっかり書いていますが、仕方ないんですよ。だってそういう映画なんだもん。もちろん、嫌がらせをするだけの映画ではなくテーマはありますよ。本作の舞台は近未来ですが、現代社会に置き換えられるように作ってあります。
この映画に出てくる人たちのほとんどは「これが社会のルールだから」と、なんとなく制度に従ってます。しかし、そういった中で「これは間違っている」と言えるかどうか。それが本作の描こうとしているものです。また監督が「これはラブストーリーです」と語っているように、本作は恐ろしいディストピアものでありながら骨格にあるのは関係の冷めきった夫婦が愛を取り戻す話です。



ただ、僕個人はそのラブストーリーの部分はさほど惹かれなくてですね。なによりこの映画、かなり不親切なんですね。突然回想がフッと挿入されたり、画面に出てくるものについて全く説明がなかったりします。それだけならまだいいんですが、映画全体のタッチが非常にそっけなくて(ちょっとハネケを思わせる感じ)、エモーションが掻き立てられないんですね。正直全く肌に合いませんでした。なので本作を恋愛映画たらしめている、前半と呼応したラストでもあまり感動することは無かったんですね。


そういうわけで、嫌がらせみたいな暴力シーンの数々が面白い映画でした。僕の好みではありませんが、こういうタイプの映画が好きな人は必見でしょう。食人映画としては、設定の面白さから名を残す映画かなと思います。