リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『野蛮なやつら/SAVAGES』を見た。

蛮人博覧会inカリフォルニア
オリバー・ストーン監督最新作です。ドン・ウィンズロウによって書かれた同名小説が原作となっています。テイラー・キッチュアーロン・ジョンソンベニチオ・デル・トロジョン・トラボルタら、豪華キャストが集合。


カリフォルニア州ラグーナ・ビーチ。チョン(テイラー・キッチュ)とベン(アーロン・ジョンソン)は共同で営むベンチャー事業(高級大麻の栽培)で大成功をおさめ、若くして大富豪になっていた。彼らはオフィーリア(ブレイク・ライブリー)という共通恋人を持ち、3Pを楽しんだりと自由に暮らしていた。しかし、女帝エレナ(サルマ・ハエック)仕切るメキシコの巨大麻薬組織がオフィーリアを拉致し、強引に業務提携を迫ってきたことにより事態は一変する。オフィーリアの命を守るため、エレナの言いなりになって動くチョンとベン。しかし、「1年間は女を返さない」と言われた彼らは、ついに反撃に出るのであった・・・

いやー楽しかったです!まともなやつが一人も出てこない、ノリノリのセックスドラッグバイオレンスムービーでしたね。オリバー・ストーンも66だというのにこんな映画を撮るとはね。昨年『プロメテウス』が公開されたときにも「リドリー・スコット70過ぎでこんな映画撮るのか・・・」と思いましたが、どうも年を取るごとに落ち着くどころかむしろ暴走が加速する監督もいるみたいですね。オープニングから拷問シーンですからね。生首ごーろごろっ!てね。
オリバー・ストーンといえば『プラトーン』や『ウォール街』など骨太なドラマを取り扱ったり、父と子の葛藤のドラマを描く監督というイメージがあると思います。ただ彼はそういった作品を撮る一方で『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を撮った男でもあるわけですからね!本作も、あそこまでとはいかずとも、チャラチャラした、悪ノリ感のある映画でした。



ナチュラル・ボーン・キラーズ』は個人の暴力を擁護するように描き、社会の暴力を嫌悪する映画でした。つまり『時計じかけのオレンジ』的な要素のある作品だったわけですが、本作もその血を受け継いでいました。巨大な麻薬組織に女と自由を奪われた男たちが、その圧倒的な暴力に立ち向かっていくわけですね。その中で、平和主義者だった男も、偽善性をはぎ取り、暴力的になることを余儀なくされていきます。とはいえこの映画では、それについて否定的だったり、問題提起をするようなことはないのです。
そして『ナチュラル〜』と違うところ、それは集団である麻薬組織側の人間も、否定的には描かれていないところだと思います。本作で肯定されているのは、欲望に向かって動く、野蛮人の姿なのです。タイトルの『野蛮なやつら』というのは登場人物全員の事です。恋人を共有している3人のことを組織側は「野蛮人だ」と言い、その3人は組織のことを「暴力的で野蛮だ」と言います。本作はそんな野蛮人共が暴れまわる姿を楽しく描いていました。



さて、そんな野蛮なやつらの中でも最も野蛮感があったのはベニチオ・デル・トロですね。エレナの腹心の部下である彼の、まあ良い悪役っぷりたるや。やってることの恐ろしさやゲスさももちろんですが、顔の力がもう半端ないですからね。にらめっこギリギリのいい顔です。脂乗りすぎです。そんな脂っこーい顔のデル・トロがブ厚〜いステーキをむしゃむしゃ食うシーンなんて画面のコレステロール値の高さにノックアウトですよ。悪徳警官を演じたジョン・トラボルタとのシーンも最高でした。トラボルタのあわてっぷりが超面白くてね。トラボルタもそんな感じでおいしい役でしたよ。結構悲しい役のはずなのに悲壮感ゼロなのが良し!
非情な女王様でありながら、慈愛のある母親でもあるという麻薬組織のボス、エレナも貫禄があって良かったですねー。演じたのはサルマ・ハエック。見た目が『ヘルタースケルター』のエリカ様みたいでした。エリカ様もこういう役やればいいのにね。『ヘルタースケルター』みたいにビービー泣いてばっかじゃしょうがないですよ。ともかく、脇の人間がいい味出しまくりでした。



彼らに比べるとちょっと霞んでしまうとはいえ、主役3人組もハマってました。赤字男ことテイラー・キッチュの野生っぷり、『キック・アス』ことアーロン・ジョンソンのなよなよ非暴力野郎っぷりがハマっていましたね。
男2人に女1人というのは、いろいろな映画で見かけます。劇中でも触れられていた『明日に向かって撃て』はもちろん、『ダーティーメリー・クレイジーラリー』『冒険者たち』などなど。ただ本作が面白いのは、親友同士が愛する女を共有し、女もそれぞれを愛しているという点ですね。「私が二人の帰る場所」みたいなこと女は言ってました。二人の中心でありながら、物語もこの女を巡って色々動いているように見えます。
でもこのブレイク・ライブリー演じるオフィーリアという女、実は最も愛のない描かれ方をしているのでは?と僕は思いました。まず、男2人が彼女を愛しているという事にはなっていますが、どうも男2人でずっといるために女を共有してるようにしか見えないんですね。親友とは言っても、女ができればそっちに時間取られちゃうじゃないですか。だったらもう、同じ女を愛せばいいじゃない!そうすれば一緒だしね!みたいな感じがしましたね。実際、この女はサルマ・ハエックに「彼らは別にあんたを愛してるわけじゃないわ」と言われていましたし。



他にもブレイク・ライブリーに関しては「こいつ空気読めないなあ」と思うシーンがあってですね。拉致監禁されて数日経ったときに「ピザばっかりじゃなくて野菜を食べさせて!」とかこの女言うんですよ。もうね、黙っとけと。
本作で野菜食うのはこいつくらいなもんです。後は肉とかファストフードですよ。サルマ・ハエックラムチョップをほおばりますし、デル・トロは先ほど書いたステーキもそうですが、トマトの入ったサンドイッチからわざわざトマトを抜いて食べるというシーンがありますからね。野菜なんていらないんですよ。そんな肉々しい野蛮人たちの中で「野菜ちょうだい」って、いや、お前さぁ・・・
ブレイク・ライブリーは野蛮人の中では唯一人を殺さない人間であり、自分の欲望のために何か動くという描写がありません。それゆえ、この濃いメンツの中では印象が薄くなってしまったのでしょう。それはもう仕方ないのです。でもさ、じゃあせめて脱げよ!と。こんな役なのにお前脱がないでどうする!?と僕は思いましたよ。
ちなみに、監禁される彼女に同情心を抱いてしまう組織の青年がいましたが、彼の始末については笑っちゃいました。野蛮になれないやつは、この映画では用無しってことです。草食系とか優男なんてのはもう滅びればいいんですよ。



女優が脱がないという事以外に残念だったのは、序盤に比べ中盤以降がちょっと退屈だったかなということですね。これはおそらく終盤に、テイラー・キッチュアーロン・ジョンソンが仕掛ける<ある人物を使った反撃>に至るまでが長すぎることが原因だと思います。観客はかなり初めの方からその反撃に出ることが予想できちゃうんですよね。まぁ途中途中で愉快なシーンがありますが、もうちょっと早くそこに辿り着居た方がよかったかと。



というわけで、完璧な作品では全然ないですし、おちゃらけた雰囲気がどうかと思う人もいるでしょうが、僕は好きな映画でした。カリフォルニアのカラッと陽気すぎる気候の感じに加え、色の強い画面、音楽(麻薬組織からの連絡が来たときに流れるのがベートーベンの「トルコ行進曲」というのところに『時計じかけのオレンジ』イズムを感じる)もなんだか能天気で笑えましたよ。あ、そうそうエミール・ハーシュがチョイ役で出ていて驚きました。最近何やってんだと思ったらこんなところに!である。
巨匠の撮ったノリノリのバイオレンス映画。オフィーリアという名前や絵画、『O嬢の物語』などから色々考えるような野暮なことはやめましょうよ。「映画はバイオレンスとセックスだろ!」そう思っているみなさんにお勧めです。

ナチュラル・ボーン・キラーズ ディレクターズカット [Blu-ray]

ナチュラル・ボーン・キラーズ ディレクターズカット [Blu-ray]